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第三回これ木連フォーラム「伝統構法はこれからどこへ向かうのか?」の報告


はじめに

第3回目フォーラム開催までの流れ

これ木連では、改正建築基準法施行以来、これまで2回フォーラムを開催しています。それぞれの内容については、すでにご報告をしていますが(1回目の報告はこちら2回目の報告はこちら)これまでの流れをひと通り、概観してみましょう。

これ木連は、改正建築基準法が施行されて3ヶ月後、2007年の9月に「このままでは伝統構法の家づくりができなくなる!」という危機感から、実務者から国に対して声をあげるために、伝統木造にかかわる諸団体の連絡会としてたちあがりました。

まずは、改正建築基準法のどの点が伝統構法の家づくりを不当に圧迫しているかという問題点を洗い出し、実務者からの意見書としてとりまとめ、国交省木造住宅振興室に提出し、回答を求めました。

実務者と木造住宅振興室とのミーティングを重ねていくうちに、問題の解決をはかるために、国の方で予算を取り、建築基準法に伝統木造住宅をどのように位置づけたらよいかを検討する3カ年事業を実施するという流れが生まれてきました。それが今、おこなわれている「伝統木造住宅の性能検証および設計法構築事業」です。

これまでこうした事業は研究者に一任されがちで、そのことが現場にあわない結果をもたらすことが多かったのですが、今回の事業については、実務者も委員として加わり、現場からの意見を伝える役割をするという(それがきちんと機能すれば)画期的な体制がとられました。

初回のフォーラム 2008年7月開催
実務者も委員として入っているんだし!
なんとか、がんばろう

1回目のフォーラムは、事業のための委員会が組織されないうちから準備が始まり、委員会が2008年末の実大実験に向けて動き出した頃に開催されました。「このままでは伝統構法の家がつくれなくなる!」という呼びかけに会場に入りきれないほどの伝統木造関係者が詰めかけ、改正建築基準法の伝統木造を圧迫していることを身にしみて感じている実務者の多さが歴然としました。

前半で改正建築基準法後、実質上建築できなくなっている「石場立て」を実践してきた大工と設計者から問題点を指摘する報告があり、後半のパネルディスカッションで事業を発注した越海木造住宅振興室室長や、事業の主査に就いた大橋好光先生と事業の方向性を議論しました。

3人の大工さんのおしゃべりとして議論の流れをトレースした木の家ネットでの報告コンテンツの結びでは、伝統木造のための基準をつくることがかえって家づくりの自由度をせばめることになるのでは?と危惧しつつも、委員会に入った実務者ががんばって物を言っていくことで未来を拓いていかなくては、という論旨でしめくくられています。

2回目のフォーラム:大橋先生からの実験報告
実務者の希望とは裏腹に、足元固定の方向性の中で事業は進む

1回目のフォーラムの後、委員会では実大実験のための準備が進められ、2008年末には、E-ディフェンスで実験が行われました。2回目のフォーラムは、年が明けて2009年の3月、大橋先生からの実験報告として、開催されました。

実験に対する実務者のいちばん大きな疑問は「なぜ、足元の左右移動を制限した形で行ったのか」ということで、会場から質問がなされましたが、大橋先生からは「建物の上部構造すらまだ解明されていないのに、足元をフリーにするところまではとてもいかない」という返答があっただけで議論にはならず、実務者としては、はぐらかされた思いが残りました。

実務者の望む方向に動かない委員会に、
実務者委員から提案書と意見書を提出

実務者の間では、足元を固定しない建物が伝統構法の基本形であり、それを抜かした形で設計法を構築しても意味がないという思いが強まっていきました。それを委員会にぶつけても「そもそも伝統構法とはなにかという定義ができていないから」「みなさんの考える伝統構法のモデルを出してください」と言われるばかりで、研究者と実務者との間の議論は平行線が続きました。

「そもそも伝統構法とは?」という前提条件については、事業当初からあった分類TTというタスクチームでヒアリング、検証、まとめなどが進められるはずでした。ところが、そのTTでの作業がまったく手をつけられないままに、つまり「伝統構法とは何か」という事業としての共通認識のないままに実大実験が計画され、実施され、解析が進んでいたこともおかしな話です。これが「実務者が考える伝統構法」と「研究者が考える伝統構法」との前提条件が合わず、議論が食い違ったまま、研究者主導で事業だけ進むという状況を生み出す原因となっていました。

こうした膠着状態を打破するために、実務者委員は「伝統構法についての共有認識事項」という提案書を委員会に提出した上で(提案書はこちらでご覧になれます)、その理念と委員会の進め方のズレについて、個別のTTに意見書を繰り返し提出してきましたが、進展はなかなか見られず、足踏み状態が続いています。

このままでは、 日本の歴史や文化が守れない!
焦燥感と危機感の中で、3回目のフォーラムを企画

実務者として事業に名を連ね、意見書を提出しても、委員会には反映されない。このままでは委員会に参加している実務者は「現場の意見も聞きました」というアリバイ工作的存在として利用されてしまうのではないか。それでいいはずがない。そんな焦燥感と危機感の中で、第3回フォーラムが、はじめて関西の地で企画されました。

