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冬の温熱調査合宿報告


木の家ネットの事務局を担う持留和也・ヨハナの事務所兼自宅が、山梨県北杜市の八ヶ岳南麓の、築70年の古民家にあります。

木の家ネットの有志からなる「温熱チーム」で、この古民家を対象として、昨年と今年の厳冬期に、2014年1月31日-2月2日「寒い持留家をどうする?温熱環境アイディアコンペ」、2015年2月14日-16日「数字で出そう!古民家の温熱環境性能」と、二回にわたって「冬の温熱調査合宿」を実施しました。

今回はその報告を通して、古民家の温熱環境性能について考えます。

温熱チームとは?
その問題意識

「温熱チーム」とは、伝統的木造住宅に学んだ家づくりの室内環境を考えたり、より良くしたりすることをテーマに、木と土壁の家づくりを設計している東京の林美樹さん、高橋昌巳さん、神奈川の山田貴宏さん、熊本の古川保さんを中心に、そのときどきで参加するほかのつくり手にも参加しながら、ゆるやかに活動しています。

2020年までに国が定める温熱基準をすべての新築住宅について義務化しようとする「改正省エネ法」が、伝統的木造住宅にとってかなり問題が多いと感じたことから、活動をはじめました。

その問題点とは、国が定める基準が「断熱性能をあげることが省エネにつながる」と前提に立っているものである、ということです。そのような基準に照らせば、建物が外界と接する「外皮」部分の断熱性能が高くなければ、家が省エネであるとは見なされないことになります。

省エネ基準では、省エネを実現するためには高い断熱性能を、と求めます。しかし、伝統的な木造住宅のように、外皮性能はほどほどであっても、エネルギーを低く押さえ、環境に負荷をかけない暮らしを実現できる家があります。そこを表明し、伝統的な木造住宅を作りづけていくことができるようにしなくては、というのが、温熱チームの、当事者としての問題意識です。みんなで情報をやりとりしながら、改正省エネ法の問題点について意見をまとめたコンテンツを発表しました。

こちらをご覧ください!

同じようテーマで活動しているJIA日本建築家協会の中の温熱環境WGに自分たちの施工例のデータを渡し、実例を通して例証することにも協力しています。

日本の気候風土に合った
温熱環境調節の手法があるはず

もう少し分かりやすく、温熱チームが考えていることを、お伝えしましょう。

北海道のように寒さが厳しいところでは、断熱性能をあげ、開口部を最小限にし、機械空調する「自然を遮断」する家づくりが必要でしょう。改正省エネ法で施行されようとしている省エネ基準は、北国でのニーズから、北海道のように寒いドイツに学んで生まれたものであり、採用している評価軸も「自然を遮断」する系の発想にもとづいています。

しかし、ドイツと違って南北に長い日本では、それぞれの地域に合った家づくりがあるはずです。

左は北海道のチセ。右は奄美大島の民家。現代の高断熱住宅はチセに近いかもしれない

関東より南の温暖地では、それが、伝統的木造住宅にも見られるように、外界に対して閉じるのでなく、むしろ、陽射しや風通しといった外界の変化をうまく取り込みながら、自然な暮らしを実現する家づくりが一般的でした。

たとえば縁側は、伝統的木造住宅の「自然とのつながり」を大切にしたつくりのひとつです。夏の暑い時期には、掃き出し窓も障子も開放して室内に風を抜けさせ、冬は障子をしめた内側だけを暖房するといった具合に、縁側が家の使い方を季節によって変えられる「バッファゾーン」「温熱的な緩衝地帯」となっているわけです。

冬の縁側。冬の低い陽射しがぽかぽかと入るので、昼間は猫も人もここに居る。夜になれば、障子をたて、その内側で暮らす。

「外皮」にあたる部分は掃き出し窓と開放的で、外皮性能としてそんなに高くなくても、その内側にある障子を開け閉めすることで、そのさらに内側にある居室の温熱環境を調節することができます。しかし残念ながら、現在の省エネ基準では「外界との境界」である外皮しか見ないので、このような「縁側の効果」は評価されません。

