4. サスティナライフ森の家の取り組み:
自伐林業と復興支援住宅
それは、夢を形にするプロセスでもあった
ヨハナ 木の家ネット ヨハナ:一連のお話を聞いていて、これは被災地の復興支援でもあるけれど、どのような未来を作って行きたいのかということをよりはっきりさせていくことでもあったのだろうなと感じました。
大場 大場江美さん:家族を失った子ども達のためであると同時に、自分たちのためでもあったと思います。それが表裏一体だったからこそ、情熱をもってがんばれたのかもしれません。
ヨハナ 「手のひらに太陽の家」の枕詞として「持続可能な復興共生住宅」というコピーがついています。仮設住宅、復興住宅というだけでなく「持続可能」「共生」ということを実現しようとされたことが、支援者となっていた企業や団体や個人の共感を得たのではないでしょうか。
大場 失ったものを補うだけでなく、そこにプラスの価値を付加していく。そのことで、前を向いて生きていける。そこが、何家族分のこういう広さの住宅を何戸用意しましょう、というだけのこととは、違うところですね。
ヨハナ 建築は、誰が、どのような思いで、どのような素材を使って、誰に建ててもらうのかで、出来上がったもののもつ包容力とかあたたかみがまるっきり違ってきます。建物そのものだけでなく、建物にかかわる人の流れ、お金の流れもまったく変わってきます。
大場 やはり、取り戻したいんです。地元がより豊かになるために、地元でまわしていく。そのことで、地元に活力が戻ってくるはず。「すべてプレハブ協会がする手はずになっている」というのが、震災当時の状況でしたし、今も復興住宅の建設も、大手住宅メーカーの仙台支社が営業してまわっているような現状があります。けれど、それでは、地域の雇用にも、地元の山の健全な運用にも、風土にあった風景も、自然にねざしたエネルギー自給にも結びつかない。そこを変えていきたいですね。
これからのサスティナライフ 森の家
ヨハナ 非営利団体である「日本の森バイオマスネットワーク」も、工務店であるサスティナライフ森の家も、めざしているのは「地球との共生」。自らが動くことで「地域資源を活かした持続可能な未来をつくる」という行動目標も共通しています。「手のひらに太陽の家」をつくることを通して、そのめざすところを形にできたのは、とても大きなことだったと思います。それも、多くの賛同者、協力者を得ながらできたということは、これからの未来を作って行く仲間が増えたということでもありますよね。
大場 そうですね。ネットワークも工務店と同じメンバーがかぶってやっているので、非営利活動と仕事とのバランスをとるのが難しい面はありましたが!
もっともっと関われる森づくりを
「エコラの森」での取組
ヨハナ これから、どんなことをしていきたいですか?
大場 自分たちで森づくりをして、そこの森で伐った木で家づくりをするということを流行らせていきたいですね。
ヨハナ 森づくりから取り組むということですか。地元の木で家を作るというところから、もう一歩踏込みましたね!
大場 家を作るのも、森づくりに関わるのも、お施主さんであってほしいのです。「自分が関わっているあの森の木で、家をつくる」という意識です。そのために「NPO法人しんりん」を立ち上げ、放置されていた山を整備、育林するところから始めています。
ヨハナ どこでやっているのですか?
大場 大崎市鳴子温泉の川袋温泉地区に25年ほど前にリゾート開発に失敗した後、乱伐され放置されたままの260haの荒廃した森林買取り、ここを「エコラの森」と呼んで活動の拠点とし、プロの「きこり」の伊藤淳さんが常駐して森の整備を進めています。
ヨハナ 「エコラ」というのはどういう意味ですか?
大場 星正晴さんが出された絵本「エコラ」に登場する「地球にやさしい怪獣」というキャラクターから名前をいただきました。この「エコラの森」を整備しながら、雑草を片付けて整地して植林したり、山菜やキノコを育てたり、間伐材を出荷したり、さまざまに利用しながら、森をよみがえらせています。
ヨハナ そこに、一般の人が関われるということですね?
