昨年、2014年末から「廃盤になってしまった込み栓角ノミの復活を!」と、伝統的な大工の手刻みの仕事に欠かせない電動工具の存続のために動いている小田貴之さん。その思いは、三重県伊勢市にある、松井鉄工所に受け止められ、2015年11月現在、試作機が作られる段階にまで進んでいます。
小田さんは、愛知県蒲郡市にある「オダ工務店」で設計と営業を担当しています。無垢材を手刻みして、木組土壁の家づくりをする、蒲郡でただ一つの工務店です。
大工であるお父さんと弟さん、小田貴之さんと現場監督の弟さんを中心に、20代の若い弟子二人を育て、また、外部の腕のある大工さんたちとも協力しあい、木組み土壁の家づくり一本でがんばっています。敷地の一角に小田さんの自宅兼モデルハウスもある、オダ工務店を訪ねました。
ヨハナ 木の家ネット ヨハナ:お父様のことは「親方」と呼ばれるんですね。
小田 オダ工務店 小田貴之さん:そう言われれば、そうですね。根っからの大工である親父は、無垢の木が好きで、その良さを引き出せるきちんとした手仕事を、よく知っています。技量があり、手をかけてやる気持ちがあり、若い者にもそれを伝えています。本当に木を生かした家づくりをするには、親方のような存在が不可欠です。
ヨハナ 小田貴之さんは、なぜ、大工を継がなかったんですか?
小田 学校を出た当初は家業を継ぐことはまったく考えてなくて、現場監督としてゼネコンに就職したんです。ところが、身体を壊してしまって実家に戻ったんです。回復してきた頃にちょっと家業を手伝うようになって、始めは大工として関わったんです。いやあ、そこで、大工のものづくりの面白さ、楽しさにのめりこみましたね。ところが、当時、工務店を仕切っていた父は、じつは経営的なことが好きでなくて「お前が帰ってきてくれるんなら、俺は現場に戻りたい。お前が、受注・設計・現場監理をやれ」という流れに、なんかなっていったんです。
ヨハナ 大工に徹したいタイプなんですね。
小田 大工の方が絶対おもしろいんって、ぼくでも思いますよ! けれど、当時の経営は、正直、うまくまわっていなくて、このままではハウスメーカーの下請けとして、量産仕事に組み込まれていくしかなくなってしまう。それでは、あまりにもったいない。だって技術はあるんだから! だったら、自分がプロデュースする側?って言ったらかっこよすぎますけど、裏方にまわってもいいかな、と。
ヨハナ お父様としては「いいところに帰って来たな!」と、渡りに船だったんでしょうね?
小田 親父の仕事はずっと見て来ているし、話もたくさん聞いているから、無垢の木を活かした、大工が手作りする家のよさをアピールして、木や大工が生きる仕事だけに徹していこうと、決めたんです。
ヨハナ 技術のある大工が居ても、それを発揮できる仕事がなければ、すたれていってしまいますものね。
小田 コストや工期では、かなうはずがないプレカットに手を出して、手作りから離れれば、経営的には楽になる面もあるでしょう。けれど、大工が本来の手仕事の技量を発揮できる場がなくなれば、自分たちの存在意義を失ってしまう。木がもっている本来の良さも、引き出されない。そんな工務店経営はしたくないから、どうでも踏ん張ろう。そう肚を決めました。
ヨハナ 大工が生き生きと、木のよさを活かした仕事をしていくことに意義と活路を見いだしたわけですね。どのようにして、このようなオダ工務店の方向性を打ち出していったのですか?