気候風土を考え、「自然とのつながり」を大切にした家づくりでも、少ないエネルギーで気持ちよく暮らす、省エネな生活は達成できる、ということを、例証していくことで「日本の風土に合った」省エネ基準になっていくことを望みます。

一度目の合宿
寒い持留家をどうする?温熱環境アイディアコンペ

伝統的な木造住宅の温熱環境を考える前に、そのもとになっている古民家を、そのよさと欠点とを両方見つめてみようと、2014年2月、古民家の温熱環境の改善を考えることを目的に「寒い持留家をどうする?温熱環境アイディアコンペ」という合宿を行いました。

構造的には住み続けることができても「底冷えがする」「すきま風がある」など、住まい手に「ガマンを強いる」温熱環境であるために、壊されていく古民家はたくさんあります。「温熱チーム」としては、古民家の温熱環境そのままを、評価しているわけではありません。現代人の生活からいえば、そのままでは無理、という場合が多いでしょう。

しかし、伝統的な古民家のよさを活かしつつ、住まい手にとっては冬、寒すぎる事もなく、夏、暑すぎることもなく、気持ちよく暮らせるような温熱環境を実現するための工夫が提案できるはずだと思っています。

持留家も、12年前に引っ越して来た時に「この寒さではとても住めない」と思い、部分的に断熱材を施工する、空気をあたためるのでなく、生の火を焚いてその輻射熱で採暖する暖房としてペチカや薪ストーブを採用するなどの工夫をしてきました。

生火による放射系暖房は、独特の温もりを生む。外皮性能の低い家でも威力を発する。ペチカでは、薪を焚いて、レンガに蓄熱させる。

なんとか「住める」環境にはなっていますが、きちんと設計者を入れて温熱環境を設計したわけではないので、不十分な面もあります。

そんな現状に対してと題して、この古民家で2泊3日した体感を通して「自分だったら、この家をこうする」という、温熱環境改善のための提案を、それぞれの設計者が行いました。詳しくは2ページをご覧ください。

二度目の合宿
数字で出そう!古民家の温熱環境性能

二回目にあたる2015年の合宿では「数字で出そう!古民家の温熱環境性能」と題して行い、実際に人が暮らしているこの古民家に、省エネ基準をあてはめてみたらどうなるか?をテーマに行いました。

「省エネ基準」は、新築住宅に対して外皮性能と設計一次消費エネルギー量という二つの数値を満たすことを求める基準です。

外皮性能とは、家の外側をくるむ外壁や、窓や扉といった開口部についての「熱を逃がさない」性能をさします。まず、地域毎に決められている数値以下に、これを抑えることが求められます。設計図から建物のぐるりと外回りの壁、天井、床の断熱材の入り方や開口部の状況を拾いだすことで、計算できます。この家には図面がないので、図面おこしや外皮性能の仕様のチェックをしました。

集合写真は、左より水野友洋さん、高橋昌巳さん、林美樹さん、住人の持留ヨハナ、中川幸嗣さん。ほかに、横山潤一さんと鈴木直彦さんも参加。

もうひとつの「設計一次消費エネルギー量」とは、設計時点での「これだけの外皮性能の家であれば、これくらいエネルギーを消費するであろう」という予測の数値です。これは、国が用意する計算プログラムに代入して得ることができます。

この古民家についても、計算プログラムに代入してみて、この家で実際に使用た年間のエネルギー消費量と比べてみることをしました。また、同時進行で、参加者が放射温度計を使って、この古民家のさまざまな場所の温度をはかるということもしました。その結果については、3ページ目をご覧ください。

機材協力への感謝

これら二回の合宿にあたって、愛知産業大学 宇野勇治研究室や滋賀県の木考塾の機材協力を得て、冬期間「データロガー」を設置し、室内外の何カ所かでの温度測定も行い、温度データのグラフ化をしています。機材協力いただきましたこと、あらためて感謝申し上げます。

縁側の日当りや薪ストーブからの輻射の効果を計測する、グローブ温度計

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