2014年10月18日 第14期 職人がつくる木の家ネット総会 初日
第14期 職人がつくる木の家ネット総会は、2014年10月18日-19日、岐阜県の下呂温泉に宿泊、二日目には中津川市加子母の明治座や神宮備林に見学ツアーという充実した内容で行われました。迎える現地幹事は、岐阜の水野友洋さん、各務博紀さん、愛知の丹羽明人さん、大江忍さん、静岡の寺川千佳子さん。直前に近くの御嶽山の噴火があり、空にたなびく煙も若干見えていましたが、無事に開催できてよかったです。
南飛騨特有の益田造り
銀花荘見学
自由参加での昼食をレストラン「バーデンバーデン」でとった後、宿泊先である下呂温泉の「小川屋」に集合、3班に分かれて「銀花荘」見学に出発しました。
銀花荘は、明治41年に建てられた木造2階建ての岐阜県有形文化財の建物です。通常は年に2回だけ一般公開をしているのですが、今回は木の家ネットの活動に共感いただき、快く見学を受け入れて頂きました。
この南飛騨地域のの伝統的な民家は、「益田造り」 と呼ばれ、南北に下る切妻に、緩やかな大屋根と深い軒が特徴です。積雪の多い北飛騨が合掌造りであるのと比べ、対照的な姿です。南飛騨は、東西を山に囲まれ、南北に伸びる谷に位置している為、積雪よりは台風の風が谷の向きと一致した時に起こる「大風」 に備えてのつくりだそうです。
当時は「榑(クレ)」と呼ばれる板を葺き、石を置いた屋根だったそうですが、現在は瓦葺きです。6尺程もある深い軒の出が、100年以上もたわまず佇んでいる姿に、当時の職人がいかに木を上手に使われていたかが伝わってきました。
大戸をくぐって中に入ると、ずっしりとした鴨居の座敷に、銀花荘の家主である須賀さんが収集された古民具の数々。古民具にも良い材と昔の職人の技術によって作られたものが多く、このように存在感のあるものは今では真似できないものもあると、須賀さんはお話くださいました。建築と同じように、素材と職人の手仕事から生みだされるモノには、時間が過ぎても人を惹きつける普遍性があるものだと感じました。(文/水野友洋)
もりだくさんの内容の総会
銀花荘から戻り、いよいよ、会員が一同に会する総会の時間が、岐阜の岡崎定勝さんの開会宣言とともに始まりました。16時半から19時半という3時間の中で、寺川進先生(浜松医科大学 名誉教授、常葉大学教授)の特別講義「自然界の模様と形」、「石場建て」や「温熱環境」をテーマとした会員発表と、もりだくさんの内容でした。
寺川進先生の特別講義
「自然界の模様と形」
「自然界の動植物の模様や形を見ていると、特別なデザイナーが一つ一つを丹念に作り上げたのではないかとさえ思えますが、そのすべては、物理的な力が働いて、なるべくしてできた形なのです」と、寺川先生は、映像をまじえてお話くださいました。
何億光年という宇宙といった大きなものから分子、原子レベルといった微細なものにわたって、結果の一部が原因に影響を与えるような過程が繰り返され、時がたつと次第に秩序が生まれ、全体と部分が類似するというフラクタルな形が現れる。原因と結果の世代が繰り返されるうちに、あらゆる模様や形が生まれ、精緻に作られたように見える複雑な似た形が自然と出現する。映像を見ながら、そのような自然界の不思議を教えていただきました。
「石場建て」タイム
基礎石の上に直接柱を立てる「石場建て」。お寺をはじめ、昔ながらの建物には、よくあるつくりですが、今の建築基準法では「柱は、基礎コンクリートの上に横に寝かせた土台に刺す」のが決まり。特に2階建ての石場建てとなれば、通常の確認申請ではなく、限界耐力計算を使い、検査機関で「適判」という審査を経て構造安全性を示さなければ建てられない「狭き門」となっています。それゆえ、なかなか手がけるつくり手が少ないのが現状です。
