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伝統構法をユネスコ無形文化遺産に!


苦境に立たされている伝統構法

このように日本固有のすぐれた大工技術でありながら、現代の建築を取り巻く状況の中においては「伝統構法」は、さまざまな面で、苦境に立たされています。立ちはだかる「困難」について、分野別に整理してみました。

法律

現在の「建築基準法」は、伝統構法とは異なる発想にもとづく西洋建築学をベースとした法律体系です。その中では伝統構法の位置づけはなされておらず、法律的には「建てにくい」状態が続いています。伝統構法の要素を取り入れた新築や改築をしようとすると、法律の壁にぶつかる場面も、しばしば出てきます。

建築基準法に位置づけられている在来工法と伝統構法との比較

経済

日本の建築はもともと、地域の材料で地域の職人が建てていましたが、高度経済成長とともに興隆してきた「住宅産業」に席巻され、今では家づくりそのものが工業的な量産体制に組み込まれてしまっています。家は「つくるもの」ではなく「買うもの」として商品化され、一棟一棟を手作りする地場産業としての家づくりは、選ばれにくくなっています。

教育

日本の大学で日本建築が系統だって教えられることはなく、その構造や技術体系を理解する技術者や学者、行政官が育たず「日本の大学で建築を学んだ者が、日本建築を理解しない」という、いびつな状況が続いています。

技術研究

工業的な量産体制と商業的な供給体制をもった住宅産業のための研究や技術開発はなされますが、地域で個々に展開する小規模な生業という成り立ちから、ひとつの大きな「産業」となり得ない伝統構法は、つい最近まで科学的な検証の対象となることすらありませんでした。

近年になってようやく石場建ての伝統構法建物の実大振動台実験が行われるようになった

街並や景観の喪失

以上のような要因が複合した結果、日本の伝統建築の文化的な価値に対する認識はかなり低く、いい古い建物も次々と壊されていっています。その地の気候風土歴史にもとづき、地域の誇りとも貴重な観光資源ともなり得るはずの街並や景観が失われているのはとても残念なことです。

木の家ネットのつくり手と伝統構法

伝統構法の要素には、次のようなものがあります。

伝統構法のさまざまな要素(「伝統構法をユネスコ無形文化遺産に!」のWebサイトより)

職人がつくる木の家ネットのつくり手たちは、伝統構法の知恵に敬意を払い、多かれ少なかれその要素を取り入れた家づくりをしています。

蕎麦に十割蕎麦と二八蕎麦があるように、伝統構法の要素を「どの程度」取り入れるかは、さまざまですが。「石場建て・土壁」までやっていなければ工学的には「伝統構法とはいえない!」と厳しく見る見方もあります。

しかし「木が樹木として持っていた力をいただく」「木が好き」「木の家は楽しい」そこがそもそもの「原点」であるとすれば、「木のいのちを生かし、手刻みした材を木組みで組み、無垢の材をあらわしにして使う」だけでも「伝統構法の要素を取り入れている」とは、言ってよいのではないでしょうか。

どの程度の割合で取り入れるかにもよりますが、伝統構法の要素を今の建築において実践しようとすれば、さまざまな困難がつきまといます。

そういった現状を打開しようと、石場建てができるような設計法を作って法制化することを国に求めたり、改正省エネ法で土壁真壁の家づくりができなくなることにならないようにパブリックコメントを集めたり、木の家ネットでも、あるいは「これからの木造住宅を考える連絡会」などでも、これまでいろいろな努力はしてきました。しかし、国が動くところまで行ってはおらず、実務上での運用の工夫や妥協などで、なんとか乗り切っている状況が続いています。

「昔ながらのものだから大切に」
という以上の意味

木の家ネットのつくり手たちが「伝統構法の要素を採用する」場合も、けっして「昔と同じやり方で」と作っているわけではありません。石場建てや土壁まで採用した、十割蕎麦に近い伝統構法であっても、間取り、温熱的な工夫、プライバシーの確保や介護のための配慮など、今の暮らしの要望には応えているはずです。

また、東日本大震災以降、これからあるべき持続可能型の社会を作っていく文脈の中で、よりシンプルに、エネルギーをあまり使わず、環境負荷の少ない暮らしを指向する人も増えています。よりよい生き方を実現する暮らしの器として「家」を考えれば、身近にある自然素材を地元の職人が使って作る、土に還る、エネルギーもそんなに使わず、廃棄物も出さない「伝統構法」の家は「環境と共生する建築」として選ばれる、そんなケースも増えています。

今回のキックオフフォーラムのための基調講演の演題に、渡辺一正先生は「伝統木造建築技術の先端性」というタイトルをつけられました。ちらしにある基調講演の説明文の前半を引用します

伝統とは、その前の時代から継承する価値があると認められ、引き継がれてきた種々の工夫の総体である。固定的で無く、常に進歩・前進する「伝統=先端」と言ってもよい。

この「伝統」についての新しい解釈に倣い、「伝統」=「古いもの、固定化したもの」という思い込みを、いったん外して考えてみましょう。字を分解してみます。

字源より「伝」「統」

そもそも伝統の「伝」の字は「人が、何かを運んでもっていく」との意、「統」の字は「代々受け継がれたもの」糸を撚り合わせて、長くしていくようなイメージをもつこともできます。このような発想を転換すれば、伝統構法を「過去から伝わって来たもののうち、現在の生活に対応させることができ、未来につなげるべきヒントがたくさんつまっているもの」として、捉え直すことができるのではないでしょうか。

ましてそれが、遠い外国の、気候風土の違ったものの丸写しではなく、日本の気候風土に合った環境建築へのヒントとなるのだとしたら、「過去の物」として封印してしまっては、あまりにももったいない! 伝統構法による改築、再生、新築ができる道をしっかりと拓いておきたいですよね。

みんなが参加できる運動で
国民的な理解を広げる

「伝統構法をユネスコ無形文化遺産に!」は反対運動ではありません。 むしろ、伝統文化・芸術・生活文化など、建築にとどまらない広がりを持ち得る、誰もが参加しやすい運動でもあります。

実務者から国に直接はたらきかけても、なかなか道が拓けないのは、もしかしたら「伝統構法を続けていける世の中になっていってほしい」ということが、まだ国民全体の要望となっていないからなのかもしれません。「一部の建築実務者だけが望んでいるだけ」としか見えない状態では、国も動いてくれないということなのかもしれません。

ユネスコ無形文化遺産をめざすこの運動が「世界に誇るべき国民の宝である伝統構法を、次の世代につなげていこう」という国民の共通理解を広げることにつながれば、道は拓けるかもしれません。そして、その道を拓いていくのは、この運動に参加する一人ひとり。

この運動のプレス資料のラストの部分を引用して、今回の紹介特集を終わります。

最終目標は、日本人が自国の伝統木造技術に誇りをもち、将来にわたって「伝統構法」による建築が可能となる社会を築いていくこと。この大きな目標に向かって、建築界のみならず、伝統文化・芸術・生活文化などまでの広がりをもちながら、活動していこう。

そんな運動の「始まり」のキックオフフォーラムに、ぜひお立ち会いください!

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3/28のキックオフフォーラムの会場「ひと・まち交流館 京都」。ここから運動が本格スタートします。