植木屋のTさんの家。ゆったりと雁行するプランの平屋。
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工務店・宮本繁雄さん(建築工房 悠山想):古びない家


いつまでも住み続けたいと 思ってもらえる家をつくりたい!

モダン建築と日本建築とが出会う

左/玄関を開けると、上がりがまちの浮こうに苗木畑にもなっている庭が見える。

「この人のデザインは古びませんね。」と宮本さんが言うのが、吉村順三さん(1908-1997)。戦前にアメリカに渡った吉村順三は、煉瓦や石を積み上げて建物をつくってきた西洋の建築を、その暗さや重厚さ、過剰な装飾から解き放ち、無駄を省いたシンプルで機能的な明るさへと羽ばたかせていこうとするモダン建築の息吹に触れた。

一番奥のリビングから廊下越しに玄関方向を見る。おじいさんがいつもいるお茶の間は建具を引き込んで開放しているので、全体がのびのびと一体化している。

柱と梁で構成される軸組によって得られる広い開口部。構造がそのままあらわされ、それが意匠ともなっている明快さ。家具などをほとんどおかないすっきりとした空間などがそうだった。帰国した吉村は、モダン建築がめざす要素がじつは日本のあたりまえの建築の中に、たくさんあることを、あらためて知った。

さらに「自然の超克」から「自然との調和」へ

リビングだけ天井が高く、吹抜け風になっている。広い部屋だがトップライトを取り込んで全体が明るい。

日本建築の中に「古びない」要素を再発見した吉村は、自作の中で日本の伝統とモダン建築との融合を進めていく。そしrてさらに、人間と自然との間に分断を生んでしまうモダン建築のもつ限界さえも、自然とつながり、調和する日本建築のエッセンスを取り入れることで、克服していったのだ。

軒下の雰囲気。

「庭に面した掃き出しのガラス戸、その手前の大きな格子の障子、それも引き込みになっていて室内と戸外とをひと続きにもできて。ソファーやテーブルを置いてもさまになる、洋風の空間なんだけれど、外と内とが遮断されている感じがないんです。そういうことを、広くない、ごく普通のざっくりとした家でも、ちゃんと実現している。それが、いいんですよ」そう絶賛する吉村順三の精神を、宮本さんはきちんと受け継ぎ、今に実現している。

なにが欠けているのだろう、最近の家には?

別のお宅。建てたのはまだ建築工房・悠山想を構える以前、20年以上も前。

プライバシーのなさ、暗さや寒さ。設備の不便さ。西洋のモダン建築が新しい一歩を踏み出そうとしていた頃と時を同じくして、生活様式の現代化とともに、日本のそれまでの家が「そこから解放されたい」ものだらけに見えた時期もあっただろう。「かといって、今の生活に合わないものをつぶして、かわりのものを積み上げて行っただけでは満たされなかった、なにか抜け落ちたものもあると思うんですよ。」

緑のあふれる玄関まわり。

宮本さんはそれを「ノスタルジー」と呼ぶ。そこにいて落ち着いたゆったりとした気持ちになれるか。長く住んでなつかしさをおぼえるか。次の世代の家族がそこに住み続けたいと思うか。それが感じられる家であれば、その家は「古びない」のだ。

「プランニングも大事ですが、木、紙、土といった素材感、そして職人の手仕事でその家ができていることがその要になりますね。」と宮本さんは言う。


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左/リビングをテラスに続く掃き出し窓側から見る。 右/リビングの南からも東からも、全面の光。ガラス越しの光と障子越しの光とがブレンドされている。