この古民家の
省エネ性能を調べる
そしていよいよ、2015年に行った二回目の「冬の温熱合宿」では、この古民家を、やがて義務化されようとしている「省エネ基準」に照らし、どのような評価がでるか、調べてみました。
必要なものは二つ。「外皮性能」と「一次エネルギー消費量」です。まず外皮ですが、省エネ改正前までは総熱損失量を床面積で割っていましたが、改正後は、天井・壁を含む外皮表面積で割るようになったのが特徴です。

図面をおこして外皮性能を計算すると、省エネ基準で評価の対象となる「設計一次エネルギー消費量」は、国が用意しているプログラムに代入することで求められます。

それを、さらに、実際に生活で使っている一次エネルギー消費量と比べてみることにしました。さて、どんな結果となりますやら?
チームワークで実測
外皮の仕様を拾っていく
合宿のほとんどの時間は、外皮性能を求めるための図面をおこしに使われました。開口部の仕様、壁に断熱材が入っているか入っていないか、部屋と部屋の間は開いているのか、閉まっているのかという外皮上のポイントを押さえながら、数値を拾っていきます。スケールと鉛筆と紙を持って、出たり入ったり。現場感あふれる合宿となりました。/p>
<みんなが持ち寄った数字をパソコンで図面に起こしていくのは、高橋昌巳さんの役。大学のゼミの教授といったおもむきで、ペチカの前に座り、外から帰ってくるみんなの数値の報告を受けて、数値を入れていき、不明な点があれば、すぐにまた測り手は外に飛んでいきます。

すでに建っていて、しかも、あとからちょこちょこと改修した痕跡をたどりながら、外皮性能を求めるための数値を拾い出すのは、一苦労。この家に引っ越してくる時に木の家ネットで行った「民家実測」で書かれた矩計図や断面図をもとに、二人ひと組のチームワークで、スケールと野帖を持っての作業は、順調に進んでいきました。
分からないところがあると、持留家がこの家に住むようになってからの改修を手伝ってくれている鈴木直彦さんや横山潤一さんが居るので、すぐに質問に答えてもらえるのも、とてもよかったです。
温度の測定
今回の合宿で計測した温度データをまとめてみました。まずは、ロガーで計測した合宿期間中の室温の変化のグラフからご覧ください。

図面のための計測と並行して、放射温度計を使って、時間ごとに家のあちこちの場所の温度を計測したり、ペチカを焚き始めてからの温度の上がり方調べ、サーモグラフィを使った、熱環境の撮影なども行いました。

この古民家は、外皮性能が悪いこともあり、家の中の温度が外気温の影響を受けやすい状態にあります。また、輻射系暖房を使っているので、熱源からの距離によって、温度が大分違います。
放射温度計測グラフと時間との関係に起こし、さらに、その様子が視覚的に分かりやすいように、林美樹さんが色づけをしてくれました。


上:昼間、奥の薪ストーブだけがついている状態 下:午後になり、ペチカも着けた状態
専用のプログラムで
外皮性能を計算

おこした図面から、「外皮性能」を計算するのは、合宿には参加していない古川保さんにお願いしました。この古民家の単位温度差あたりの外皮熱損失量は840W/K、外皮性能は「UA値 1.8」(Q値でいえば、6ぐらい)と出ました。
断熱性能は高いほど、UA値の数値は低くなります。国が、この地域の外皮性能として求めている基準値は「UA値 0.75」ですから、とても及びません。
古川さん曰く、古民家だから「UA値3ぐらい?」と思っていたそうですが、あとからの改修で北側を大壁で覆ったこと、西側の縁側の掃き出し窓を腰から上だけのヒンジ窓に取り替えたことなどで、結構、断熱性能はいいな、とのことです。
設計一次エネルギー消費量が出ました!
「外皮性能」が求められたので、その建物の外皮性能と広さと暖房方法などに応じた「設計一次エネルギー消費量」が、国で用意しているプログラムによって、自動的に計算されました。こんな数値で、シートがでてきました。

