改正省エネ法では、規制基準が8地域に分かれる。はたして、北陸沿岸部と九州とが同じ基準でよいのだろうか?
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木の家ネット 温熱環境調査 まずは知ることから!


改正省エネ法で
住宅にも省エネ基準がかかるように

木の家ネットで温熱環境調査を始める推進力となったもうひとつの要因が「改正省エネ法」のゆくえへの懸念です。改正省エネ法の前身である省エネ法とは、昭和54年に制定された工場や建築物、機械・器具についての省エネ化を進め、効率的に使用するための法律です。このおかげで、産業部門のエネルギー消費量は、ある程度横ばいが続いている一方、省エネ法がかからない民生部門(住宅や建築物など)では、エネルギー消費量が大幅に増加しています。

1990年から2010年の間に、省エネ法がかからない住宅・建築部門のエネルギー消費量だけが、大幅に増えている。 出典:一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構『自立循環型住宅への設計ガイドライン』

エネルギー問題解決にむけて、民生部門にまで省エネ法を押し広げなければ、ということで、平成22年から「改正省エネ法」が施行されています。これにより、住宅や建築物に関する省エネ対策についても、法律がかかってくるような状況になってきています。今のところはまだ建売り住宅の供給者にまでしか及んでいませんし、「住宅事業建築主は、省エネの向上を促す措置をとるよう、推進しなければならない」という「誘導法」にとどまっていますが、平成30年までにはこれを戸建て住宅についても「強制法」にしていくことが、段階的に計画されています。

改正省エネ法で
木と土壁の家づくりができなくなる?

無駄なエネルギーを使わない住宅を建てる、ということ自体は良いことです。ただし、そのために定められようとしている基準のあり方によって、多様な建築の在り方が否定されるようなことがあってはならないでしょう。そもそも、土壁真壁の家のような、その基準が想定していないような家づくりができなくなる懸念もあります。

「『改正省エネ法』の今後の流れにまかせておいては、土壁など伝統的な要素を用いた家づくりができなくなる可能性が高い」。熊本のすまい塾 古川設計室の古川保さんは、早くから警鐘をならしてきました。

改正省エネ法は
外皮性能+一次エネルギー消費量

これまでにも、これは強制法ではありませんが、平成11年に国土交通省が制定した「次世代省エネルギー基準」という、家の「外皮性能」を評価する基準がありました。「外皮」とは、断熱材や開口部で構成される家をくるむ外周のことです。この「外皮」から、あたたかさや涼しさがどれほど逃げていくか、つまり断熱性能が省エネの基準とされているわけです。具体的には、熱損失係数(Q値)といって、室内外の温度差が1度の時、家全体から1時間に床面積1平米あたりに逃げ出す熱量であらわされます。これが小さければ小さいほど、断熱性能のいい、省エネ性能の高い家とされます。

次世代省エネルギー基準では、断熱材の厚みや開口部といった外皮性能+気密性が対象でしたが、平成24年10月1日から施行(平成26年3月31日までは経過措置期間)される改正省エネルギー基準では、開口部と壁から熱の逃げにくさ(U値)にかわります。地域ごとにめざすべき外皮指標基準が表になっていて、それを満たすことが求められます。

出典:国土交通省 『住宅・建築物に関わる省エネルギー基準の見直しについて(案)』

また、ここが新しいポイントですが、外皮性能に加えて、その住宅で用いられる空調・照明・給湯・換気などの設備が必要とする「一次消費エネルギー量」も評価するようになります。

一次エネルギー消費量が地域区分と床面積に応じた基準仕様より低くなるように設計することが求められる。 出典:国土交通省 『住宅・建築物に関わる省エネルギー基準の見直しについて(案)』

つまり、断熱効率とエネルギー効率との両方を総合的に評価するように変わるのです。つまり、外の熱を入れない、あるいは、家の中の暖気を逃がさないためには、断熱材をたくさんいれること、窓などの開口部をなるべく小さくすること、その上で、高効率のエアコンを採用する、というのがその大まかなストーリーです。

改正省エネ法の考え方

このあたりが気になる
改正省エネ法

さて、瑕疵担保保険の時にも似たようなことがありましたが、国が家づくりに対してある基準をつくろうとすると、シェアの多い住宅メーカーの家づくりを想定した基準にしがちです。

断熱材を入れようのない内外真壁の土壁はもう作れなくなるのでしょうか? 土壁の外側に断熱材をいれる場合はどの程度いれればいいのでしょうか? 土壁自体のもつ蓄熱性は評価されないのか? などなど・・・疑問がたくさんわいてきます。

貫、竹、土でみっちりと塗込められた真壁の土壁には、断熱材は入りようがない。外壁が大壁であれば、多少の余地はでてくる。

土壁以外の問題もあります。縁側や軒の出など、昔ながらの温熱環境手法も評価される場面がありません。古川さんのシミュレーションによれば、暑さ寒さの緩衝地帯として縁側をもうけたプランの方が、そうしないプランよりも、成績が悪くなり、新築不可能になるというような例もでてきそうです。高効率なエアコンをとりつけた、軒の出のない、窓の小さい、四角い箱のような家が「省エネ住宅」としてますます増えていくのでしょうか。木製建具は使えなくなっていくのでしょうか?

