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このままでは伝統構法の家がつくれない!


平成19年の改正基準法以来、
限界耐力計算を用いた建物は「狭き門」に

げん 勘違いしないでほしいんだけど、今だって、性能規定はあるんだぜ。けど、改正基準法以来、限界耐力計算を使った場合は、ただの確認審査でなく、構造計算適合性判定(ピアチェック)っていう、構造の専門家による厳し〜い審査に持ち込むことが義務づけられてしまったんだ。

きり 兄貴がテキハン、テキハンって言ってたやつですね?

げん もともと、ピアチェックっていうのは、コンクリートや鉄筋のビルやなんかの構造安全性を検証するような審査だから、木造の住宅レベルでは考えられないぐらい、費用や時間がかかるんだ。綾部さんも古川さんも、具体的に説明してくれて、こんなに大変なのか・・とびっくりしたね。

のこ 古川さんが、言ってたの、傑作だったな。ほら、自分とこで限界耐力計算する費用より、ピアチェックに出して審査してもらう費用の方が高いって。理不尽なこともあるものだ。

げん それに、審査に時間がかかって、いつ通るか分からないっていうのが困り者さ。審査を通らなければ着工できない。いつ着工できるかわかんなかったら、ローンも組めないし、仮住まいをいつまでするとか、現実に困ることがたくさんでてくるだろ?

きり 住まい手の暮らしにもガツンと影響するってことですね。それ、まじヤバいっすよね〜

げん 実際、改正基準法が施行されてから、伝統構法の住宅でピアチェックを通した建物はたった3件しかないんだってさ。

きり 狭き門だなあ!

「狭き門」になったのには、
審査できる人がいないから!?

のこ たかだか木造の小さな家で、どう考えたって、大げさだろ? そんな大ごとにされたら、伝統構法はやってけねえよ。

げん 普通の確認審査機関じゃ、限界耐力計算を判定できる能力のある人がいないから、テキハンにまわすんだっていうのが、国の説明なんだけどさ。で、結果、4号物件と言われる木造2階建て程度の住宅であっても、限界耐力計算を使うんなら、鉄筋コンクリート10F建てのビルなんかと同じように「ピアチェックを受けなさい」ということになったんだ。

きり それって、審査する側の能力が足りてないから、おれたちにしわよせが来るってこと? そんなのアリかよ??

げん 国が限界耐力計算に対してナイーブになるのにも、わけがあってさ。姉歯事件で問題になった建物を限界耐力計算で解いたら、大丈夫っていう判定になったということもあったらしい。というのは、限界耐力計算は建物の変形をどこまでいいとみなすか、使う人に判断がまかされている部分があるんだよ。その分、悪用しようとする者に逃げ道を与えたり、未熟な者が過った結果を導き出すことになりかねないから「要注意」ってことになったのさ。審査する側も、本当は高い判断能力を求められていることが耐震偽装事件が起きてはじめて分かって及び腰になってるのが現実さ。

のこ 審査機関の窓口がびびっちゃってて、審査を受けつけてくれねえなんて、ひでえことがまかり通ってるらしいな。

きり う〜ん、国としては、限界耐力計算の扱いを急に厳しくしたのは伝統構法をつぶそうとしてそうしたんじゃないんだけど、要はそのとばっちりがこっちへまわって来ちゃったっていうことですね。

げん まさにその通りなんだよ。結果、伝統構法で家を建てようとする住まい手の前には、時間と金という高〜いハードルが待ち構えることになってしまってる。性能規定は一応あるけれど、実質的には機能してない。それが今の実態さ。ひどいもんだぜ。

たちあがった大工や設計士
「これからの木造を考える連絡会」

きり そんなことで、いいんすか? なんでなんですか!?  伝統構法は日本の家づくりの文化だっていうのに、日本の法律がじゃけんにするんなんて、おかしい! なんか、まちがってないか!?

のこ おっ、おっちょこちょいめが、今頃、火がついてきたな・・・

げん っていうことで、ここ一年ぐらいおれたちつくり手もほかの団体の仲間たちといっしょになって「これからの木造住宅を考える連絡会」をつくって、メーリングリストやスカイプでお互いに連絡を取り合いながら、国交省の人たちとやりとりしたりしてきたわけさ。

きり そうだったんですね・・! パソコンなんか見向きもしなかった兄イが、やけにまめになってるなあって不思議に思ってたんすけど、そういうことでいろいろと暗躍してたってわけですね!

