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家のお風呂 こうやって作る、こうやって保つ


前回は「お風呂が家にある=あたりまえ」以前&そうなるまでの歴史をひもときました。家の中に風呂を持ち込むということ=水がかりのリスクを負うことでもあるということ、ご理解いただけたかたお思います。

さて、今回は、どこかの現場のお茶の時間。大工さんたちが風呂=水談義をしているところに、ちょっとお邪魔してみましょう〜

「風呂は離れにっ!」
・・って、言えないけどなあ

大工1 「風呂は、離れにしたい」ってのが、俺の本音。極端な話、ドラム缶風呂でも露天部風呂でもいい、夏は行水ですませりゃいいじゃん!・・って、まあ、なかなか施主にそこまでは言えないけどさ。けど、わが家のお風呂は離れだよ。

大工2 お前んとこは山ん中だからいいよなあ。気持ちは分かるけど、敷地の問題もあるし、母屋にお風呂のない家なんて今じゃなかなか作れないよ。俺は風呂入るたんびに外に出て、なんて、ヤだね!・・・けど、大工としては、気持ち、分かるよ。

大工1 木と水ってさあ、ほんと、危険な関係だもんなあ。風通しのいい場所なら、濡れても乾くけど、陽の当たらない密閉された環境で、水がかかるっての、きびしいよね。

大工2 風呂場って湯気もたつしさ。あの温度も曲者。洗い場まわりの、空気が淀んだ蒸れたような場所で、あったかい水がかかる木部なんて、ほんと腐朽菌の温床。水回りの改修なんかで「うわ〜〜っ、見たくねえ!」ていう状況、あるよね〜

大工1 あるある!

シャワーの普及で
水がかりに無意識になってないか?

大工1 風呂場まわりの木部って、シャワーの普及で昔より劣悪な環境になってるって思わん? あのミスト状の滴が、お風呂の木の壁とかにじゃんじゃんかかってさあ!

大工2 改修で入った古い家でさ「水まわりに土壁かよ!」ってびっくりしちゃったんだけど、風呂桶が真ん中に据えてあって、そのまわりの洗い場が腰から上、土壁下地の漆喰塗りっていう風呂場があったよ。

大工1 浴槽のお湯を手桶で汲んで、しゃがんだ姿勢でかぶるぐらいなら、そんなに水がかりもなかったのかもな。

大工1 まあ、今のご時世にはあり得ない施工だね。シャワーをジャージャー使っている時は、壁に水がかかることなんて気にもしないもんな。昔は壁を濡らさないってことが、家を維持するためにあたりまえの、たしなみ?みたいなことだったんだろうけど、そんな気遣いは失われちゃったよね。

「サツキとメイの家」のお風呂場は
こうやって作りました。

大工さんたちが話しているのは別の現場のことですが、似た作りのお風呂場があったので、ご紹介。木の家ネット会員の中村武司さん(工作舎 中村建築)、増田拓史さん(muku建築舎)たちがつくった「サツキとメイの家」のお風呂場の施工写真です。

レンガで構造をつくり、金属製の風呂桶をいれる。お風呂場の壁の腰から上は土壁で、先に左官が壁土を塗ってからタイルの作業に入る
タイル屋さんが1枚づつタイルを張っていく。タイルは1枚1枚微妙に形が違うので、綺麗に貼るのは難しい。
完成。色違いのタイルでつくった、ちょっとした模様が楽しい。

大工2 ほら、子どもなんかがさ、風呂場から水びたしのまんま走って出てくこととかあるよね。「中で手ぬぐいで拭いてから出てこい!」って叱られることもなくさ。温泉に行くと脱衣所との間のガラス戸に張り紙があったりするけどね。

大工1 家を長持ちさせるには、濡らさない。だから、濡れたら拭く。風呂場で拭いてから出て来る。基本中の基本なんだけど、ちょっとそこんとこ、忘れてやしないか?ってことだよね。木の家の引渡しん時には、そこんちの母ちゃんに伝えとかないとな!

