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第三回これ木連フォーラム「伝統構法はこれからどこへ向かうのか?」の報告


畑田耕一先生
基調講演

『伝統的木造住宅の保存・継承を考える』

関西フォーラム開催にあたっては、伝統構法の性能検証・設計法構築事業の進み方について話し合う以前に、まず「なぜ伝統構法を残していきたいのか」を、会場の参加者とともに再確認したいという意図がありました。

なぜ伝統構法を残したい残したいのか。その底流にあるのは「伝統構法を存続することは、日本の文化を未来につなげていくことにつながる」という想いです。

暮らし文化、高い職人技術、季節感、日本人の精神性など、伝統の家づくりには、日本の木の文化が凝縮されています。だからこそ、国には「現代の科学で解明しきれない部分があったとしても、残していくことを前提に考えてほしい」と訴えているのです。 フォーラムの冒頭でパネルディスカッションに先だって基調講演をされた畑田耕一先生は、大阪府羽曳野市の登録有形文化財である改築後120年を経たご生家を、こどもたちの学びの場、市民の芸術鑑賞の場などに、積極的に活用する「畑田家住宅保存活用会」をつくり、熱心に活動されています。

畑田先生の講演には「なぜ伝統木造住宅を残し、これからもつくり続けられることが必要なのか」という、関西フォーラム開催の根っこにあった問題意識の核心にふれるものでした。それは、参加者のアンケートにも共感の声としてあらわれていました。

畑田先生の講演の中から、伝統木造住宅のもつ「住育の力」、そして現代の伝統木造住宅のつくり手のなすべきことについてお話いただいた部分の抜粋の要約と、アンケートに記された参加者の感想をご紹介します。

伝統木造住宅のもつ
「住育」の力

私がみなさんに伝えたいのは、伝統的木造住宅は、文化伝統の継承にもっとも必要な「人の心」を育てるということです。私はこれを「住育の力」と呼んでいます。

この頃「食育」ということが言われ、栄養を満たすだけでなく、何をどのように食べるか、食べ物の背景を知ることが大切だという認識が広がっています。どこに住むか、どのような家に住むかということも、同じくらい大事なんです。

伝統木造住宅は想像力の泉
科学的な能力を育てる

幼い頃、風邪を引いて休んでいる時、天井をながめて、いろいろな想像を豊かにした記憶があります。

昔の家には、すだれ障子、かまど、消しつぼ、がんどう、ねずみ返し、蔵の二重扉など、先人の工夫やたくさんつまっています。

見て、どうなっているのか考える。なんのためにこうしているのかな、よくできているな。よく観察し、推論し、理解することは、こどもたちの想像力を育みます。想像力は、科学的な能力の根源であり、創造力へと結びついていきます。

こどもたちを伝統木造住宅の中にほうりだしてあげると、建物の中でさまざまな発見をしますよ。古民家の構造、機能、生活の工夫を知り、昔の生活用具を使ってみる。これは想像力の向上につながり、ひいては創造力、道徳的、科学的能力の向上につながります。

伝統木造住宅で体験する
「ものとの対話」

また、伝統木造住宅には、建物を長く使い続けられる工夫がたくさんあったり、材料をうまく使い回していたりします。それを発見することで、「もったいない」という心を知り、それが「ものを大事にしよう」「他者をいつくしむ」という道徳的能力の根源につながります。

伝統木造住宅には、季節のきびしさをしのぐ、季節の移ろい楽しむしつらえもたくさんあります。夏には建具をすだれ障子に変えることで風通しを確保し、見た目にも涼しく過ごしました。また、縁側を通して庭とつながっている生活空間には、いつも季節感がありました。

文化財クラスになると、伝統木造住宅を作った人は、もう亡くなっています。しかし、ことばをしゃべってくれない「もの」を通じて、想像をはたらかせることによって、昔の人や未来の人とさえ、コミュニケーションができるのです。

ものを、他者を、過去や未来の人を、動植物を、自然を大事にする心が育つ場が、今のこどもたちには必要ではないでしょうか。

現代の住宅は
人を育てているか?

