栃木県栃木市。東武日光線の駅に地下足袋と、とびきりの笑顔でお迎えに来てくださった大兵工務店社長の山本兵一さんの車で駅から少し離れると、蔵づくりの家並みが旧市街の街並み。栃木市は徳川家が墓所を日光の東照宮に移して以後、江戸と日光とを結ぶ例幣使が行き交う要所として、また渡良瀬川、利根川を通って江戸川につながる「巴波川(うずまがわ)」の舟運により、北関東屈指の商業都市として栄えたところだ。
背後に漆喰の産地である葛生(くずう)を控えていることもあり、白い漆喰塗りの蔵が川の方をむいてズラリと並ぶ。舟運が盛んだった往時の風情を楽しんでもらおうと、最近では地元ボランティアによる、観光向けの川船の運行も始まり、川越と並んで「北関東の小江戸」としての人気が高まってきている。
盛況をきわめた明治時代に、江戸の山王祭の山車を譲り受けて以来130年もの間、各町内から山車を繰り出して繁栄を祝い、祈る「とちぎ秋まつり」が続いている。川沿いに蔵が多いのも、物資の集散地として問屋業が栄えたことのあらわれだ。生まれも育ちも栃木市、ひいお祖父様の代から大工の家系だ。大工は昔から家をつくるというだけでなく、地域の取りまとめ役としての役割を担っていたが、山本さんの家でも、山車曳きのカシラを務めている。
巴波川に出る路地を少し歩くと、川船の風情をあらわしたタイル絵が目につく、大きな蔵造りの家がある。山本さんが先頃、自宅兼モデルハウスとして建てたものだ。「栃木の街並を残していくためには、古い街並をつくるという役割を果たしつつ、かつ、昔ながらの木の家に気持ちよく住めるんだという事を積極的にアピールしないといけない。そこで、まずは、自宅の建て替えから始めました」
漆喰の白と瓦の黒のコントラストが美しいその建物の1階の右側が事務所に、左側が駐車場と自宅の玄関になっている。駐車場奥の「手づくりの家」という大きな暖簾が道行く人の目を惹く。玄関扉から一歩入ると、のびのびとした木の空間とやわらかい色土があたたかく迎えてくれる。「空気がちがう、清らかだとみなさんおっしゃいます。木と漆喰の御蔭でしょうね」と奥様。
モデルハウスということもあり、部屋や廊下ごとに、少しずつ違った表情の塗り壁となっている。2階の廊下にはトップライトを取り入れる天窓があり、大きな開口部のない蔵造りの家の採光を補う。どの部屋も落ち着いた、やわらかい雰囲気だ。「ああ、木組の家でこんなに気持ちいいんだ!土や漆喰でこういうこともできるんだ!ということを、みなさんに体験していただきたいです。ぜひ見学にいらしてください」
この山本さんの自宅兼モデルハウスは、第22回とちぎ県産材木造住宅コンクールの最優秀賞(栃木県知事賞)を受賞しているが、さらに、日本漆喰協会 第5回作品賞にも輝いた。10月14日、高知市の三翠園で行われた授賞式には、ご家族や漆喰壁を手がけた左官の栃木さんも伴って出かけたそうだ。