一次エネルギー消費量についても、疑問が多く残ります。基準値と設計値を比べて、設計値が基準値以下になるように設計しなさいというのですが、空調を用いず、薪ストーブやこたつ、扇風機などを使う場合は、室温の測定が不可能なので「効率の悪いエアコン」を使った場合のエネルギー使用量の数値を割り振られることになっています。こうした扱いにも疑問が残ります。

こうしたひとつひとつについて、つくり手側から声をあげていかないと「いつのまにか、望むような家がつくれなくなってしまう」という状況に、なりかねません。

パブリックコメントの提出

平成24年の10月から11月にかけて、国土交通省と経済産業省が、改正省エネ法の基準の内容案に関して「エネルギーの使用の合理化に関する建築主等及び特定建築物の所有者の判断の基準案に関する意見の募集について」と題したパブリックコメント募集を行いました。ちょうど提出締切の直前に栃木県栃木市で木の家ネットの第12期総会があり、その場でも、意見交換と意見集約が行われ、多くのパブリックコメントが送られることとなりました。

パブリックコメント後の波紋

電子政府の窓口「イーガブ e-Gov.」の中に、パブリックコメントコーナーの結果公示案件コーナーがあり、国民から寄せられた意見と行政側の回答とが、表形式で発表されています。今回の改正省エネ法については、「エネルギーの使用の合理化に関する建築主等及び特定建築物の所有者の判断の基準案に関する意見の募集について」という名前でのパブリックコメント募集があり、その結果はこちらから閲覧することができます。

結果公示案件の意見集約集の中から、木の家ネットメンバーが書いた質問と重なる内容の意見と回答を抜き出しておきます。

Q基準において、蓄熱性を持つ土壁や、高い床下、深い庇、風の通り抜けやすい大きな開口部、縁側や玄関などの緩衝空間も評価すべきではないか。
A告示においても、一定の蓄熱や通風の省エネ効果も評価できるようになっております。ご指摘も踏まえ、今後も検討を進めてまいります。
Q土壁住宅などの伝統的木造住宅においては、断熱材を入れることが難しいため、外皮基準を除外する項目を明示すべきではないか。
A「地域の気候及び風土に応じた住まい」には、土壁住宅などの伝統的木造住宅が含まれるものと考えており、解説書等において、その旨を明示していく予定です。
Q伝統的木造住宅などで設備に頼らない住まい方をしている人が不利にならないようなしくみとすべき。
Aご指摘のとおり、住まい方によってエネルギー消費量は大きく異なる面があります。しかしながら、住宅の設計段階において、住まい方を確定させることは困難であるため、標準的な住まい方を前提として、エネルギー消費量を計算することとしております。伝統的木造住宅など設備以外の取組については、今後も適切な評価方法を検討してまいります。
Q伝統的木造住宅の省エネ基準の義務化のあり方については実務者の意見も聞いて検討を進めるべき。
Aご指摘も踏まえ、実務者の方々の意見も伺いながら、伝統的木造住宅の省エネ基準の義務化のあり方について検討を進めていく予定です。
Q建築物内における運用時のエネルギー消費量ではなく、その建築物について、製造・運搬・燃料確保の段階および廃棄物の処理の段階までトータルでのエネルギー消費量を評価すべきではないか。
Aご指摘のとおり、住宅・建築物のライフサイクルを通じたエネルギー消費量やCO2排出量の削減は重要な課題と認識しております。今後のデータや知見の蓄積を踏まえ、将来的に検討を進めていくべき課題であると考えております。
Qバイオマスエネルギーや地中熱エネルギーなど、化石燃料や電力を用いない再生可能エネルギー熱の利用を考慮すべき。
Aご指摘を踏まえ定量的評価が確立した段階で一次エネルギー消費量による評価方法に反映させていくことを検討したいと考えております。
Q暖房負荷計算や冷房負荷計算においても輻射、蓄熱性の効果を考慮すべき。
A一次エネルギー消費量の算定過程における暖房負荷や冷房負荷の計算において、輻射による効果や、躯体への蓄熱による効果を評価することが可能です。
Q暖房設備による一次エネルギー消費量の算出において、こたつや開放型石油ストーブの利用を考慮すべき。
Aご指摘にあるような建築設備でない器具については、設計時点では把握できないため、対象外としています。
Q冷房設備を設置しない場合は、設計一次エネルギー消費量の冷房用エネルギー消費量は無い(ゼロ)とする評価すべきではないか。
A一般的に、竣工後にエアコン等を設置するような場合も考えられることから、当初設置しない場合であっても設備の設置を評価する方法としております。

衆議院の委員会でも話題に

また、平成25年衆議院経済産業委員会では、塩川鉄也委員が、国土交通省副大臣に高気密高断熱の基準では、土壁や漆喰を用いた伝統木造住宅が阻害されかねないのでは?との質問が出る場面もありました。

公式の議事録よりその部分を引用します。

塩川鉄也委員:改正案では、窓や断熱材など建築材料についてトップランナー制度を導入するとしております。断熱性能の向上は、住宅や建築物の省エネ化にもつながるものであります。しかし一方で、湿気の多い日本の気候風土に適合した木造伝統工法住宅では、土壁やしっくいによる温度調整や、風通しを考えた家づくりが行われています。

そこで、国土交通省鶴保副大臣にご質問します。この高気密、高断熱という省エネ法に基づく住宅、建築物の省エネ基準ではこういった伝統工法が生かされないんじゃないかと思うんですが、この点についてどのようにお考えでしょうか?

鶴保副大臣:委員ご指摘のように、住宅の省エネの推進にあたっては地域の気候や風土に合った住宅への配慮が必要だと考えております。(中略)今後すべての住宅に対して省エネ基準への適合を義務化するに当たっては、施工者の技術の習得、向上に努めるとともに、伝統的木造住宅の特性を踏まえた省エネルギー性能の評価方法の検討を行うなど、円滑に義務化が実現するよう十分配慮してまいりたいと考えております。


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土壁、木製建具、土間。外に暖房用の薪。改正省エネ法でこんな家づくりや暮らしを選ぶ自由が奪われませんように!