大場 じつは、「NPO法人しんりん」の真の目的は「一般の人を『きこりさん』にする」ことなんですよ!二日間の日程のチェーンソー講習を実施して、伐採までできるような人材を育てます。プロにならなくてもいいんです。家庭菜園や日曜大工の延長で「日曜林業」ができる「きこりさん」、いいでしょ? 森の手入れや木の伐採を指導しながら、森の整備に関わっていただき、きのこや山菜など森の幸も楽しんでもらう。そんな森での体験が、いつか家を建てることになった時に「その森で伐採した木で家を建てる」ということにまでつながっていけばいいな、と思っています。
ヨハナ 自伐林業ですね!
大場 これまでは、山の所有者が整備や伐採といった施業を外注するというケースが殆どでした。けれど、それでは、どうしても赤字になってしまう。所有者自らが、自分の庭を管理するような感じで森に手を入れ、伐採して自分で使う、あるいは売って自分の利益にする、というような、小規模で持続可能な林業を支援したいし、自ら作ってもいきたいんです。「エコラの森」は、自分で森をもっていない人が使える「みんなの森」として位置づけています。
ヨハナ 自分の森、自分たちの森であれば、山の幸を収穫して楽しんだり、ツリーハウスやビオトープを作って遊んだり、キャンプしたり、いろいろできそうです!それがさらに、家づくりにまでリンクしていったら、おもしろいことになっていきますね。ところで、何本くらい木を伐採したら、30坪ぐらいの標準的な家をつくる分の材をまかなえるんですか?
大場 木の家ネットのほかのつくり手のみなさんのところもそうだと思いますが、無垢の木をあらわして手刻みでつくる家は、サスティナライフ森の家の場合、胸高直径24cm-26cmの木で高さが16mぐらいの木だと、歩留まりを考えるとおよそ370本です。今、一般的な新建材を使う木造住宅だと、160本ですから、かなり多いですよね。
ヨハナ なるほど。なぜ伝統的な木の家、無垢材をあらわした家が山を救うのが具体的にわかる、説得力のある数字ですね。自伐林業と家づくり、なんとも期待できる組み合わせです!全国的に広がっていくといいですね。
大場 「NPO法人しんりん」でも、今年の5月から、東鳴子温泉の大沼旅館さんと提携した「湯守の森プロジェクト」というあらたな取組みをスタートしました。福島に落とし込み板壁の木造仮設住宅を実現された安藤邦廣先生にご指導いただきながら、その森の木を使って板倉の家をつくる「板倉マイスター養成講座」が始まっています。
ヨハナ 興味深いですね〜。水源涵養、二酸化炭素の吸収、レクリエーションなどいわゆる「森林の公益的機能」が入り口になりながら「森の生産的機能」である森とつながる家づくりにまでつながっていく、そんな流れを人々の間に生み出しているのですね。建築材とまではいかなくても、森から暖房に使う薪やペレットの材料をとることもできそうです。
大場 森の整備に関わり、薪を持ち帰るという方もいらっしゃいますよ。自伐林業が持続していくためのひとつのポイントは、お金をかけない、良い方法があれば、試してみること!最近、下草刈り部隊として、牛を飼い始めましたが、カノジョたちは那須にある森林ノ牧場さんから譲っていて、こちらに来てくれました。毎日毎日、下草を刈って食べてくれるので、大助かりです。
ヨハナ 江美さんに「エコラの森にいらしてください!牛を飼い始めたので」と言われた時には、森の隣に牧草地でも作ったのかなーと思っていたんですが、森に住んでいるんですね。
大場 次は、名取市で津波で被災した養豚業者さんのところの津波を生き延びた豚を連れて来て、余生をエコラの森で過ごしてもらいながら、植林をするところの地ごしらえをしてもらう「有賀豚(ありがとん)プロジェクト」を考えています。馬を連れて来て、伐採した木材を馬で搬出する馬搬やホースセラピーもいいな〜
ヨハナ 森と人だけでなく、生きものもいっしょになっての共生ですね!森に連れていっていただいた時には、敷地内に見つけたわき水のまわりをビオトープとして整備するのに夢中な方もいらっしゃいましたね。
大場 バックフォーという小型の機械でのプチ開発で、自然な形を活かして森で遊べるようにしていって、親子連れで楽しんでもらえる森を作っていきたいと思います。
ヨハナ ここまでいろいろお話を聞いてしまうと、「エコラの森」に行ってみたい!という人が続出しそうですよね。一般の人がどのように「エコラの森」や「湯守の森」に関われるか、具体的にお聞かせください!