小田 親方が常々言っている、大工手作りの木組みの家づくりのことを、ホームページ上で発信するようにしました。木の性質をよく知り、それを生かすように使う。あたりまえのことなんですけれどね。
ヨハナ どういう理由でどこにどんな木を使うか。なぜ、乾燥具合にこだわるのか。構造と意匠とかぴったり合ったしっかりとした木組みの重要性など、丁寧に説明していますね。木の家を求める人には、なるほど、と思う情報が分かりやすくまとまっています。
小田 大工だけでは家づくりはできません。木を出してくれる山との連携が大事で、三河の製材所との出会いも大きかったですね。こちらから一方的に発注するのでなく、山にとって出しやすい寸法で合理的な木組みを考える。山側では、葉枯らし乾燥など、手刻みに適したゆっくりと時間をかけた木の乾燥方法をお願いするなど、お互いにとっていい方法を、つねに探っています。
同じ想いで家づくりをする仲間との横のつながり
小田 「あいちの木で家をつくる会」との出会いも大きかったですね。これは、愛知県内、特に三河地方の豊かな森林資源を家づくりに使うことが、森の活性化、健康な住まいづくり、大工技術の継承につながる、という主旨の会で、共同で小冊子を作ったりして、アピールをしてきています。
ヨハナ そうした活動していく中で、木の家ネットのメンバーとの出会いもあったんですよね。
小田 木の家ネットと縁ができて、全国で同じような想いで各地域でがんばっている人がいるんだ、ということを知り、思ってきたことへの確信を、さらに強めました。オダ工務店の姿勢を積極的に打ち出していったことで、そのような家づくりを求める建て主さんとのめぐりあいが増えてよかったです。
自宅兼モデルハウス
ヨハナ 木の家づくりをしたい、という方との出会いから実際に家を建てるようになるまでは、どのように進んでいくのでしょうか?
小田 建前見学会、完成見学会などで、木組みの力強さや実際に木の家での暮らしを実感していただきます。これまでにうちで家を建てられた方は、見学会以外の時でも「ぜひ見に来てください!」とおっしゃってくださり、みなさんに宣伝していただいているようなことになっていて、とっても助かっています。
ヨハナ オダ工務店の一角に建てられた小田さんの自宅をモデルハウスにされていますね。
小田 ぼくらが作る木組み土壁の家は、日本の伝統的な大工技術で建てるものではありますが、できる家は昔ながらの「和風」住宅ではありません。かといって「洋風」でもない。木をあらわし、土を塗った、開放的で自然な家、ということを大事にしています。また、間取りと架構を一致させたシンプルで明快な木組みで、ゆったりとしたのびやかな空間を心がけています。そんな家の雰囲気を、実際に私たち家族が暮らしている家で見て、感じていただけるようになって、よかったです。
ヨハナ めぐりあえた建て主さんと、うまくやっていくコツは、ありますか?
小田 最初に、私の方から、ひとつだけ条件を出してしまうんです。それは打合せ当初から完成時期を決めないこと。「時間は、かかりますよ」ということを了承していただいて、進めていくようにしています。
ヨハナ 急いでいる人は、頼めないですね。
小田 じっくりと一緒に考え、打合せをする。本当に求めているものは何なのかを、探る。よりよくするために練り上げる、そういうプロセスがとても大事だと思っています。特に、作りながら建て主さんの希望で変更が出てきた場合に、それに対して、手間や時間がかかるということを納得ずくで進められるかどうかは、大きなポイントになってきますね。
次ページでは、ゆっくりじっくり家づくりをして、住み心地に満足している鈴木さんのお宅を訪ねます。
杉浦祐矢さん(28)
木組みの仕事を覚えたくて、Webサイトを見て、ここに来ました。曲がっていたり、クセが合ったりする木同士をどうやって組むのか、奥深くて、面白いです。
杉浦祐輔さん(22)
プレカットだったらプラモみたいに与えられた部材を組み合わせていけばできちゃうけれど、パーツから自分で作る手刻みは覚えることがたくさんで大変です。毎日いっぱいいっぱいですけれど、とてもやりがいがあります。
親方
注文住宅といっても、プレカットがほとんどだし、つくり手のやりやすさ、都合に合わせて作られている家が多いけれど、うちのような手刻みであれば、ほんとにその建て主さんに合わせて作ってあげることができる。建て主さんの要望を、いかに木を組み上げて実現するかを考え、工夫して作ってあげるのが、大工のおもしろさでもあり、やりがいだね。