かつての英国の宰相であるチャーチルは「人は家をつくり、家は人をつくる」と言いました。伝統木造住宅は「人をつくる」最高の教室であると私は思います。

現在の住宅は機能的で、無駄が無い、ただの箱です。かくれんぼする空間すらありません。そういう家で、想像力が育まれていくのだろうか、と危機感を覚えます。

我が家に学びに来る子の中に「先生の家にはなんで広い庭があって、松が3本もあるの?」という子がいるんです。自然と隔絶した、雨露をしのぐだけの箱に住んでいると、 自然と融合していた昔の家が不思議に見えるんですね。

それでも、住んだことがあるはずもなく、親世代ですら伝統木造住宅に住んでいないのに「なんか、ここはなつかしい」という子もいます。やはり、日本人の遺伝子の中にある何かが、伝統木造住宅にはあるんですね。それを子どもたちは感じているんです。

たとえ今、伝統木造住宅に
住んでいなくても

伝統木造住宅の空間には、現代の建物とはちがった、親しみやすさ、落ち着き、自然との一体になったやすらぎがあります。

たとえば、専門家の話を聞くのでも、壇上からというのでなく、同じ目線で学べます。音楽や朗読など芸術を味わうにも、落ち着いてあたたかい雰囲気の中で楽します。建物と庭とが自然につながっていて、季節の営みを感じとることができます。

住んではいなくても、文化財を訪れ、文化財を活用したイベントなどの機会を利用し、想像力をはたらかせ、自然と融合する体験を、していただければと思います。

文化財活用から町づくりへ、
そして、魅力ある日本へ

歴史や文化を伝え、文化を大切にする心を養成するのにふさわしい空間、場、機会を伝統木造住宅は提供できるのです。もっとそれが広がっていけば、風景、景観を構成する文化財を活用ことで、歴史や文化を伝える町づくりにまで結びついていくでしょう。

文化財を残していくには、小中高生のうちに文化財は大切な場なんだという気持ちを育てる機会をつくることが何より大事ですね。

伝統木造住宅での文化活動を行うことが、その機会となります。文化財保存についての人々の認識が高まれば、文化財保護のための公共資金の投入に結びついていくことでしょう。ひいては、それは日本の観光資源ともなるのです。

つくり手の役割
子どもたちに伝える
木の家のよさを伝える

文化を大切に思う心が消滅しかけています。これが何より重要な問題です。

つくり手のみなさんには、学校に言って話をしてほしいです。文化や伝統を大切にする心を育てるために、どこの学校にも道徳の授業があります。こどもへの出前授業をしたいと言えば、必ず受け入れてくれるはずです。それから、大工さんは危ないから、と言わず、こどもに現場を見せてあげてください。

文化や伝統を大切にすることは過去に向うことではありません。むしろ、豊かな感性や想像力を育て、文化を発展させていこうとする意欲を育てることにつながります。

長い将来にわたって文化の担い手になるような、平成生まれの民家をつくっているんだ、という気概をもって、家づくりをしていただきたいです。

そして、長持ちする家づくりについて、もっともっと説明できるようになってください。長い時間の間に木材の強度がどのように変化していくのか、接着剤を使った合板などと製材とで、金物接合と木組みとで、経年変化においてどのような違いがあるのか、本当に長持ちする基礎の構造とは何なのか? そういったことをきちんと説明できるようになることで、住みやすく、耐久性が高く、住育の力をもった伝統型の木造住宅がもっと広がっていくはずです。それを切に願っています。

会場からのアンケートより

  • 畑田先生のお話が心にのこり、この考え方が大切だなと思った。
  • これまで伝統構法を「なぜ」のこしていかないといけないのか?というのを自身の中でうまく説明できませんでしたが、畑田先生の基調講演で重要性を具体的に理解できました(家だけでなく文化全て)。
  • 「古い家にはムダがある」というお話が良かったです。豊かな感性や想像力を育てることのできた世代が少なくなってしまうことが寂しい。
  • 日本全国がマッチ箱だらけになってしまっては悲しすぎます。
  • 家は構造の安全性だけが重要なのではないということ。
  • 畑田先生のお話しで、家が人をつくると話がありましたが、これから子育てをしていく事を考えると、伝統木造の家で、のびのびとまた、大切にする心を育てたいと思いました。

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