自然をあるがままに受け入れる和の感覚を 木の家づくりにとりいれたい
床の間。赤貝の粉を混ぜ込んだ土壁のえんじ色が印象的。
福岡県甘木市に工務店「建築工房・悠山想」を主宰する設計士の宮本繁雄さんを訪ねた現場レポートをお届けします。
和の感覚ある、モダンな家
白と黒の石を敷き詰めた中庭は、少し斜めに傾いた石柱と植栽とでできている。木が葉を落とす時期には枯山水ような雰囲気に変化する。
「構造がしっかりしていて、機能が満たされているだけでは、住み続けたい家にはならないのですね。そこでぼくがいつも考えるのが『古びない家のデザインって、なんだろう』ということなんです。」
夜の庭。室内にいながらにして、一幅の絵のようにその季節、その時間の外の自然が分かる。
「そのひとつのヒントが、和の空間にあると思うんです。」と宮本さんは言う。宮本さんのつくる家はみな、モダンな雰囲気をもっているが、そのポイントポイントにさまざまな「和」の要素が、散りばめられているのが特徴だ。のびやかな空間に、障子を通して入って来るやわらかい光。中庭の風景を切り取る窓、塗り壁や土壁などのもつ質感。素材そのものが自然を感じさせるだけでなく、外とのつながり方の中に、季節や時間の移ろいを感じられるしかけがある。
居間。手前はカウンターキッチンから続くハイテーブル。奥は座卓と薪ストーブ。
「自然に対抗するのでなく、自然をあるがままの形に受け止め、共生する。春夏秋冬の季節の移ろいを敏感に感じ取り、ありがたいな、と思う。家族のあり方や住まい方がどんなに変わっても、その感覚は変わらない、いや、変わっちゃいけないんじゃないかと思うのです。」庭の小さな自然でもいい、あるいは借景でもいい、自然との一体感をもてる仕掛けが、家そのものにある、そんな家を設計することを宮本さんはめざしているのだ。
床の間のある暮らし
直交する二組の掃き出しガラス戸から見える風景は、敷地が少し高くなっているため、船のデッキからの眺めのようだ。
これまで設計したどの家にも和室を、そして和室には小さくても必ず「床の間」ももうけてきたという。「飾り棚の付いた書院造りとまで格式ばったものは、現代の生活には必要ないものかもしれません。けれど、ただ畳が敷いてあるだけの和室では、さびしい。畳敷きの部分より一段高くなった床の間はあってほしい。そして、そこにはぜひ、季節の花や年中行事に合ったしつらいをとりいれてほしい。」
中庭に面した中二階にある、息子さんの書斎。
「忙しくて今はそんなことできない、それはそれでいいんです。ふと、季節を暮らしに取り入れるのもいいな、という気持ちになった時にそれができる、あるいは、いつかめぐってくる晴れの日の応接空間にもなり得る、そんな場を、用意しておきたいんです。」
宮本さんは「床の間」という空間を、「自然との共生」を具体的に、人の小さなおこないとしてできるステージとしてとらえる。日本人の精神性の豊かさを築いて来たのは「自然と人との融和」だった。失われかけているそのよさを、暮らしに取りこんでほしい、というのが、宮本さんの願いだ。