住まいの省エネ化を実現するには、
多様な方法があります。
家づくりをするのにあたって、ここのところ注目を集めているのが住まいの「省エネ性能」。地球温暖化の進行や、東日本大震災を経て「貴重な資源を大切に使う」ことが、世の中全体に関心事になっている中、車を購入するにあたって燃費のいい車種を選ぶのと同じように、「エネルギーをあまり多く使わずに気持ちよく暮らせる家を」と望むのも、あたりまえのことになっています。
そして「住宅の省エネ化のためには、断熱材を入れましょう!熱を逃がす元となる開口部は小さく!窓やガラスは断熱性能の高いものを!そして、室内には効率のよい冷暖房機器を!」ということが、最近さかんに言われます。これは一言でいうと、家の外と内との境にあたる「外皮性能」を高めること=省エネ、という考え方です。
外皮性能を高めることは、省エネにつながることは確かです。しかし、だからといって、外皮性能を高めなければ省エネができないということではありません。日本の温暖地の気候風土から生まれた伝統木造住宅には、外皮性能だけに頼るのでない方法で省エネな暮らしを実現する知恵がありました。
今回のコンテンツでは、省エネを達成する道筋はさまざまであること、そして、伝統木造住宅の造り方に低いエネルギーで暮らすヒントがあることを、2/16に衆議院第二議員会館で発表した事例を通してお伝えしたいと思います。
日本の気候風土に合った省エネを実現する
伝統木造の知恵について、衆議院第二議員会館で調査報告会
国では、2050年までに低炭素化社会をめざし、建築物の省エネ化をはかるために平成28年4月に「建築物省エネ法」を施行することになっています。これまで、建物の省エネについて国でも「外皮性能を高くすること」を一律に求める傾向にありましたが、これまでにご紹介してきた各地でのフォラムや、パブリックコメントなどの働きかけが実を結び「日本の気候風土に合った省エネな暮らし」「地域型住宅」といった考え方が浸透しつつあります。
そこで、2016年2月16日、省エネ基準が具体化しつつある時期に、衆議院第二議員会館 多目的会議室で「伝統的木造住宅と省エネルギー基準〜調査データから分かる多様性と実態」という調査報告会を開催。「外皮性能はそれほど高くなくても、省エネな暮らしが実現できる」伝統木造住宅の事例があることを、行政関係者や議員の皆さんにお伝えすることができました。
外界の影響を遮断する
「寒冷地型 閉鎖型」の省エネ基準
「建築物省エネ法」では、これから新築する建物について、その規模に応じて達成すべき基準が示されることとなります。
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutakukentiku_house_tk4_000103.html
国で作っている基準の主軸は「建物の外皮性能をあげる」という点にあります。外皮とは、文字通り、建物の内外の境目の「皮」の部分のことで、そこに分厚く断熱材を入れる、開口部をとる場合は、熱を逃がさないような仕様にすることで、暖房や冷房の効率をあげることが、省エネにつながる道だ、というのです。この考え方を図であらわすと、このようになります。
「寒冷地型 閉鎖型モデル」
外界と室内とを遮断して、中をエネルギー効率のいい機械設備で空調をすれば、地域や季節を問わず、温度変化の少ない暮らしは実現できます。住まいの造り方としては、建物を断熱材で分厚く包み、熱の損失の原因となる開口部は少なく抑えつつ、断熱性能の高いガラスを入れるなどの工夫をします。
このような考え方は、省エネ先進国であるドイツなどの「寒冷地型 閉鎖型モデル」がお手本になっています。日本でまず「省エネ化」に真剣に取り組んだのは、暖房費のかかる北海道・東北地方で、そこでは有効な方法だといえるでしょう。
それが、いつの間にか、日本のどこででも、住まいを省エネ化するには「寒冷地型 閉鎖型モデル」に沿うような流れになってしまいました。外界の変化を遮断する方向での造り方は、地域を問わずに同じような形、性能の家を量産しやすい方法でもあります。住宅メーカーで宣伝している「省エネの家」は、そのようなつくりになってきています。
日本の温暖地では
「開放型モデル」で
しかし、大部分が温暖地である日本では、外の自然を「遮断」するのではなく、外界に対して閉じたり、開いたり。自然とのつきあい方を季節に応じて変えながら「融和」するようにして暮らしてきました。図であらわすと、このような感じです。
「温暖地型 開放型モデル」
「温暖地型 開放型モデル」としてイメージしていただくと分かりやすいのは、暑い夏は縁側を開放して風を通し、冬の昼間は低い陽射しを取り込んで縁側でポカポカと。夜は、障子をたてて閉め切った茶の間のコタツであたたまる、というような暮らし方です。外界と遮断することを目指していないので、外皮性能は「寒冷地型 閉鎖モデル」のように高くはありませんが、日本の温暖地の夏冬の気候の変化に応じる知恵が、それぞれの地域で育まれてきた日本の伝統木造住宅の中に、たくさんあります。
「温暖地型 開放系モデル」を実現する
伝統木造住宅の諸要素
- 熱容量の高い土壁の蓄熱性
- 深い軒の出による陽射しのコントロール
- 広い開口部による日射や風通しの確保
- 重層する建具の開け閉めによる空間の調節
- 土間や縁側といった緩衝空間
一例として、篠 計画工房の篠 節子さんの発表でご紹介いただいた調査事例のひとつ、倉敷建築工房 大角雄三設計室 大角雄三さんの、岡山での施工例をご覧ください。伝統的な要素を活かした、美しいたたずまいの住まいです。
開口部がたくさんある、開放的な住まいです。建物の外周部分は、ガラス戸、障子と重層的につながっています。夏は、ガラス戸や障子をあけて、風通しよく暮らします。まわりの水田からの蒸散作用で、夏は岡山でもエアコンなしで過ごせています。
冬は、昼間は縁側にガラス戸越しに入る低い陽射しを取り込み、土壁や敷瓦を敷きこんだ蓄熱土間に蓄熱させます。家のまんなかには薪ストーブがあり、一部床暖房も入れています。障子は両面太鼓張りになっていて、障子を閉め切るだけで、その内側の熱を逃がさず、あたたかく居ることができます。
ポイントは、季節や時間に応じて、建具をあけたりしめたりすること。外界と室内とをゆるやかに仕切るバッファゾーンの使い方で、風を通したり、熱を逃げにくくしたりしていて、夏は涼しく、冬はあたたかく過ごすことができています。大角さんのつくる数々の家はこれまで、気候風土に合った建築として高い評価を受けており「サスティナブル住宅小改修部門 国土交通大臣賞」「住まいの環境アワード」など数々の賞を受賞しています。
ところが、この建物の外皮性能は1.46。国の基準では、0.87を下回ることが求められますから「省エネ住宅」としての要件を満たさず「失格」となってしまいます。
次ページでは、衆議院会館での勉強会で、木の家ネットのメンバーが紹介した事例を紹介します。いずれも、気候風土に合ったやり方で温熱環境を工夫して設計された建物です。そのほとんどは、外皮性能基準では「失格」となってしまうのですが、生活実態調査からみると、実際に低いエネルギー消費量での暮らしが実現できています。