やってみたい事、まだ分かっていない事を試したい。 そこから生まれる確かな事を見つけたいんや。
川村工務店の三代目、川村勝美さん。いつも顔じゅうの笑顔の人。
昔はあたりまえだったものの、今ではすっかり姿を消した「石場立て」の家を建築中、と噂に聞き、琵琶湖の東、今在家に川村勝美さんを訪ねました。
石場立ては免振構造
左/石場立て:柱は玉石の上に乗っているだけ。何百年ももつことが前提の寺社は、今も石場立てが見られる。 右/土台敷き:柱は基礎とアンカーボルトで緊結された土台の上に立つ。
現代の家は、地震が来てもびくともしないことを目指し、剛(かた)くつくられる。家は丈夫な基礎と緊結され、柱と梁は金物で剛(かた)められる。それに対し、伝統構法の木組の家は地震の力を柔らかく受け止め、粘り強く耐えるという議論がさかんだ。そんな中で、伝統構法の古い技術であり、強い力を受けた時には足下が石の上でずれるという石場立てを、免振構造として再評価する声も聞かれる。だが、実際に石場立てで住宅を建てたという例は、ほとんど聞かない。それを川村さんが今、まさに実践しているのだ。
いきなり、難しい立て札?
柱が来る位置に独立基礎を打ち、玉石を置く。レベルをにらみ、玉石天端の水平を出す。
現場に着くとまず、立て札が目に入った。「許容応力計算や壁量計算によると、たくさんの筋かいや合板、構造用金物等が必要となり、それに頼った家づくりとなります。先人の知恵による家づくりとどんどんかけ離れ、本来の職人のもつ技術は不必要となり、失われつつあります。限界耐力計算法で家づくりを考えると、筋かい・金物等は不要となり、手仕事の復権はもちろんのこと自然の理にかなった伝統構法で粘り強く丈夫な家づくりが可能です」とある。
完成後はオープンハウスにも
玉石天端の水平面が基準高になるように、独立基礎との隙間をより小さな石や止水セメントで埋める。
こんな難しい立て札を道に面して立てるとは、どんな人物なのか? 加工場から現れた川村さんは、明るく快活。表情豊かで、話し好きな人だった。「15の時からずっと大工しててよ、もう50過ぎや。そろそろ、ずっと『こうやないか』、思ってきたことを試したかったんですわ。自分の家や、かまへんやろ?」やってみて結果を出してみよう、というのだ。「これからは伝統構法一本で行く」そう決意した2000年、川村さんは木のこと、家のことを家づくりのプロと一般の人が一緒に学習する「根本から見つめてちゃんとした家をつくる会」(主催・淡海里の家事業協同組合)を始めた。回を重ねるうちに「学んだことを、形にしてみたい」という想いが募った。
柱位置に据えた玉石の総数は、56個。解体民家の廃棄現場から譲ってもらった。「石据えるだけで、9人がかりで一日仕事でしたわ」誤差は+ー5mmに収めた。
玉石群を含めてベタ基礎土間コンクリートを打つ。 オープンハウスの家づくりの過程を記録した「かっちゃんの跳ねる家」サイトもお勧め。伝統構法の家と通常の家とのちがいがよく分かっておもしろい。
事務所には「夢は必ず叶う」という貼り紙が。「叶うのが、夢や。叶わないのは所詮、幻ですやろ?」幻の石場立ての家を論ずるより、建ててみて、どんなものか、検証しよういうのが、今回の現場なのだ。自宅ではあるが、工務店のオープンハウスとして開放する。形になった夢は、多くの人が実感できるものになる