つくり手:星野さん(星野土建)
聞き手:持留ヨハナエリザベート
木の家ネットの神奈川の会員で、慶應義塾大学のキャンパスのある横浜市港北区日吉に、5代前から地域工務店として根付いている星野土建さん。「現代のライフスタイルに合った木の家づくり」を常日頃実践していますが、目下、伝統的な工法で木組み土壁の「シェアハウス」を施工中です。不動産事業も手がける星野土建の賃貸物件として、入居者を募集するというので、さっそく上棟と土壁の下地となるえつり作業のワークショップを取材してきました。
これまでにも木の家ネットのつくり手の施工物件として「コーポラティブ」は何例かあります。「コーポラティブ」とは、数家族が共同で所有する家を、話し合いながら設計し、工事費用などの経費を折半するという共同の持ち家です。「シェアハウス」は、持ち家ではなく、一軒の家を数人で共同使用する賃貸物件。星野土建がこの木組み土壁のシェアハウスの4人の店子(たなこ)の大家(おおや)となるのです。
所在地 | 神奈川県横浜市港北区日吉 |
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アクセス | 東急東横線日吉駅より徒歩8分 |
工法 | 木組み土壁による伝統的工法 |
間取り | 木造2階建て 1階部分:台所、食堂、居間、バルコニー、風呂、トイレ 2階部分:個室(六畳の板の間+押入)が計4間 |
設備 | 共用部分の設備(冷蔵庫、ガス台等)完備 |
駐車スペース | 車不可。自転車、バイク可 |
契約費用 | 一年契約定期借款。敷金礼金なし、デポジット等あり |
募集人数 | 4名 |
募集条件 | 男女問わず。単身者。社会人歓迎 |
入居開始予定 | 平成25年7月から入居予定 |
入居者決定の方法 | 面談の上、決定 |
問合せ/面談申込 | 星野土建のWebサイトに入居希望者エントリーフォームがあります。 |
なぜ工務店でシェアハウスなのか? 星野土建の星野将史さんにお話をうかがいましたが、本題に入る前に「シェアハウス」について、ざっと触れておきましょう。
シェアハウスという住まい方をご存知ですか?
高校または大学まで実家で暮らし、その後、別の町で仕事する、あるいは学ぶとしたら・・・どんなところに住むのでしょうか? 昔でこそ「賄(まかな)い付き下宿」や、炊事場やトイレは共同で使い、共用の内廊下と扉を隔てて自分の部屋がある「貸間タイプのアパート」もありましたが、それは昭和までの話。会社や大学の寮に入るのでなければ、自分で家賃を払ってアパートかワンルームマンションを借りるというのが主流でしょう。台所もトイレも、そして銭湯が少なくなった今や、風呂までがいきなり「自分専用」になる「ひとり暮らし」が始まります。
家族から解放されての憧れの、ひとり暮らし。自由で気ままな反面、帰宅しても「お帰り」「ただいま」と言葉を交わすこともなく、ちょっぴり寂しくもあります。冷蔵庫、洗濯機、ガスコンロ・・・何から何まで自前で揃えるのも、結構大変です。そんな今、注目されているのが、ひとつの住居を、台所、風呂、トイレなどの設備は共有し、プライベートな部屋として個室を使う「シェアハウス」という形です。いわば、家族で住むような間取りの家に、他人同士で住むもの。共用設備はあらかじめ揃っているので、自分の身の回りの荷物だけで入居できます。最近は、不動産情報誌などでも「シェアハウス物件」という表示を見かけますし、シェアハウス専門の不動産屋さんやWebサイトも出てきています。
シェアハウスは、もともと、ある期間だけ滞在する外国人の「宿に泊まるよりは長く滞在するけれど、自前ででひとつの住居を賃貸し、生活用品の一切をまかなうほどではない」というニーズに応える形の、テンポラリーな住まい方として登場したそうです。それが次第に、日本人にも広まり、いまや、数ヶ月ではなく、数年という単位でシェアハウスに住む人も相当数います。
都会でひとり暮らしの限界
シェアハウスの利点のひとつは、リーズナブルであるということです。