A 設計一次エネルギー消費量:214.8GJ/戸・年
B 基準一次エネルギー消費量:129.6GJ/戸・年
Bは、国が、この地域のこの広さの家だったら、このくらいの消費量におさまっていれば「省エネ基準」合格、としている一次エネルギー消費量です。
Aは、この家の主たる居室を「室温20℃」にまで暖房しようとした場合にかかるエネルギー消費量を国のプログラムが計算してはじきだしたものです。外皮性能を拾っていった結果から出て来た「単位温度差あたりの外皮熱損失量は840W/K」が効いていて、Bを上回る、大きな数値となっています。
外皮性能は悪いので、家じゅうをバッチリ、しかも、国が求める「室温20℃」にまで暖房しようと思えば、これだけのエネルギー量が要るのかもしれません。
しかし、暮らしの実態としては、ペチカや薪ストーブいった輻射系の暖房を使っていて「室温20℃」より低めの16℃ぐいで体感温度としては十分に満足できていること、冬季はペチカやストーブの周囲に集まって「小さく暮らす」という暮らし方であることから、そこまでのエネルギーを使うことは、まずありません。
生活の実態から
実際の一次エネルギー消費量を出してみる
次に、計算上ではなく、持留家の実際の生活から、年間の一次エネルギー消費量を割り出してみました。
電気、プロパンガス、灯油の領収証にある「使用量」を月別に表にしていきます。電気だったらkW(キロワット)、プロパンはm3(立米)、灯油はL(リットル)で合計が出てきますので、それぞれの燃料を、エネルギー量の単位であるMJ(メガジュール)に換算する数をかけ算します。
電気:1kW=9.830
プロパンガス:1m3=99MJ
灯油:1L=37MJ
これらを合算すると、年間エネルギー使用量は、79597MJ(メガジュール)と出ました。広さが186平米ですから、平米で割ると、428MJ/m2・年となります。

住まい手からの補足
【電気】
「テレビ、電子レンジ、炊飯器は置いてません。白物家電としては、6年ほど前に買った冷蔵庫と洗濯機。洗濯機は、梅雨時に乾燥機能をたまに使います。あとは掃除機と週一回程度のパン焼き機ぐらい。暖房に電気を使っているのはトイレに置かれたセラミックヒーターだけです。極寒期のみ、センサーで間欠運転をする設定にしています。照明には電球は使わず、電球色の蛍光灯が大半。ほかに、AV機器としてラジカセとアンプ、スピーカー、それにプロジェクター。
使用量として大きいのは、冬の間、水道配管に凍結防止ヒーターが常時ついていること。また、薪割りをするのに、たまに丸鋸や電気チェーンソーを使う場合もあります。
仕事柄、ノートパソコンをほぼ常時使用し、その内、外付けモニターにつないで使うのは、全体の3割程度です。」
【プロバンガス】
「調理と給湯に用いているプロパンガスについては、集計してみて、使用量が多いので自分でもびっくりしました。
ここに引越してきた時に、近くの調理学校で使わなくなった業務用の3口のオーブン付きコンロをもらってきたのですが、ただでさえ業務用コンロは家庭用の倍以上エネルギーを使うのだとか。これが大分燃費を食っているのかもしれません。とはいえ、これを取り替えるのはかなりの大ゴトです。」

【灯油】
「灯油については少しの量があがってきていますが、これは、2014年の春以降は、石油ストーブのかわりに薪ストーブを使うようになったので、以後、発生していません。」
生活実態では合格なのに
設計時で見ると不合格!?!?
講評も出てきています。

まず、合格の基準を見てみましょう。ここでは、エネルギー消費量を建物の平米数で割った数値として、でています。
省エネ基準:698MJ/m2・年
低炭素基準:640MJ/m2・年
とありますから、領収証から求めた一次エネルギー消費量:428MJ/m2・年ならば、どちらの基準もラクラクとクリアです。
ちなみに我が家では、薪をひと冬で2tほど使いますので、エネルギー消費量に換算すると、40000MJ/年になります。これを面積で割ると215MJ。エネルギーとしては使っていますが、それを加味して考えたとしても、428+214=643MJで、省エネ基準はクリアしています。

・・と、ほっとしたのもつかの間、講評によればこの家の「設計一次エネルギー消費量」の数値は、なんと
設計一次エネルギー消費量:1155MJ/m2・年
棒グラフを大きく左に振り切って「落第」。☆ひとつという低評価です。設計一次消費エネルギーの計算値と生活実態とを比べると、薪を入れなければ3倍、入れても2倍近くもの開きが出ています。
この古民家ほど外皮性能がひどくない家であっても、温熱チームからJIAの調査に出した伝統的木造の事例でも、また伝統木造以外であっても「自然とつながる開放系の家」では、不合格になる例が続出しているそうです。やはり「自然を遮断する閉鎖系の家」とは、別の評価方法が必要なのではないでしょうか?
参加者の意見や、合宿を通しての感想をこちら!からご覧いただけます。