風呂場周りの腐朽状況

現場施工 在来風呂の
決め手を握るのはタイル屋さん!

大工2 水のリスクとどうつきあうかって話だけどさ。水に強い素材でぴっちりと閉じたハコつくって、そん中に洗い場も浴槽もおさめて、給水管も排水管も直につないじゃって家の躯体には水の影響が及ばないようにするっていうのが、ユニットバスの発想だよな。

大工1 マンションなんかだとさ、下の階への漏水のリスクって大きいから、ほとんどユニットバスにしてるよね。躯体の腐蝕リスクに対する、まあ、ひとつの考え方ではあるし、工期が断然短く済むのは、大きなメリットだね。専門職じゃなくても、ちゃんとした品質の風呂が施工できて、人手不足の今じゃあ助かるよ。

大工2 職人がそんなこと言っちゃいけねえよ! それに好みの問題だけどさ、俺はやっぱり木の風呂桶が好きなんだよ。湯船に入って「ぶはぁ〜」って体を伸ばした時、両腕や背中に触れるのが木だと実にリラックスできんだなぁ。今となっちゃあ、ちょっと贅沢な話かもしれないけどよ、何事も手づくりが基本の職人の本音だよ。

在来風呂は、しっかりした
タイル施工があってこそ

大工1 そう考えると、施工の自由度が高くて自然素材を使える在来(=昔からあるやり方という意味)の風呂、予算の兼ね合いもあるけど、やっぱり、魅力的だよね。

大工2 だよな〜 俺もそう思うわ。けど、現場で施工する在来風呂には、水がかりに強いタイルとか石とかの、ちゃんとした施工が必要だよね。

大工1 そう。木部への水リスクを減らせるかどうかは、結局、タイル屋さんがきっちりした仕事をするかにかかってる。そういえばさ、何年前かに木の家ネットに腕のいいタイル職人が入ってきたじゃない?

大工2 そう、そう! 神奈川の小澤啓一さん(有限会社プローブ)ね。高知の総会でタイルのダンゴ張りの話をしてくれて、面白かったな。風呂場の話するなら、それ、まず小澤さんに聞かなきゃ!

施工中のお風呂場に
タイル屋の小澤啓一さんを訪ねて

基礎コンクリートのある家では、お風呂場はそれ以外の部分よりもコンクリートを高く施工します。給水・給湯・排水など設備関係の配管を仕込んだ上で、風呂場の壁や床になる下地となるモルタルを塗ります。その上で、壁や床に、水に強く、かつ足あたりのいいタイルなどを貼ります。

在来風呂の施工をするのは、大工ではなく「タイル屋さん」。木の家ネット会員で唯一のタイル屋さんの小澤さんを訪ねて、山梨県北杜市白州町の現場にでかけてみました。

有限会社プローブの小澤啓一さん

接着剤で貼るんじゃなく、
ダンゴでくっつけて積んでいく

ヨハナ (木の家ネット事務局・ヨハナ)小澤さんの仕事って、どんな仕事ですか?

小澤 (有限会社プローブ・小澤啓一さん)水が漏ることなく、気持ちよく風呂に入れるよう、どこまでも正確なタイル施工をするのが僕の仕事です。「ダンゴ張り」という方法でやっていて、精度では誰にも負けません。

ヨハナ 「ダンゴ張り」って?

小澤 今の普通のタイル施工って、一枚一枚張るんじゃないの、知ってました??

ヨハナ ええっ、違うんですか!? それはびっくり!

小澤 タイルが縦横に並んでいる、壁紙みたいなシートを、下地のモルタルに接着剤でビャーッと貼ってくの。いわば、平面でくっついてるわけ。ぼくのやっているダンゴ張りは、そうじゃなくて、一枚一枚の個別のタイルが、ダンゴ状にしたモルタルを介して、立体的にくっついているの。

小澤 モルタルダンゴが含むお水をね、下地のモルタルとタイルの陶器面とが、くっと「吸う」の。そのわずか20秒くらいの間に、タイルの位置を確定するというのが、ぼくの仕事の緊張感。接着剤でくっつけるタイルの「はる」は「貼る」だけど、ぼくの仕事にあてる字は「張る」。まあ、下から積み上げていくので「積む」という感覚だけどね。

ヨハナ タイルを張る下地も、タイルをくっつけるダンゴも、おんなじモルタルなのですか?