「石場建て」タイムでは、まず、建築基準法の中での石場建ての位置づけを穴埋め問題やフローチャートでおさらいをしました。
その後、木の家ネットで石場建ての施工実績のある埼玉の綾部孝司さん・高橋俊和さん、三重の池山琢馬さん・伊藤淳さん、滋賀の川村克己さん・宮内寿和さん・川端眞さん、愛知の大江忍さん、京都の金田克彦さん、岡山の和田洋子さん、熊本の古川保さんが、それぞれの事例をひとつずつ紹介しました。2階建ての住まいから、アトリエや書庫など離れとして使う小さなものまで、いろいろな施工例がありました。
「建物の足元があいていることは、床下の通気につながり腐朽や湿気において有利」「メンテナンスがしやすいことが長寿命につながる」「コンクリート基礎をできれば使いたくない」「大地に柱を屹立させたい」「大工技術が問われる」「ヨイトマケで石を据える地面の地業などを結いでやれる」など、取り組んでいるつくり手のさまざまな想いが伝わる発表でした。
最後にEディフェンスでの実大実験に立ち会っての損傷観察をはじめ、解体直前の古い石場建ての家で実施した静的加力試験など、数々の実験を通して「家の壊れ方」を見てきた滋賀の宮内寿和さんが、その経験を裏付けにして編み出したという自分なりの「石場建てのルール」には説得力がありました。
「想定外の大地震で、家が層間変位角度1/10まで傾いた時に生存空間を確保するために『どういう壊れ方をするのがベストなのか』を考えるのが、石場建て。土台敷きとはまったく施工の発想を変えないと、同じように作っていたのでは、できない」という話が印象的でした。
「改正省エネ法」タイム
次に、2020年に義務化となる「省エネ基準」をめぐって、東京の林美樹さんのナビゲートで、木の家の温熱環境調査に携わって来た東京の高橋俊和さん・山田貴宏さん、神奈川の日高保さん、埼玉の綾部孝司さん、熊本の古川保さん、が発表をしてくださいました。
まずは、古川さんによる「改正省エネ法で、木と土の家はどうなる?」というポイントを押さえたオリエンテーションがあってから、それぞれの発表に移りました。「室温20度以上をキープしなければならないのは、本当に健康にいいのだろうか(日高)」「実際の生活実態を見るとエネルギー消費量が少ないような事例が、省エネ基準より大きなエネルギーを使うような計算になるのは不可思議(綾部)」「真壁の街並が作れなくならないようであってほしい(高橋)」「木と土壁の家の環境性能は、断熱性能だけでなく、さまざまな環境性能を加算した総合的な評価をしてほしい(山田)」など、さまざまな角度からの論点が見えて、参考になりました。
また、最後に、北海道の西條正幸さんから、改正省エネ法の基準にむしろ近い「夏を旨とすべし」とはいえない厳しい寒さの中での北方型の木の家における温熱環境のつくり方についての発表もありました。北から南まで、気候風土の違う日本であればこそ、同じ考え方や基準でひとくくりにできないということを実感しました。「省エネ」は大切なことですが、その方法については、それぞれの地域の気候風土に見合ったやり方が認められるようであってほしいものです。
お楽しみの宴会と
深夜まで続いた分科会
内容の濃かった「総会中の総会」の後は、お座敷での宴会が、京都の中川幸嗣さん、大下尚人さん、兵庫の高橋憲人さん、大阪の木又誠治さん、奈良の坂本正孝さん、山梨の鈴木直彦さん、横山潤一さん、三重の丹羽怜之さん、滋賀の竹内直毅さん、神奈川の袋田琢巳さん、広島の野島英史さんと、多くの新会員さんを迎えて、賑やかに行われました。また、高知の沖野さんから「来年は高知へ!」と魅力的なアピールもあり、会場が湧きました。
宴のあとは、毎回恒例の分科会。4つの部屋に分かれて、それぞれのテーマで夜遅くまで語り合いました。(文/持留ヨハナ)