1 2

伝統構法をユネスコ無形文化遺産に!


3/28は京都へ!
「伝統構法をユネスコ無形文化遺産に!」
キックオフフォーラム

「伝統構法をユネスコ無形文化遺産に!」という運動のキックオフフォーラムが3/28に京都で行われます。

キックオフフォーラムのちらし。クリックするとPDFファイルをダウンロードできます

これは、長年、茶室建築や研究を通して伝統構法の啓蒙につとめてきたが中村昌生先生が、「伝統構法のユネスコ無形文化遺産登録」という目的を実現するために新しく立ち上げた「伝統木造技術文化遺産準備会」で展開していく運動です。

各界の有識者を呼びかけ人に迎え、この目的にする賛同団体を募りながら行うもので、職人がつくる木の家ネットも賛同団体のひとつとなっています。木の家ネットの代表の大江忍がこの運動の事務局をつとめています。

キックオフフォーラムは、中村昌生先生による趣旨説明、渡辺一正先生による基調講演「伝統木造建築技術の先端性」、中村昌生先生がコーディネートするパネルディスカッション「日本文化と伝統構法」という進行で行われます。

伝統木造に関わる誰しもが「木の仕事」についての薫陶を受けているはず、故・西岡常一棟梁のただ一人の内弟子である小川三夫棟梁、能楽師の片山九郎右衛門さん、日本画家の森田りえ子さんなどもお話されるという、豪華な顔ぶれです。

左から中村昌生先生、渡辺一正先生、小川三夫棟梁、能楽師の片山九郎右衛門さん、日本画家の森田りえ子さん

最後の伝統構法に携わる「若き大工たちからのメッセージ」では、木の家ネットからも何人か元気のいい大工たちが舞台にあがって、檄を飛ばす予定ですので、どうぞお楽しみに!

banner_forum_0328s2

今回のこの特集では、この「伝統構法をユネスコ無形文化遺産に!」の概要を簡単に説明しつつ、未来につなげていく価値として伝統構法を捉えるという、この運動のスタンスをご紹介します。

ユネスコ無形文化遺産

ところで、「ユネスコ無形文化遺産」とは、一体、何なのでしょうか?

世界遺産が建築物などの有形の文化財の保護と継承を目的としているのに対し、無形文化遺産は、民族文化財、フォークロア、口承伝統などの無形のものを対象としています。日本からはこれまでに、アイヌ古式舞踊、早池峰神楽、京都祇園祭の山鉾行事、能楽、人形浄瑠璃文楽、歌舞伎、結城紬、小千谷縮、和食、和紙が登録されています。

これまでに登録された日本のユネスコ無形文化遺産の一例。左から京都祇園祭の山鉾行事、結城紬、和食

2003年の第32回ユネスコ総会で採択された条項
「無形文化遺産とは、慣習、描写、表現、知識及び技術並びに、それらに関連する器具、物品、加工品及び文化的空間であって、社会、集団及び場合によっては個人が自己の文化遺産の一部として認めるものをいう」

選考基準
1. 人類の創造的才能の傑作としての卓越した価値
2. 共同体の伝統的・歴史的ツール
3. 民族・共同体を体現する役割
4. 技巧の卓越性
5. 生活文化の伝統の独特の証明としての価値
6. 消滅の危険性

今回の運動は「伝統構法」を、この6つのすべての条件にあてはまる技術ととらえ、ユネスコ無形文化遺産に登録することをめざすものです。

登録そのものもですが、より大事なのは、登録に至るプロセスの中で「伝統構法」の価値を認知してもらえるような輪を広げていくこと。それによって「消滅の危険性」を脱し「伝統構法」を未来につなげていける環境づくりを行っていくことであると、準備会ではとらえています。

伝統構法とは?

では、無形文化遺産登録しようとしている「伝統構法」とは、何をさすのでしょうか? 伝統的な建築には、おおまかに言うと社寺・数寄屋・民家の3種類がありますが、それらを通底している

共通の大工技術やその技術を成り立たせているしくみを「伝統構法」としてとらえています。

それぞれについて、ざっと見ていきみましょう。

社寺

社寺建築においては、大きな屋根を受けるために建物の軒をしっかりと支える必要があるために「組物」とよばれる重量分散システムが編み出されました。肘木(栱)とそれを受ける斗(ます)など力強く、勇壮な構成が特徴的です。

組物

数寄屋

数寄屋とは「和歌や茶の湯、生け花など風流を好むこと」という意味です。そういった文化と切っても切れない関係にあるいわゆる茶室建築の様式です。精神性を大事にするため虚飾を排し、質素に見えるように作り込みますが、材料選びに気を配り、繊細で華奢で丸みのある表現をするのが特徴です。

数寄屋

民家

一口に民家といっても、在の農家のような田舎造りから都市部での町家まで、多様なバリエーションがあります。気候風土や生業などに応じて主に屋根の形、それを受ける木組みの架構の方法、材の太さなどが違って来て「その地域らしい建築」が生み出されてきました。

様々な民家

「地域らしい建築」がまとまった景観や街並として残っているところでは住民らの努力により「伝建地区」指定を受けるというケースもあり、伝統構法の「面的な広がり」として注目されます。

栃木市の巴波川沿いに続く蔵屋敷

このように、さまざまな建物として現存している伝統的な日本建築ですが、それらを通底する職人技術は、同じひとつの「伝統構法」。それは、自然と共生する価値観にもとづき「木の性質を見抜き、適材適所に使いこなす」日本固有の、世界に類を見ない高い水準の職人技術です。

伝統構法を成り立たせているのは
「木に対する鋭敏な感覚」

伝統構法の一番の特徴は、それが「木の性質をとことん活かす技術」として作られていることです。木はまっすぐなのは少ないぐらいで、曲がったもの、そのまま材にしたらあとから狂いが出るものなど、よくいえば「個性」悪くいえば「ばらつき」や「クセ」があります。それらを、あれをこっちに、これをあっちにと、用い方をうまく工夫して「適材適所」に活かす「知恵」が世代を越えて伝承され、今につながっているのです。

それを中村昌生先生は「木に対する鋭敏な感覚」と呼んでいます。その鋭敏さがどれほどのものかといえば、木が樹木であった頃にどのように生育していたのかを、材の状態から想像できるほどです。どちらが上(末)でどちらが下(元)だったか、樹木のどの辺りの部分なのか、というばかりでなく、たとえば「これは北斜面に生えていたはずだから、こんな使い方をした方がいいだろう」というところまでを見抜いて、用いるのです。

また、伝統構法は、大工だけでできるものではありません。木を育てる人、伐る人、製材する人、左官、建具、畳、経師表具、錺金具、道具職人など、多くの下支えがあり、仕事を依頼する施主や、時には施主との間に立つ設計者などが居てこそ、はじめてなりたつものです。この運動では、そうした有機的なつながりの総体をまるごと「伝統構法」としてとらえています。

伝統構法の担い手たち

このように日本固有のすぐれた大工技術でありながら、現代の建築を取り巻く状況の中においては「伝統構法」は、法律、教育、経済など、さまざまな面で、苦境に立たされています。

現状と打開策について、次ページへ


1 2
日本の伝統建築はみな「伝統構法」でできています。世界文化遺産に登録された、
厳島神社、平泉、白川郷・五箇山の合掌造り集落なども全部「伝統構法」。