木と土の癒しの空間
ヨハナ ヨツバ・ロッヂはどんな家なのか、まずご紹介いただけますか?
星野さん 製材所で選び、手刻みした材を組み上げ、竹小舞を編み、土壁をつけた、本格的な伝統的な工法の家です。
ヨハナ 星野土建でめざす家づくりそのものですね。それを、お施主さんからの依頼でなく、星野土建が所有し、賃貸する不動産物件として作られたということですね。
星野さん はい、そうです。星野土建で出資しているので、うちで推奨する木の家づくりのモデル住宅として位置づけることもできますが、同時に、単身者向けの賃貸物件として、企画しました。うちは祖父の代からの地域工務店で、設計施工だけでなく、不動産管理もずっと手がけてきています。単身者向けの賃貸物件というと、ワンルームマンションが主流ですが、今回はそうではなく、シェアハウスとしてスタートします。木と土壁のシェアハウスというのは、ぼくの夢の実現でもあります。
ヨハナ どんな夢なのでしょうか?
星野さん 東京や横浜で若い人が借りる賃貸物件といえば、およそ新建材でできたワンルームマンションと決まっています。しかし、それでは、家に帰っても、さみしいし、くつろげない。家に帰った時に、木のぬくもりや香りがあれば、それは癒しの空間となり得るでしょう? そんな魅力的な賃貸物件を、作りたかったんです。
ヨハナ それで、伝統的な工法で作ったんですね。
星野さん そうです。自然が少ない、ストレスの多い都市部だからこそ、帰ってほっとする場所であるべき家は、木と土の空間であった方がいいと思うんです。けれど、単身者がそれを個人ではなかなか実現できない。だったら、うちで作って賃貸しよう、という発想です。
単身者でも入とのつながりをもてる暮らし
ヨハナ 「帰ってほっとする家」としてのヨツバ・ロッヂを、戸建ての賃貸としてでなく、シェアハウスとして企画されたのは?
星野さん ぼくが作りたいと思うぬくもりは、空間的なものだけではないんです。現代の都市の生活の中で、ワンルームで一人で暮らしていると、孤独や不安を感じる人も多いのではないでしょうか。人はもっと、触れ合い、あったかみ、話せる相手を求めてるんじゃないかなと思うんです。恋人と同棲するか、家族をもつとまで、いかなくてもね。昔は、下宿や共用廊下のアパートにそういった人間関係があったんですが、今は稀薄になっています。そうしたつながりを取り戻せる家ということで、ヨツバ・ロッヂをシェアハウスとして企画したんです。
ヨハナ どんな人に住んでもらうことを想定していますか?
星野さん 独身の社会人が希望です。男女混交で、単身者を4人募集します。人とのつながりや交わりを求めている人、というのがざっくりとした条件です。
ヨハナ 日吉というと学生の街というイメージがありますが、学生はメインターゲットではないんですか?
星野さん 学生には、サークルやゼミ、バイト先など、学生特有の友人関係があります。ヨツバ・ロッヂにはむしろ、そういった人間関係が稀薄になりがちな、独身の社会人に来てほしいですね。
ヨハナ 働き始めると、仕事や用事以外で人と話すことが激減する傾向があるようですね。
星野さん そうなんです。上司や同僚との関係は、利害や上下の関係などがあって、どこか心を開ききれない。しかも、仕事を始めると、それぞれに忙しくなるので、学生時代の友人と会うことも減って、気づいてみたら、ごく限られた範囲の人間関係しかない状況になりがちです。
ヨハナ 「社会に出る」とはいうけれど、結構世界が狭くなりがちかもしれません。働く場が違う同士が共同生活することで、そうした均質性や狭さから解放されますよね。
星野さん家に帰ると誰かがいて、お茶でも飲みながらその日にあったことをしゃべる、いっしょにテレビを見る、誰かの友達が来る・・そういった何でもないことが、ストレス発散、視野の広がり、好奇心の刺激などにつながると思うんです。
ヨハナ 声をかけたり、かけられたりする人が相手がいる。恋人や家族でないけれど、日常的な交わりがあるということですよね。
星野さん 設備が共用だから節約できる、一人で住むよりも住環境がよくなる、というのも確かにシェアハウスの利点ですが、それ以上に、人とのつながりをもてる暮らしができるのが、何よりのメリットだと思いますよ。
地域に開かれたシェアハウス
星野さん ぼくはヨツバ・ロッヂを、地域に開かれたシェアハウスにしたいんです!