自分の給料を稼ぐようになって、ようやく借りた「自分の城」といっても、寝るのもご飯を食べるのもくつろぐのも同じひとつの狭いワンルームマンション。ひとり暮らしとはいえ、洗濯機、テレビ、電子レンジ、冷蔵庫と、全種類の家電があふれかえり、水道光熱費がそれぞれにかかります。通勤に1時間以上かけて、ほとんど寝に帰るような生活であっても、可処分所得のうち、住居やインフラ維持にかかる費用の割合がかなり高いのが現実です。
シェアハウスとなれば、生活家電などの共用設備は、あらかじめ住居に備わっています。水道光熱費も、住人同士での割り勘で済みますし、自分がひとりになれる個室とは別に、ワンルームマンションより大きな台所やリビングなどがあり、住環境としてのクオリティーは確実にアップします。そのような条件の住居が、同じ価格帯でワンルームマンションを借りるよりも、より都心に近く借りられるケースもあります。
「原発はいらない」特集を組んだ時に「孤住」世帯の増加が家庭用電力使用量の増加に拍車をかけていること、「集住」という住まい方も、省エネを達成するひとつの有効な方法ではないかという提案を紹介しました。ひとり暮らしには消費の促進、裏返していえば「資源の無駄」という面があります。その点、シェアハウスはかなり合理的な住まい方といえるでしょう。
合理性を越えた、コミュニケーションへの欲求
しかし、シェアハウスが広がりつつある理由は、こうした合理性ゆえだけではありません。「集まって住む」ことで生まれるコミュニケーションこそが、シェアハウスを指向する若者にとって大きな魅力となっているのです。
同じ台所、同じ風呂を使うのですから、使う順番、何を共用して何が個人持ちなのか、掃除やゴミ出しはどうするのか、友人を招く時の約束事は?・・・などなど、さまざまなことについて、ルールを決め、守ることが必要となってきます。そうした面倒なことをむしろ楽しみ、地縁でも血縁でもない「シェアハウスの住人」間のコミュニケーションを積極的に育てていこうとする若者が、少しずつ増えて来ているのです。
日本の大家族制度が崩壊し、核家族化がどんどん進んでいった高度経済成長期。その先には、職場以外での会話はない、お金はあっても生存そのものに消えて行って好きなことにまでまわす余裕もない、隣人への無関心、はては孤独死・・・というような、さびしい生活?というような負の状況があるのも現実です。田舎の地縁血縁のしがらみの世界に戻りたいとは思わないけれど、まったくの自力ではなく、人と支え合い、助け合って生きて行きたい。そうした欲求をもつ若者が出て来ても不思議ではありません。家族ではない人同士の小さなコミュニティーで生きたいという欲求。それが、シェアハウスに追い風を吹かせているのです。
さまざまな形のシェアハウス
ひとくちにシェアハウスといっても、さまざまな形態があります。あらかじめの知り合い同士が「みんなで一緒に住もうか?」ということで、もともと一軒まるごとの賃貸物件を契約してシェアするという場合もあれば、あらかじめシェアハウスとして入居者を募集している賃貸物件で、初対面同士が一緒に住む場合もあります。男女混交、女性のみ、男性のみというところもあるでしょう。
日常生活をシェアする以上に、ある目的をもったシェアハウスもあります。昔でいえば、若い漫画家が集まって住んでいた「トキワ荘」のように、共通のテーマがあり、切磋琢磨し合うために、集まって住むケース。SOHO的にネット関係の仕事をしている個人事業主が数人、集まって住むシェアハウスもあるようです。機材や回線の共有や、場合によってはいっしょにひとつの仕事を手がけることもあります。あるいは、互いによい刺激を与え合うことをめざして、住人同士はもちろん、シェアハウスを訪れる人も交えての交流の場を積極的にもうけているところもあるようです。
星野土建さんで作ろうとしているシェアハウスは、どのような考えで企画され、どんなプロセスを経て作られているのか、工務店がシェアハウス運営することを通じて、どんなことを実現しようとしているかについて、いろいろなお話をお聞きしました。次ページからのインタビューをご覧ください!