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新しい道理と古い道理? 新潟地震調査報告


ニュース欄等でお伝えしてきましたが、木の家ネットでは「新潟地震調査ボランティア派遣」を行い、平成16年11月?12月に2回にわたって、メンバー有志数名が新潟県栃尾市に入りました。その調査を通じて感じたことの報告ということで、調査隊のメンバーのひとりである吉田晃さんにうかがった話をまとめました。(話・図面作成=吉田晃、聞き書き=持留ヨハナ)

新潟地震調査ボランティアの報告

~被災住宅に見る古い道理と新しい道理

■安心できる住まいづくりをめざすために学びたい

2004年10月23日17時56分、新潟県中越地方の深さ13kmでマグニチュード(M)6.8の地震が発生し、新潟県の川口町で最大震度7を観測しました。その後何日間かにわたって震度6弱以上の余震が4回も発生し、住民の皆さんの感じた恐ろしさには計り知れないものがありました。テレビでも、倒壊した建物や道路の陥没など、10年前の阪神大震災以来大きな地震が起きるたびに見る光景がテレビで連日映し出されました。

この10年間だけでも大きな地震が頻繁に発生していますし、東海地震地震や東南海地震も懸念される時期にさしかかっています。長くその家に住み続けようと考えるならば、その家が一度ぐらいはある程度の規模の地震に遭うかもしれないということを想定しなくてはならないでしょう。地震に遭っても、その家の中にいる人が亡くなる不幸がないように、かつ、その後補修すれば住み続けていくことのできる家をつくるにはどうしたらよいか。伝統的な木の家づくりに学びながら、安全で安心できる家づくりを目指して私たちは、このような天災による被害を最小限にするために、木造住宅を造る上でどのような点を抑えなければならないのかを考え続けています。地震の被害を最小限にする家づくりを考えるにあたり、私たちの教師となってくれるのは、実際に被災した建物です。

地震発生の直後には、余震による倒壊の危険や外壁、窓ガラスの落下などによる二次災害から居住者の安全を確保するために、建築の専門知識をもつ資格者が「応急危険度判定」を行ないます。被災した家の外の見やすい場所に「危険(赤紙)」「要注意(黄色)」「調査済(緑)」のステッカーを貼られているところを、みなさんもテレビなど見てご存知でしょう。ところが、報道を見ていると、伝統的なつくりの家でまだ住み続けることのできそうな家にも「赤紙」が貼られている、という現状がありました。応急的な調査なので、今後その家に住み続けることができるのかどうかという長期的な判定とは別と考える必要があります。赤紙を貼られた家の人は、不安な気持ちで避難所や親類縁者のところに世話になっているのでしょう。「阪神大震災の時のように、壊される必要のない建物がたくさん壊されることにならなければよいが」という危惧が、木の家ネットの会員それぞれの思いでした。

■まだ住み続けることのできる伝統的な家屋に赤紙が貼られる

新潟中越地震直後の11月6?7日に木の家ネットの総会が滋賀で開催されました。「新潟地震で被災したまだ住み続けることのできる伝統的な家屋に赤紙が貼られている」ということについて、多くの参加者が憂慮していました。そこへ、第四期から新たに仲間となった元・秋田県立木材高度加工研究所教授の鈴木有さんが、新潟県栃尾市の「雁木の町並」再生に携わる新潟大学教授の西村伸也さんとのご縁から「伝統的家屋が多く残る栃尾市で、壊されなくてよい古い建物を残すために、住宅相談窓口へのボランティア派遣を」という提案をされました。その場で多くの会員が参加したいと意思表明し、木の家ネットとして栃尾市に調査隊を派遣するという今回の行動へとつながりました。木の家ネットの仲間には、NPO法人緑の列島ネットワークの中心メンバーも参加していることから、木の家ネットと協働して調査することになりました。

まず、第一次の調査では、11月13日?14日に栃尾市内で開かれた被災住宅相談会(地元建築士会が対応)への応援として6名で訪れ、現地の様子を見聞きする中で、私たちにできることが何であるのかを確認しました。その時に、地盤の状態を判断できる専門家の参加の必要性を強く感じ、その旨を市にお願いしました。2次調査には地盤の専門家(地滑り学会理事他2名)も加わっていただけることになり、12月6日?8日に市、地元建築組合と私たち7名が窓口となって、同市半蔵金地区で、そこに住み続けたいという希望をもっている方々に対する被災現場に出向いての戸別相談を行いました。

■「古い道理」と「新しい道理」

昔からの木組みの家は、木の特性をうまく利用して組んでいるため、地震の力を受けると大きく傾くけれどまた復元するしなやかさをもっています。だから大きく傾いていても、またそれを建ておこして使うことができる特性を持っています。現代の家のつくり方では「そんなに傾いたら、もうダメ!」というところまで傾いたとしても、昔ながらの木組みの家なら補修が可能なのです。現代の建物は、金物接合、筋交い、構造用合板などを用いて、昔からの木組みの建物よりずっと強く、固くつくってありますから、木組みの建物ほど傾くことはありません。ただし、ある限界を越えると、いっきに破断したり、修復ができないほど損傷したりすることもあります。このように同じ木造の家でも、地震の力の受け方、振る舞い方がまったくちがいます。少々乱暴ですが簡単に言うと、同じ地震力に対して、柔らかくその地震力を受け流す「古い道理(柔)」と、かたくふんばって地震力に対抗する「新しい道理(剛)」と、ふたつの異なった考え方、技術体系があるのです。

「応急危険度判定」は「新しい道理」で作られたマニュアルに沿って判定します。だから、まだ住み続けることのできる家でも「新しい道理」にもとづいた判定基準で「危険」とされてしまうのです。阪神大震災の時のことを思いおこせば、壊されなくてもよかった多くの「古い道理」の家が、「新しい道理」の判断から多く壊され、「古い建物は地震に弱いのだ」という「早わかり」が蔓延したという経緯がありました。(それに対する反省として木の家ネットのような伝統構法をきちんと見直そうという動きも出て来たのですが・・)古い町並ばかりでなく、そこにあったコミュニティーや文化までもが一掃され、新しくなってしまった。今回そういうことが繰り返されないために、何かできることがあれば、というのが木の家ネットの新潟地震調査派遣の動機でした。

■栃尾市の住宅相談会へ、そして戸別相談へ

結論から言えば、今回の調査では赤紙(危険)を張られた建物であったからといって、必ずしも住み続けることが不可能ではないということが分かりました。多くの方は避難所や親類の家で当面の日々を送っていた多くの方は、本格的な積雪シーズンを迎える前に、果たして自宅に戻って住み続けることが可能なのか、という判断をするすべの無い状況で不安の毎日を送っていました。私たちの行った調査と相談会に意味があったとすれば、半蔵金集落に住む人たちのうち「できればそのまま住み続けたい」と希望する22戸に対し、その場で調査と状況の説明をし、被災者に修復や補強の主に技術的な助言を行ったことで「ほっとしてもらえた」ということだったと思います。

今回の特集では、半蔵金で見てきたことをレポートし、地震に対する「古い道理」の家のふるまいの実際、「古い道理」と「新しい道理」とが混在する家に起きたことなどをお伝えします。

2004年12月の第2次調査。栃尾市役所の職員、地元の建設組合、地盤の専門家、木の家ネットメンバー有志が協同するチームが、半蔵金入りした。半蔵金のシンボルだった神木の大杉の前での記念写真。

日本住宅新聞 2004/11/25よりクリックすると記事が大きくなります


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