ヨハナ ご近所の方ともつながるということですか?
星野さん そうです。一軒家というのは、マンションとは違って、家の中だけを向いて暮らすのではない面があります。表を掃き掃除する時に近所の人と挨拶を交わすというようなコミュニケーションも生まれてきます。
ヨハナ たしかに、そうですね。
星野さん 近所というのは、さまざまな世代の人が交じって住んでいるコミュニティーです。若い人は世代同士に付き合いが限定されがちなのが、地域に開かれることでぐんと広がると思うんですね。
ヨハナ ヨツバ・ロッヂとご近所とのお付き合いは、どのように実現するのですか?
星野さん ぼくが管理人として多少のお世話をしながら近所の人を招いていっしょにお茶を飲む「オープンハウス」ができたらいいな、と思っています。そう大げさなことではなく、ささやかなことでいいんですけどね。
ヨハナ オープンハウスでご近所の方とお話ができる関係性が生まれると、交わす挨拶に心がこもりますね。
星野さんせっかく星野土建が、賃貸物件をつくるのに、それがアパートやワンルームマンションであれば、地域との交流は生まれにくいですよね。一軒家のシェアハウスなら、その可能性があると思うんです。オープンハウスを通して、こんど一緒に料理しようかとか、味噌を共同で仕込まない?といった、世代間の交流が自然発生的にでてきたらおもしろいな、と思っています。
ヨハナ 星野さんも星野土建の二階に住んでいらっしゃいます。星野土建さんのすぐ裏にあるヨツバ・ロッヂとは、まさにご近所になるわけですね。
星野さん そう、ここはぼくが生まれ育ってきた場所ですが、昔からの家の住人は高齢化していて、そうでない後からできた賃貸は入れ替わりが激しくて、地域の顔が分からなくなっています。道ばたで行き交う人に「こんにちは」と挨拶しても、キョトンとされてしまうこともあって・・人がいないわけではないのですが、地域コミュニティーとしては、歯抜けのような状態になってしまっているんです。
ヨハナ 人は多くても、さみしい状態なんですね。
星野さん ぼくが子どもの頃は、いろいろな世代の人がいて、そんなに濃いつきあいではないにせよ、つながりはもっとありました。庭でとれたゆずを持っていくとか、挨拶を交わすといった程度のことなんですが、それが日常の潤いでもありました。ヨツバ・ロッヂが、ご近所づきあいの復活につながっていくといいなと思っています。
ヨハナ ヨツバ・ロッヂの「ご近所」づくりは、じつは、星野さんご家族にとっての「ご近所」づくりでもあるんですね!
星野さん 行き交う人は多くても、挨拶の声も聴かれず、見知った顔もない。そんなコミュニティーがない状態で高齢化社会を迎えたら、人はどうやって生きていくのでしょうか? 医療や介護がいくら充実しても、心のつながりがない、さみしい状態では、生きてゆけないのではないかと思います。ツイッターやFacebookといったソーシャルメディアが流行るのも、結局は、つながりを求めているからでしょう?
ヨハナ都会での生活で稀薄になっているつながりを取り戻すひとつの方法としてのシェアハウスなんですね。星野さんって、結構、さみしがりやさん ??
星野さん 図星です!
地域工務店の役割
人が集まる場づくり
ヨハナ星野さんがシェアハウス経営に踏み切った、その発想の根っこは、どこにあるのでしょうね?
