なぜ石場立てを採用するのか?
床下の通気、そして技術の継承
きり ところで、さっきの話に出てた石場立てっていうのも、環境にいいんすか?
げん 古川さんが実例で説明してくれてたけど、熊本ってものすごく高温多湿なんだ。床下に風を通す、軒を出すっていう昔ながらの家の構え方が、エアコンいらずのほんとの省エネにつながるって言ってたな。

きり そっか。石場立てだったら、床下の風通しは確実にいいっすね。
げん シロアリの発生を防ぐことにもなるし、つねに床下が見えてるから、腐朽がおきはじめてもすぐに気づくからメンテナンスできる。結果、家が長もちすることにつながるのさ。
きり 親方、質問があります。
のこ なんだよ、あらたまって。
きり 石場立ての家って、ムズカシイんでしょうか?
のこ 柱一本一本をそれぞれ礎石に立てるっていうのが石場立てだ。自然石であれば、石の表面は平らでないから、その凸凹に合わせて柱の下端を削らなきゃならない。それだけだって、大変なことさ。その上、そうやってようよう立てた一本一本の柱を足固めで横つなぎにした時に、お互いがぴたーっと合って、年月が経ってもきっちりもつためには、木がどう変化していくかも見定めないといけない。基礎と緊結して、木の変化を抑えこんでしまうより、うんと難しいよ。
きり う〜ん。それでも環境のこととかいろいろ考えて、やるってことっすか?
げん それだけとも言えないな。石場立ての家を建てるチャンスなんてめったにないだろ? けど、だからこそ、自分の技術を注ぎ込んで挑戦してみたい、っていう気持ちが大工にはあるんだよ。そうやって腕を磨くことが、伝統構法の継承にもつながる。そういう面もあると、俺は思うよ。
きり つくり手のこだわりっすねー!! かっこいいなあ〜
のこ つくり手のこだわりもいいが、それだけに偏った言い方をしちゃならんぞ。家は大工の満足のために建てるもんじゃない、施主のもんだ。施主のことを考え、長持ちさせる最大限の努力をする。その中でどういう建て方にしたらいいか、それはその都度違うんだ。木の一本一本の性質が違うのとおんなしで、この建て方が絶対、とかたまってしまってはいかん。
きり あたまも柔軟に柔構造!っすね!
のこ このお調子者っ!

ここ3年で、どうにかする!
ようやく国が対策に乗り出して来た
げん さっきおまえがまとめてくれた話は、石場立てのような限界耐力計算でしか証明できない伝統構法の家が、改正基準法以来、ピアチェック送りになって、つくりにくくなった、というとこまでだったろ。実はその先の展開があって、それが今回のフォーラムの後半のパネルディスカッションの目玉だったんだよ。
きり どんな展開っすか!?
げん 改正基準法以来、おれたちもこれ木連をつくって国交省にアプローチして伝統構法でも特に石場立てなどが困っていることを訴えて来たわけだけど、国交省の木造住宅振興室の越海室長さんがその問題を本気になって取り上げてくれたんだ。
きり おっ、明るい兆し!
げん 木造には滅多にないことらしいんだけど、室長さん、この4月から、伝統構法を検証してここ3カ年でなんらかの形で法律に位置づけをするための予算をとってくれたのさ。鈴木先生や大橋先生を含め木造を研究してる学者を集めて委員会をつくり、その委員会に大工や設計士も公募して入れて、最終的には伝統木造の設計法を確立することを目的に据えながら、ひとまずは今年の12月に実大実験をする。
きり ずいぶん急な展開なんっすね。
のこ 国がやることだ。あらたに法律ができて、よけいにやりにくくなることもありゃしねえかと、心配ではあるけどな。
げん けど、今回はおれたちの仲間も委員会に入ってる。実物大振動台実験にのせる建物をどうするかっていうことの検討だって、現場の人間がやってるんだからな。そんなにひどいことにはならないんじゃないかな。きちっとものを言っていけば。
のこ 長年いためつけられてるからな、信用できないとつい、思えちまうんだよね。
げん 無理ないですよね。金物を使え、内装に木をつかっちゃいかん、風の通る家にだって換気扇をぐるぐるまわせって、おれたちのやってる木の家づくりには合ってない法律があまりにも多すぎるもんな・・・。
のこ けんど、ここは食い込んでいって、いっしょにつくってかな、ならんだろうな。反対ばっかしててもどうもならんしな。
げん さすが親方、前向きですねっ!
のこ 一棟づくりの俺らの仕事を十把ひとっからげにはできねえよ。そこんところをどんだけの自由度をもった、柔軟なものにできっかってとこだよな。
きり また出たな、あたまを柔らかくっつーことですね。