小澤 タイルを張る下地としてコンクリート基礎に塗るモルタルには、セメントと水と砂という通常の配合に加えて、少し海藻糊を入れてます。乾いてから、わざと少しかきおとして、面を平滑でない状態にして、ダンゴにするモルタルがくっつきやすいように細工したりしてます。

小澤 ダンゴにするセメントは、砂と水の配合がむずかしいね。セメントが多すぎれば剥がれちゃうし、砂が多すぎればボロボロになるし。配合は分量でなく、場数を踏んでいるうちに、感覚的に分かってくる。湿度や温度が違えば、適切な配合というのも変わるしね。だから、季節や地域に応じて臨機応変に配合は変えてます。

見て、やってみて
一人前のタイル屋になっていく

ヨハナ お風呂場って、狭いし、ひとりで施工するスペースしかないじゃないですか! 親方と仕事に行っても背中見てるしかないという状況で、どうやって仕事を覚えてくんですか?

小澤 その通りなんだよね。大工だったら「この材のそっち持ってて」とか「あの材、積んどいて」とか、手元仕事がいくらもあるけど、タイル屋だどないからなあ。親方にくっついてって、仕事ぶりを見る中で覚えてくしかない。ひたすらじーっと観察して「こんな具合に混ぜるんだな」っていう理屈を「見て覚える」。

ヨハナ 見てるだけで、できるようになるもの?

小澤 そんなことは、ないさ! じーっと見ている日々を重ねてくうちに、いきなり親方に「やってみな」って言われる。で、やってみる。けど、見てるとできそうなのに、やるとうまくできないんだよね。「そうじゃねえ、こうだ」みたいに取られてね。その「できない」悔しさ、じれったさから学んで、その先を覚えてく。そんな繰り返しで、感覚をつかんでくんだね。

小澤さんが使うコテ。これでもごく一部。

ヨハナ タイルを積む工程で、いちばん大事なことは?

小澤 最初の一枚を張るまでに、正確な仕上りを得るための完璧な段取りを組むことです。風呂場に関わる職人って種類が多くて、タイル屋はその最後に入るわけだから、ぼくが現場に行く頃には、風呂場はタイル以外は、ほぼできているわけ。といっても、タイル屋目線で見ると、微妙に矩(かね=水平垂直のこと)が出てなかったりする。

ヨハナ そうそう! 古民家のわが家の風呂場に改修工事で入ったタイル屋さんが「この家にはカネがねえ」ってブツブツ言ってて。お金の話かと思って謝りそうになったけど「どのラインもまっすぐじゃなくて困る」ということだった、ってことがありました。

小澤 その上、積んでくタイルそのものも、真四角じゃなく寸法誤差があったりするからね。そんなキビシイ条件下で、仕上りはピタッっと、タイルの目地の縦横が0.1ミリも狂わずに合うような仕事をしなきゃいけない!

ヨハナ うわあ。フリーハンドで空中に正確なグリッドを書くようなものですね!

小澤 最終的にどこにもしわ寄せがいかないよう、帳尻の合う段取りをするために、ほんとに丸一日は考え込みますよ。「できた!」と納得できるまでね。で、納得の上での正確な墨を打って、積み始める。ここが一番大事なところだね。

ダンゴ張りのタイルは
一枚一枚積んでいくから、長持ち

ヨハナ ダンゴ張りのよさって?

