自分がした改修工事の百年後、 二百年後がどうなっているか、この目で見てみたい。
大阪府大東市の町中にある瑞玄寺の改修工事をしている。ご住職による「本堂改修ブログ」で改修工事の日々の様子が分かる。
薬師寺で修業を積み、奈良の株式会社大和社寺工営の施工部門として実力を発揮する不動舍の宮村樹さんを大阪府大東市瑞玄寺の改修現場に訪ねました。個人住宅のつくり手が大半を占める木の家ネットにはめずらしく、社寺を専門とした仕事をするつくり手です。
創建当時の仕事が見える
天井を見上げた時とはまったく違う、小屋裏の様子。
社寺の改修は、時間がかかる。「古い瓦をおろして、屋根をめくって、軒まわりの傷んだところやもたない柱を新しくして…とやっていくと、どんなに短くても1年半ぐらいはかかりますね。地盤とともに部分的に下がってしまったところやそのことで生じた歪みを直し、必要に応じて、表からは見えないところでの耐震補強をします。瓦のラインや飾り物は、なるべく創建当初を再現するようにしています」
瓦の重みで破風を支える母屋が折れている。
今手がけているのは、築70年のお寺。室戸台風で前の本堂が壊れた後に急いで建てられたものだ。「戦争に入る前のもののない時代、しかも必要にせまられての急な再建という情況の中で、走っている仕事という跡が見受けられますね」同じ築年数でも、建設当初の建て方次第で、年数以上に痛みが来ていることもあれば、よくもっているなと唸らされることもある。「結局、最初にどれだけきちんと建てられているかなんです」
改修の工程を想像する。そのむずかしさと楽しさ
同じく瓦の重みで、鎌が破断してしまった。
だから、フタを開けてみないとどれだけの規模の改修工事になるか分からない。「屋根裏に入り込んでほこりまみれになって調査します」内部の写真を撮り、模型をつくる。「本来ここはこう入っていないとならないのが、ないのでこういうダメージが来ました、ということを説明します」入札で競争会社より高い見積もりになったことがあった。それでも、その仕事は宮村さんのところに来た。「ひとつひとつを積み上げて情況をひもといていったので、必要性を納得してもらえたと思っています」
古い松の梁を再利用するために、桁の上におろしてきたところ。
それでも改修工事は「実際にめくってみないと分からない」部分が多く、見積もりは難しい。目に見えるところ、触れるところから得られる情報を総合し、見えないところを想像してベストな改修方法をシミュレーションしなければならない。「ぼくがやって次の改修の時には、ぼくは生きていないでしょう。次にめくる大工が『いい仕事しとるな』と思ってくれるかどうか、確かめようがない。自分のした仕事の100年後、200年後を見てみたいですね」