大場 森に関わりたい人には、「NPO法人しんりん」のプロのきこりさんの手ほどきで二日間の「チェーンソー講習」を受けていただきます。そして実地で、森林整備や伐倒作業をいっしょにします。作業した人には「モリ券」という地域通貨が発行されますので、加盟店で、ペレットや家具といった林産物を買う代金、食事、「手のひらに太陽の家」の宿泊費などにお使いいただけます。詳しくはサイトをご覧ください。
被災地の未来に向けての復興を
支援する工務店としてがんばりたい
大場 工務店としては、津波で被災した沿岸部にも、地元の木をふんだんに使った家や建物の建設を手がけています。
ヨハナ もう大分進んでいるのですか?
大場 いいえ、ほとんとが「これから」ですね。県外のみなさんから見れば「震災から3年も経つのに、まだ家が建たないの?」と思われるかもしれませんが、もともと家が建っていた浜は、津波警戒区域となり家を建てられないので、まずは高台などに敷地を造成するところから始めないとなりません。造成に至るまでも、その土地の権利関係の整理、土地購入やインフラ整備など、さまざまな手続きや段取りが必要で、復興住宅建設はようやく「これから」というところです。今やっているのは、高い防潮堤を築くことですよ。そこに資材も人手も割かれていて、なかなかその先にある高台移転にまで手がまわらないようです。
ヨハナ 先日、宮城県牡鹿半島の福貴浦でもお話をうかがいましたが、「高台移転がもう始まっている」とすれば、いい方。「完成していればおどろくべき早さ」と言っていいぐらいです。
大場 再建しなくてはいけないのは、家だけではありません。地域の施設、生業のための建物などもあります。いずれにしても「以前よりも、もっといいものを」つくることで、未来への希望をもてるよこと、元気になっていただけることを目指しています。
白壁の美しい街並みをつくる三棟の家
三家族で敷地を造成分割しての復興住宅
大場 震災から丸三年が経ち、ようやく移転先の400 坪の敷地の造成が完了。三家族で分割し、それぞれの復興への想いを載せた家づくりが始まっています。三家族三様の家が、外観は白壁を基調とした漆喰仕上げで、趣のある街並みになる予定です。三棟が連続して上棟を迎えたため、大忙しでしたが、皆様がここから力強い一歩を踏み出していっていただけますように願っています。
前浜マリンセンター
住民の手で再建する地域の文化拠点
大場 今、手がけているのは、震災によって流出したコミュニティセンターを行政主導でなく、住民の手で再建するという「前浜マリンセンタープロジェクト」。20代〜60代の地域住民が建設委員として参加して、地域材を伐採したり、間取りを議論したり、ワークショップで焼き杉やウッドデッキを作成しました。新しくできるコミュニティセンターが祭などの文化活動の復活、防災拠点、地域復興のシンボルとして活用されています。
ワタママ食堂
地元のお母さん達が働くお惣菜屋さん
大場 東日本大震災で大きな被害を受けた石巻市渡波地区で、渡波のお母さんたち(ワタママ)が手づくりする弁当を販売、配達を行ってきたワタママ食堂。仮設住宅や被災したお年寄りに弁当や総菜を届けて好評を得ていましたが、店舗の解体に伴い2012年4月に閉店しました。その復活を望む地域の声に応えて、木造平屋建ての店舗を新築しました。調理場と販売コーナーのほか、住民が団らんできるスペースも設けました。
ヨハナ 一棟一棟、丁寧にコミュニケーションされているのが伝わってくるようですね。これからも、ますますお忙しいとは思いますが、持ち前の素晴らしいネットワークを活かしながら、がんばってくださいね!
1.「手のひらに太陽の家」の概要
2. 東日本大震災の発生〜「手のひらに太陽の家」構想の誕生
3. 「手のひらに太陽の家」プロジェクトが実現するまで
4. サスティナライフ森の家の取り組み:自伐林業と復興支援住宅