星野さん 父の代に、年一回、工務店の中庭でお祭をやっていたんですよ。餅つきをしたり、野点のお茶席があったり、ステージで素人バンドが演奏したり、ちょっとした出店があったりね。12年続いていたんですが、手伝ってくれる職方さんが高齢化していたり、次を担う我々世代が子育てで忙しかったりするのもあって、おととしでやめちゃったんですよ。うちでお祭りをやり始めたことをきっかけに、かどうかは分かりませんが、近所の神社で餅つきが始まったり、地区センターのお祭りが復活したり、地域に対する役割は果たせたのかなというのもありましたしね。
ヨハナ 納得してやめたはずなのに、何か、さみしいんですね?
星野さん そうかもしれない・・・そういった、近所がワイワイ集まるきっかけづくりをするのも、地域工務店のひとつの役割なんじゃないかなって、思うんですよ。
ヨハナ 落語に出てくる棟梁には、地域をまとめるカシラと言われるような人がいますね。
星野さん ぼくは先に立ってガンガン引っ張っていくタイプではないんで・・ちょっと形を変えて、オープンハウスもいいかな、と。それも、工務店が主催するのでなく、ヨツバ・ロッヂのみなさんと一緒にやっていくという形でね。
ヨハナ 行政が運営するのとは別の、こじんまりとした、あったかい人の輪ができそうですね。
星野さん ぼくもそれを、楽しみにしています。そのために居間は広く、そして居間につながるウッドデッキも作ろうと思っています。ご近所でバーベキューしたり、生ビール飲んだりできたら、楽しいだろうなあ!
入居者の暮らしのルールづくり
共同で暮らしをつくりだしていく楽しみ
ヨハナ ところで、ヨツバ・ロッヂを運営していくためのルールづくりも必要ですよね。そこはどうするのですか?
星野さん こういうことって、多数決では、なかなかうまくいかないんですよね。しこりが残ったりもしますし。当面はぼくが管理人的な立場で関わって、大まかなルール作りはしようと思っています。
ヨハナ それにまつわる調整ごとって、大変じゃないですか?
星野さん 和を大事に、誰か一人にとっての最良とか理想に収めるのでなく、それぞれが少しずつ妥協する部分をもちあいながら、折り合いをつけていく、というようなことだと思うんです。ぼくは割と、そういうことには向いている性格かな。
ヨハナ 食事も当番制だったり、ひとりずつだったり、共同の食費財布をつくっている、ご飯たけは一日分をまとめて炊くなど、シェアハウスごとにちょっとずつ違うようですね。中には「そうじが得意な人はそうじ、洗濯が好きな人は洗濯」と、当番制ではなくて、好きなことを分担するところもあるとか。
星野さん プライベートと共有の線引きなど、その時のメンバーで編み出していくベストな合理性があるんだと思います。ひとり暮らしでは傍若無人な暮らしかたをしていたとしても、ある常識というか、人と円滑に暮らすための最低限のラインを見つけていくんでしょうね。
ヨハナ 家族でない誰かとの共同生活の経験は、一生の宝になりますね。結婚するなら、シェアハウス経験者!なんて言われるようになるかもしれないですよ!・・・どんなメンバーが集まるのでしょうね。
星野さん ぼくも今から楽しみなんです。協調の精神で暮らしをつくりあげていくこと、近所と交流することなど、ヨツバ・ロッヂならではの特徴があるので、それを理解し賛同していただいた上での入居ということが大事だと思っています。先着順というのではなく、募集期間を決めて、応募のあった方と面接の上で決めたいと考えています。
ヨハナ 入居者4人のバランスもありますしね!
星野さん いずれ、入居者の中から、ヨツバ・ロッヂを自主運営していけるような、入居者兼管理人的な人が育ってくるんじゃないかと期待しているんですよ。
ヨハナ 「めぞん一刻」好きだったでしょ??
星野さん もちろんです!