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「伝統木造のこれから」大橋好光教授の展望は?


後日、シンポジウムに参加した有志で話し合った感想をまとめました

「足元フリー」の建物は
今回の設計法構築には組み込まれないのか?

今回の報告を通して、3カ年というタイムリミットがせまっているだけに、つくり手から具体的な意見や代案を出していくことの大切さが分かりました。私たちも自らのこととして取り組まなければなりません。

ただ、この報告を聞いて伝統構法にかかわる実務者として残念だったことは、伝統構法の大きな特徴である、建物の柱脚を基礎に緊結しない「足元フリー」は、この3カ年で構築する設計法の射程には入ってこなさそうだということです。

実験当日のプレス発表で「なぜ足元をフリーにしないのか」という問いかけに対して大橋先生は「足元フリーの設計法はいずれできるとは思うが、この3年では無理かもしれない」と答えています。可能性は示唆されたものの、その時期はまだ先となってしまいそうです。足元フリーの建物の確認申請がほとんどおりない状態は、どこまで続くのでしょうか。技術継承という点からも、先行きが心配されます。

RC造や鉄骨造と同様の考え方によらない、粘り強い伝統木造の特性になじむ計算ルートの可能性を過去に伺ったこともありました。可能性として考えられるという回答でしたが、まだまだ時間がかかりそうです。

「伝統的構法の持つ特性の中からよいものを取り上げて、未来につなげることのできるこれからの工法をつくる」と大橋先生はおっしゃいましたが、その要素に「足元フリー」は、少なくともこの期間内で組み立てる設計法には入っていない。過去の振動実験からは足元をフリーにした建物では地震動による損傷が軽減される現象は分かってはいるのですが。3カ年の期間内につくる設計法については「今、分かるもの」でしか組み立てることができないから、ということですが、そのために伝統構法の大事な要素が抜け落ちてしまうのではないかと懸念されます。つくり手から見るととても歯がゆいところです。

自助努力の道?「図書省略」や「型式認定」

木造住宅振興室の越海室長は同じく実験当日のプレス発表で「伝統構法の中に現代構法があると考える」と、伝統構法を現代構法の枠組みでとらえる限界を示唆しました。この発言はとても大切な視点で、共感できるものです。建築基準法にまでその考えを早急に組み込んでいくのはむずかしいのでまずは「図書省略や型式認定」などの仕組みの利用をしては?という提案もされています。

伝統構法を全国一律の基準ですべてを救い上げることは容易ではない。地域性や個別の技量による伝統構法の多様性を実現するために、実務者が自分の提案する構法を自ら検証し、構築していけば、受け継がれた伝統構法を実践できるというのが「図書省略や型式認定」で、住宅木造技術センターがどの受け皿となります。通していくにはかなりの労力と知恵、そして資金も必要となりますので、個人ではむずかしいでしょう。しかし、実務者同士の連携や協力のもとに進めていくことは考えられないでしょうか。越海室長は「そういったことに助成金を用意することもできます」ともおっしゃっていました。これ木連のしくみをうまく活用すれば、可能性があるかもしれません。実務者にとっても正念場というところです。

要素実験の提案をしよう!

「図書省略や型式認定」まではなかなかハードルが高いとしても、伝統構法の大事な要素として基準法に組み入れてほしいことがらをあげていくために、「要素実験への提案」はおおいに活用すべきものです。要素実験の年となる2009年度がまもなく始まりますので、提案すべき時期のタイムリミットはせまっています。今は分かっていないものを洗い出して「分かるようにする」時期と捉える、と理解するしかありません。

「伝統構法」を実務者で具体的に再定義しよう

今回の実験や過去の足元フリーの実験からも分かることですが、伝統的な建物が想定外の地震に対応していくには、建物を「固める」方向だけでは無理があります。地盤に関連する免震や減震の方法にも可能性があるかもしれません。また構造の視点からばかりでなく、架構と間取りの基本ルール、再生のしやすさ、耐久性の知恵、環境の視点など総合的に考えることも必要です。

これまでの枠組みと同じ考えのままでは「伝統構法を建築基準法に位置づける」ことがむずかしい。となれば「伝統構法とはなにか」を、具体的に整理する作業をした上で、実務者から大橋先生にいまいちど投げかけ、討論する必要を感じます。

設計法構築とは別の流れで、今回の実験で大きく損傷した2棟の実験棟の払い下げを受け、木の家ネットのメンバーが中心となった2グループが名古屋と滋賀で再生を試みるプロジェクトが動き始めています。「壊れても再生できる」ということを実証することが、伝統構法の「固さ、強さ」以外の優位性の確認につながることに期待します。

要素実験の提案を寄せてください

まだ応募要項は公開されていませんが(2009/3/26現在)、近日中に住木センターで応募が始まります。締切は4/30。

応募者の近くの実験施設や大学での実験でも応募ができる要項になるので、地域の実務者グループ+研究機関との連携による実験提案も可能です。 この機会を逃さず、利用してください!

参考:既に寄せられている提案はこちら(PDF 6.9MB)

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