小澤 長持ちということかな。今、主流の、接着剤で面状のタイルを貼るのを「圧着式」っていうんだけれど、接着剤を塗った平面だけでくっついているわけ。50年とか長い時間のうちには、接着面がぺろんと剥がれてくるよね。けれど、ダンゴ張りだと、一枚一枚のタイルが、モルタルのかたまりを介して下地とくっついているんだから「面でパラリと落ちる」ということは、ない。

ヨハナ 面状になっているタイルをピャーっと接着剤で貼るのと、一枚一枚積んでくのとでは、手間がすいぶんと違いますよね?

小澤 工期は3倍くらい。圧着タイルだと2日で終わるところが一週間かかるから「ずいぶん日にちがかかるんだね」と言われることもあるけれど、この精度の仕事しててこの日数でできてるのは、早いくらいだと自負してます。

ヨハナ 2日と一週間の人工(にんく)の差はあっても、仕上りの質がここまで違うことが分かれば、ダンゴ張りで頼みたくなりますよ〜

小澤 とはいえ、予算的に余裕のない家づくりが多いからね。風呂場にかける予算のない現場だったりすると、ぼくの人工を払う日数を抑えるために、5時半から現場に入ったりすることもあるよ。

ヨハナ ええ〜っ!サービス早出ですか?!

小澤 日当が何日分しか出ない、っていう中で質を高めたいとなればね。

ヨハナ すごい心意気。けど、こういう作り方をしているというのを理解してもらって、その分は予算をみておいてもらわないとね!

小澤 まあ、仕事の中身までは見えにくいからね。なかなか理解されないよ。

ヨハナ このコンテンツを読んでいる、あなた!には分かってもらえましたねっ

チームワークがあってこそできる
最高の施工風呂!

設計士の日高保さんは、家づくりをする時のさまざまな職人さんたちとチームで仕事をしています。風呂周りは、水道屋は森田水工の森田敦彦さん、タイル屋は小澤さんと、決まっています。

日高 最高のチームが成り立っているからこそ、在来での木のお風呂が実現できる。ありがたいことですよ。ほんとに、これは、バッチリなタイル施工をしてもらえる職人さんがいなければ、そして、いいチームワークなしには、できないこと!

「きらくなたてものや」の設計士、日高保さん。設計図面を引く傍ら、竹の伐採をして、土壁のための竹小舞を編んだり(三角形の小舞をつくるのが得意)、泥をこねたり、太陽光で料理したりと、いそがしい人です。

小澤 ぼく一人だけでいい風呂場ってできないんですよ。大工、基礎屋、水道屋と、順々に仕事していったあとでしかタイルは張れないから、その前段階で、チームのみんなと密に打ち合わせをします。お互いの立場を持ち寄って合議した上で、みんなで納得できる墨を決める。そんな関係性あってこそ、混成チームで作る最高の風呂場!ができるんです。

足あたり、肌触り、あたたかみ
五感がよろこぶお風呂です

ヨハナ 最近のイチオシのお風呂を見せてください!

小澤さん施工による、助産院「バースハーモニー」の浴室

小澤 これはタイルじゃなくて、十和田石の施工例。壁は青森ヒバ。横浜の助産院のお風呂なので、妊婦さんにリラックスして入ってもらえるように、素材にこだわりました。一口に石といってもいろいろあって、十和田石は、湿気や湯垢に強く、足あたりもやわらかくて、風呂場にいい石です。洗い場にも浴槽にも使えるしね。経年変化で黒くなってくんだけど、それが味にもなる。お湯を通して人の身体に摂取され得る微量のミネラルも出ているらしい。

ヨハナ ここで生まれる赤ちゃんは、このお風呂で産湯をつかうということですね!

小澤 そういうことになるね。風呂は、汚れを落とすだけでなく、疲れをとる、ほっとする、ほどけるためのリラックスできる場所にしたい。洗い場の床にしても浴槽にしても、裸で触れるのだから、ひやっとしない素材を提案したい。毎日、そしてずーっと長く使うものだからこそ、素材の単価や施工性だけでなく、何を大事にするかをよく考えて、価値観をもって選んでほしいですね。

次ページでは、お風呂の手入れについて、お施主さんに訊きました


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