ピアチェック送りは、すぐにははずせない
その替わりに仕様規定や4号物件に特化した限界耐力計算の方法を
きり けどさ、住宅程度に限界耐力計算っていうのもおおげさだから、木造の住宅程度に限ってピアチェックをはずすということにはならないんすかね?
げん おれたちは4号物件程度だったら、限界耐力計算を使った場合でもピアチェック送りはやめてよ、って主張してきた。けど、そこんところは国は今すぐにはいじろうとは考えてないんだな。
きり えーっ、それくらいいじゃないっすか!
のこ 国はな、一度つくった法律をひっこめるってことはなかなかしねえさよ。国の意地ってもんもあるだろうって。
げん すぐにピアチェック送りをやめるっていうんでなしに、国が出してきた案っつーのが、ここ3年で伝統構法向けに仕様規定をつくること、限界耐力計算の簡略計算法、精査法っていう道をつくることなんだ。それをまかされたのが、大橋先生っていうわけさ。
きり その大橋先生っつう人も、鈴木先生みたいにおれたちの味方になってくれる人なんすかね?
げん まあ、すぐにそうやって敵味方って分けるなって! ただ、どちらかというと、柔構造としての伝統構法そのものを受け入れてそれをどうしようかっていうよりは、柔構造と言ったってそんなに傾くようなものをよしとしては、現代のこの世の中では現実に困るだろう、っていうようなことも言ってたな・・。
きり う〜ん、大丈夫なんすかね。
げん 国からまかされて、中にも手抜き業者もいないとはいえない中、これからの基準になるものをつくろうという立場にあれば、慎重になるのも無理はないよ。現代の消費者という法律の受益者も向こうに控えているしな。つくり手と法律をつくる側とのずれはどうしたってでてくるよ。けれど、そこも対話の中でお互いの立場や考えの違いを知ったり、認め合ったりしながら、どこまで歩み寄れるかが大事だと思うよ。
守りたいのは「自由度」
そのために大工や設計士も委員会でがんばる!
げん おれたちとしては、改正基準法前、つまり、鈴木先生の限界耐力計算のマニュアルを使いながら性能規定で石場立ての伝統構法でも通してく道が確保されてる状態は、最低限死守したいけどね。
のこ うちじゃ石場立てまでの仕事はしてないが、せっかく開きかけた自由の門が閉じることのないようにしてもらいたいもんだな。そこがダメになると、伝統構法の根っこの部分を止められるようで、息苦しいよ。
げん だから、今回のフォーラムでも、パネラーが大橋先生に念押ししていたよ。「大橋先生は限界耐力計算を4号物件に適用する簡易式をつくるっていうことですけど、鈴木先生の作られたマニュアルに依拠するような考えで進められるんですか?」ってね。
きり で、なんだって?
げん 基本的な流れは鈴木先生のでいいと思います、って言ってたな。けど、鈴木先生の作ったマニュアルは大筋ざあっとはつくってはあるんだけど、マニュアルを適用するためにはいろんな『但し書き』がくっついてくるんで、どんな建物にも使える万能の計算法だっていうわけではないんだよ。そのあたりを充実させていかないと、みたいなことだったな。
きり じゃあ、だいじょうぶなんっすね!
のこ そうすぐに白黒つけるもんじゃねえぞ。
きり (しゅん)
げん きりちゃん、よく分かっておいてほしいんだけどね、石場立てが通るか通らないか、ってことはポイントのほんの一部でね。大事なのは「ものづくりの自由度」っていうことなんだよ。それは伝統構法に限らないんだ。山辺さんが構造設計の世界の現状を話してくれたけど、そこでも改正基準法以来「よりよく工夫する」自由がせばめられ、窮屈になってる、その一方で書類づくりの重圧は増してるって言ってたよ。そういう状況も、改善された方がいい。
きり 伝統構法ばかりじゃないんですね。個別に工夫しようとする人に辛い基準法になってしまってる。そこが問題だ、というわけか。
のこ つねによりよいものを、と工夫するのがものづくりの精神なんだ。そこが抜きん出ているのが、日本人の本来の職人気質さ。そこを法律が縛ってしまったら、日本のものづくりはおしまいさ。
げん まあ、大丈夫なことにするのかしないのか。委員会にくいこんでるつくり手はじめ、なりゆきを見守っている俺たちにも大きな責任があるよな。ひとまずは、11月〜12月に予定されている、実大実験で関東型・関西型の伝統構法の建物を揺らしてみる、っていうのが次の山場になるな。
のこ おれたちがいいと思ってるもんが揺らしてみて実際どうなのか、壊れる時はどこからどう壊れてくのか、この目で見たいもんだな。
げん 実験は公開で、一ヶ月前ぐらいには申込の応募ができるようになるらしいから、申し込もうな。
きり こんどは俺もお供させてくださいっ!