「伝統構法を守ることは、日本の文化をつないでいくために必要なことである」「構造面だけで、これまでの日本の建築文化の蓄積を否定できないはず」という共通認識から準備がスタートし、登録文化財である生家を文化伝承の場として活用されている畑田耕一先生に基調講演を依頼。そして、講演に続いて、事業を発注した越海木造振興室長室長、委員会に参加している実務者、事業を進めている主査である大橋先生や検討委員として参加する鈴木先生も交えての公開ディスカッションを行うことになりました。

現在科学的に分析のできる範囲内だけで、伝統構法を規定、規制する基準をつくってしまえば、日本の建築文化の蓄積の大きな部分は「今の科学で構造安全性が確認できないために」根絶やしになってしまう。本来、この事業は苦しい立場に追いやられている伝統構法を救うためのものであったはずなのに、事業そのものが目的を達成する方向に進んではいないのではないか。以上が、主催側の論点です。

第3回フォーラムのまとめ

以上のような経緯で開催された第3回フォーラムの結果を、ご報告します。

畑田先生の基調講演の要旨を2ページめに、パネルディスカッションのポイントを、キーとなる発言をもとに3ページめに編集しました。かつ、編集していない全発言を、こちら4ページめで、会場からのアンケート結果のまとめを5ページめで、ご確認いただけます。フォーラムの概要と賛同団体の一覧リストは最後のページにまとめました。

実務者からの要求:7つの要点

実務者と研究者がまだともに事業を進めていく前の「お見合い」状態で行われた第1回、研究者の意図と計画を一方的に聞くだけで後に割り切れない想いの残った第2回とは異なり、第3回は事業に対する実務者からの異議や要望がはっきりと出ました。

その論点を、次の7項目にまとめました。

1. 伝統構法の性能検証事業のそもそものねらいは?

事業の目的は伝統構法を残すことなのか? あるいは研究者の現時点の見解で「耐震性が低い」と判断するものを、ふるいおとすためのものなのか?

2.研究と運用の分離

伝統構法の科学的な解明には時間を要するので、今後引き続き、長い目で取り組む必要がある。しかし、現時点で分からないものを許可しないことになると、取りこぼすものがたくさん出る。その代表が「石場立て」。

現在の事業の流れが、長い時間を経て現在まで残って来ている日本の建築文化の蓄積を今世代で終わらせる方向に向かうとすれば、それは歴史と未来に対する重大な過ち。研究と運用との関係には慎重であるべき。国の法律は、文化の蓄積の上にあって然るべきである。

3. 既存不適格問題に取り組む視点を

新築建物のためにできる基準は、即、これまであるものをどう保全、修復、改修できるかにつながる。現基準や事業の成果としてできてくる計算法にのらないことから「既存不適格」とされる膨大なストックに対して、どう向き合うか。ストック型社会に向かうにあたって、既存不適格と言われる建物を、その建物本来の性質に合うように取り扱うことが急務。科学的な解明を待っていては、消滅する建物も多い。

4. 適判送りは建物の種別や規模で決めるよう法改正を

小規模な木造住宅で限界耐力計算を用いるケースは、改正建築基準法施行時施行時には「想定外」の事象であったのであれば、適判送りの運用は「想定内」に戻すために、4号物件程度(伝統木造伝統木造であれば300平米以下程度)の建物は除外する旨を付け加えていただきたい。

5. 簡易設計法は誰のためのものか?

簡易設計法は、適判送り問題の対象となった「石場立て」の解決とはならない。足元固定の場合でも、JAS規定という別の足かせかかってくるので、伝統構法を実践する者にとっては、残念ながら使いやすいとはいえない。

6. 「関西版マニュアル」を補強して使えるように

事業の結果としてでてくる設計法が、伝統構法に関わるつくり手にとって使えるものにならないのであれば、これまで性能規定伝統構法の確認を通して来た実績のある「関西版マニュアル」を建築確認の場でより使えるものに育てていく方が、現実的では? 関西方面での石場立ての適判の実績データの集積や、越海室長が示唆した来年度の「石場立ての実大実験」で、その道を現実のものとしたい。そのためには、鈴木祥之先生に実験をリードしていただきたい。実験する試験体をどうしたらよいかという案の作成、試験体の実施製作面でのバックアップ等、実務者の協力は惜しまない。

7. 建築確認行政を地域主導に

地方の建築主事とのやりとりの中で確認が通せるしくみを築いてほしい。「地方に判断能力がないから中央へ」という発想は、地域主権の可能性を阻む。地域の主事が判断能力を伸ばすための策、建築主事と実務者とがともに伝統構法を学ぶ場をつくる等が先決。

なお、今回のコンテンツは、この「はじめに」のページを除いて、全文を印刷することができます。こちらからPDFファイル(996KB、全文43ページ)をダウンロードしてください。


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