2008年の7月12日、優良工務店の会、職人がつくる木の家ネット、日本民家再生リサイクル協会、伝統木構造の会、緑の列島ネットワーク、日本曵家協会の6団体でつくる「これからの木造住宅を考える連絡会」が主宰するフォーラム「このままでは伝統構法の家がつくれない!」が、新宿の工学院大学で開催されました。
平成20年度から3カ年かけて、伝統構法を建築基準法に位置づけるための作業が行われようとしてます。委員会を主体とする研究、実験を重ねた上で、3年後には伝統構法関連の告示をつくるというのです。それがどのようものになるのかによって、これからの伝統構法の命運が大きく左右されます。そこで、国、研究者、実務者が一同に介し、伝統構法の法律への位置づけについて話し合うフォーラムを企画しました。5時間という長丁場であったにもかかわらず、時間が足りないほどの充実ぶりで、定員250名のところ380人もが詰めかけた会場は熱気につつまれました。
大橋好光先生が「年輩の方が多いと思ってたのですが、これだけ若い人が来ていれば、伝統構法の未来は安泰ですね」とコメントされたほど、年齢層の若い参加者も多く「伝統構法を未来につなげる」意識の高まりが伝わってきました。膨大なフォーラムの全貌をお伝えすることはとてもできませんが、当日参加した大工が、参加できなかった後輩にフォーラムの内容を説明する対談風の読み物をつくりましたのでどうぞお読みください。
フォーラムは前半が現場報告、後半がパネルディスカッションと質疑応答、と進行しました。現場報告では埼玉の大工・綾部孝司さん、熊本の設計士・古川保さん、東京の構造設計士・山辺豊彦先生から、改正基準法後のそれぞれの関わる現場の実情が報告されました。続くパネルディスカッションではさらに、これから3年間で伝統構法を法律に位置づけることを決め、実行に移してくださっている越海興一さん、そのための実験・研究の中心人物である大橋好光先生、限界耐力計算を用いて伝統構法の設計法を編み出した鈴木祥之先生も加わり、コメンテーターの後藤治先生、司会の岩波正さんのナビゲーションにより、議論が進められました。
中でもこれまで伝統構法を限界耐力計算で解くのに現場関係者に用いられてきた「伝統構法を生かす木造耐震設計マニュアル」を著した鈴木先生と、これから3年間で木造2階建てに限定した限界耐力計算の簡略法と精査法をつくって行く立場にある大橋先生との間の議論には、会場の聴衆の熱い視線が注がれました。大橋先生が鈴木先生のマニュアルを概ね好意的に評価しており、今後の設計法構築の際にベースとして活用していくという認識でおられることが分かり、伝統構法を合法的に実践するのに鈴木先生のマニュアルに大いに助けられて来た現場関係者はほっと胸をなでおろしました。
ここに、パネルディスカッションに参加したパネリストの発言から、特に印象に残ったことがらをピックアップしてみました。
綾部孝司さん(綾部工務店)「ひとりひとりが違う施主、一本一本が異なる材、ひとつひとつが違う家。それが伝統構法です。机上だけでモデル化するのは無理があります。伝統構法を肌で感じに、国や研究者の方も現場に来てください!」
古川保さん(すまい塾古川設計室)「ふつう法律というものは、外来種を規制し在来種を保護するものなんですが、信じられないことに建築基準法は逆なんですよ。在来種が閉め出されてるんですよ。」
山辺豊彦さん(山辺豊彦構造設計事務所)「試験体を自分たちで作って壊す実験を、大工塾の若い大工たちと一緒にしています。大工が『これは強い』と信じてる仕口でも、そんなに強くないものもあるんです。けど、実際にやれば大工も納得し、そこからどうしたらもっと強くできるか、工夫をともに考えることもできるんです。大事なのは『ともにやる』ということです。」
鈴木祥之先生(立命館大学グローバルイノベーション機構)「限界耐力計算をやさしく説明しろと言われても、できません。簡単にしてしまうと、本質からずれてしまうんです。ですからちょっと大変かもしれませんが、みなさんでも取り組んで、勉強してみてください。そこから理解が始まりますから。」
大橋好光先生(武蔵工業大学)「土壁は初期剛性はあるけれど、壊れ始めたら弱い。逆に貫は初期剛性はないけれど、大変形時に粘る。ひとつの要素で作るのではなく、そうした特性の違う要素の、よいところを組み合わせるような設計法を編み出したいと思っています。」
後藤治先生(工学院大学)「伝統構法は日本のあたりまえの家、特別なものではないとつくり手のみなさんは言うけれど、世の中からはやっぱり特別なものとして見られてる。このギャップをなんとかしない限り、いくら法律上つくりやすくなったところで、伝統構法はあたりまえなものにはなっていかないのでは?」
越海興一さん(国土交通省木造住宅振興室長)「伝統構法は昔からあるから残さなきゃいけないというんじゃない。環境のことを考えると、未来につなげた方がいい面をたくさんもっているから、今、どうしてもなんとかしなければ、と思ってるんです。」
のこぞう親方、げんさん、きりちゃんによる
対談のはじまりはじまり・・・
のこ 鋸蔵(のこぞう)親方:ずーっと伝統構法でやってきた、一本スジの通った親方。もうすぐ還暦。「あれも残そう、これも残そう」が口ぐせ。
げん げんさん:これ木連の活動にも積極的、行動派の中堅大工、40代前半。子どもたちには「大工のげんさん」と呼ばれているが、パチンコはしないらしい。
きり きりちゃん:やる気満々、けどちょっとおっちょこちょいな新人大工。20代後半。姿がきりたんぽに似てるのを気にしているのはナイショ。
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きり 親方、兄貴、東京行きお疲れさまでしたー! どうでした!?
げん 留守番、ご苦労さん。もりあがった、なんてもんじゃないよ。定員250人のところを400人近くいたかな。すごい人だったよ。
のこ 伝統構法のこれからを本気で心配しているもんがこんだけいるのか、って正直びっくりもしたし、うれしかったね。ロビーで中継映像見てた人もいたほどさ。あんだけ大勢集まってて、混乱もなく運んだのは見事だったな。
げん 懇親会で隣になった人は滋賀から来たって言ってたっけか、30人乗りの観光バスで繰り出してきたんだってよ。5時半に築地で朝飯くって、月島の刃物屋さんに寄ってから来たんだって。
きり へ〜、熱いなあ。で、肝心のイベントの中身は、どんなんでした?
のこ 一言じゃ言い尽くせねえけど、まあ、これから先への希望が見える話だったな。きっと伝統構法のよいところは残せるぞ。
げん たっぷり5時間はやってたからな。ま、デジカメで写真も撮って来たから、仕事あがってからゆっくり説明してやるよ。