げん 暗躍だなんて、人聞きが悪いなー。けど、たった一人じゃどうしようもないことだろ? だから、横のつながりでなんとかしていこうと、力を合わせてやってきたというわけさ。

のこ なんで大工がインターネットなんだ、って俺も最初はまゆつばだったけどな。けど、全国各地でがんばってるつくり手同士が団結してやってこうってのは、今は必要なこったな。

きり なんか幕末動乱期の薩長土佐連合みたいだな! 男のロマンを感じるぜ。

のこ そこまで言っちゃあ、持ち上げ過ぎじゃねえか!?

時とともに移ろいゆく建築基準法
翻弄されっぱなしの伝統構法

きり ちょっとこんぐらがっちゃいそうになってきたんで、いったんここいらで話を整理させてもらっていいっすか? ようするに、伝統構法の中でも石場立てのような建築基準法の仕様にはのっからない建物は、はみ出しもんだった、と。それが、2000年に性能規定が出来て以来、鈴木先生の限界耐力計算マニュアルっていうのに助けてもらいながら、安全性が証明できるようになって、合法的に建てられるようになった、と。よかったよかった、とよろこんでたところへ、2007年の改正基準法で、限界耐力計算を使うっつーだけで、ピアチェック送りになってしまった、と。それは高すぎるハードルじゃんか、と。・・・そういうことで合ってますか。

げん おまえにしちゃ、ちゃんと筋道が立ったな。そういうことだ。

のこ 建築基準法にはおれたち、ずーっと翻弄されてきた、っていうわけだ。風に舞う凧のようにな。時代を越えて残って来た建物がだまーって自ら証明してきてくれてるっていうのにな。ちょっとしょんべん。

きり ・・親方はそんな時代の荒波にも耐えて、、この地元でそれをずっと守って来たっていうことなんですね。

げん 法律的な位置づけより何よりさ、金になるハウスメーカーの下請けみたいな仕事やプレカットを拒否し続けて、親方の前の代からのやり方を通して来たってのがすごいよな。それって、なかなかできるこっちゃないぞ。

のこ 自分の手でものづくりをするんなら、いやなことはしたくねえ、って、それだけさよ。

きり 親方、かっこいいっすねーほれなおしちゃったなあ、俺!

のこ ・・・・(とくいげ)

環境面から考えていくとよりはっきりする
伝統構法の優位性

げん おれたち世代になるとさ、親方が若かった頃とは比べ物にならないくらい、環境問題を意識せずにはいられなくなってきた。ものづくりへのこだわりはもちろんあるけど、それ以上に環境的な危機感もそこに乗っかってくるっていうわけ。それを綾部さんはうまく表現していたな。これ、綾部さんのスライドの中で出て来た夢の島の写真さ。

きり ゴミの山・・。

のこ ものづくりをするってことが、ゴミづくりになるのか、ならねえのか、そこんとこをよ〜く考えねえとなんねえ。

げん 親方の若い頃にはまだ出始めだった新建材が、おれたち世代じゃあ、新建材の方が手に入りやすいし、価格も安い、あたりまえの材料になってる。けど、それは土には還らない、負の遺産として次世代にツケをのこす。もともとの伝統構法は自然素材しかなかったのが、今じゃ、自然素材でやろうっていうことの方が、大変な時代なんだ。

きり たしかに、アルミサッシと木製建具じゃあ値段も違うしな。面をつくるのに板を順々に貼ってくのと、合板やボードをばーんと一枚貼るんじゃあ、手間も桁違いだからなあ。安くて便利な方に流れちゃうと、無垢材より新建材ってなりがちっすよね。

げん 綾部さんは「伝統無垢材構法」と「在来新建材工法」という呼び方をしてたな。早く安くつくるのがいいんだ、という経済効率を最優先してきた結果が、環境破壊や健康被害を生んでるんだよ。

きり 友だちの大工で、グラスウールのチクチクや、合成糊の成分に弱いやつがいましたよ。あいつ、カラダ壊して大工、やめちゃったんだよな。

げん 大工って、素材を扱う仕事だろう? 扱った素材がそのまま、住まい手が日々住む環境もつくるし、廃棄時には土に還るかゴミになるのかまで影響する、その責任って、重大なんだよな。

のこ げんさんよ、お前にも綾部さん節が大分乗り移ったようだな。

げん すんまっせん〜


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パネルディスカッションの後半では、会場からの質問を受け付けた。それに答える鈴木氏(右)と大橋氏