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「伝統木造のこれから」大橋好光教授の展望は?


質疑応答の中から見えて来た大橋先生の考え(続き2)

大橋先生ご自身は、伝統構法をどうとらえるのか?

私のスタンスは「さかのぼること」にはありません。伝統構法ということばがあるから話がややこしくなるのですが、私自身がやろうとしているのは、これから未来に向けて通用する木造の設計方法を確立することです。現代工法のように金物に頼るやりかたではなく、伝統構法とよばれる工法がうまく使っている「粘り強さ」といった特性をうまく生かしてね。そういう方法はきっとあります。ただし、それは昔のやりかたそのままというわけにはいかない可能性が高いと思います。

伝統構法の中に現代工法とはちがったメカニズムがはたらいていることは、私も認めています。初期剛性は土壁が守ってくれる。ある程度以上までいくと土壁が剥落し、耐力がなくなる。そうなってはじめて貫や軸組そのもののめり込みに期待できる。そして最終局面では、柱脚が動くことで地震の入力を減らす…そうした総合的な組み合わせの上に、伝統木造の力は成り立っています。

そのよさは何なのか、弱点は何なのかを、科学的に裏付けを取りながら再検証し、よいところは取り入れながら、弱い所は改善しながら、これからの木造工法として科学的にも通用する設計法をつくりたいと思うのです。伝統としか言いようがないから「伝統的」工法と言っていますが、じつは「これからの木造」を考えているんです。今日司会をしていらっしゃる松井郁夫さんたちがまとめられた「私家版仕様書」だって、この間「情熱大陸」で放映された宮内寿和さんの「四寸角挟み梁工法」だって、いわゆる昔からある「伝統構法」ではないですよね? みなさんも過去のいいものを継承しながら、新しい工法をつくろうとしているのではないですか?

松井郁夫さん:そろそろ伝統構法とは何か、はっきりさせる時期

「宮内さんや松井のやっていることは伝統構法ではない」という発言の裏には、大橋先生なりの伝統構法の概念があると思います。つくり手がなにをもって「伝統構法」とするか、多様性は認めながらもそろそろまとめないと、漠然とした議論ばかりでは、いつまでたっても方向性は見えて来ないでしょう。差鴨居や通し柱、足固め、貫などさまざまな要素が挙げられますが、さらに推し進め、架構のルール(壁の配置と骨組みの計画)や、多重のセイフティ(貫や免震、減震)による生存空間の確保など、根本的なことを議論する時期にきているのではないでしょうか。構造的な視点ばかりでない環境面、文化面からみた「伝統構法の優位性」についても実務者の考えをしっかりとまとめる勉強会なども必要でしょう。もういちど大橋先生とは徹底討論をしたいですね。

宮内寿和さん:あの実験を体験して、変わらないわけにはいかない

ぼくは大橋先生の意見に賛成です。実験に参加させてもらい、特に鷹取波でダメージを受けた実験棟を見たのはショックでした。自分は被災することなく、あの壊れ方を見ることができる時代に生きているぼくらは、伝えられてきた構法をそのままやってればいいというわけにはいかない。伝統構法そのものも鎌倉、江戸、明治といくつかの大きく転換する時期がありましたが、今もまさに転換期のまっただ中にあると思っています。地震に対抗できる、すべてにおいてバランスのいい木の家づくりのための勉強を、国で行っている設計法の構築とは別に、現場サイドでも進めるべきだと思っています。

厳しい状況は変わっていないが、
状況を変えるための動きは急ピッチで進んでいる

耐震偽装問題への反省から建築基準法の厳格化を!という流れで2007年6月に施行された改正基準法。そのとばっちりで伝統構法の家が建てにくい状況になったことへの危機感から「これ木連(これからの木造を考える連絡会)」を結成して1年半が経ちます。

「石場立て」とよばれる、土台を用いず礎石に柱を乗せる伝統構法の建物は、建築基準法の仕様には規定されていません。それでも、2000年以降は、性能規定のルートをとり、設計者が限界耐力計算による構造計算を行えば仕様規定に拘束ざれずに合法的に建てることができていました。しかし、2007年の改正基準法で「限界耐力計算によるものはピアチェック」ということになり、住宅の規模であっても審査項目が増え、その対応に多大な時間やお金がかかる「狭き門」、実質的には「門戸が閉ざされた」状態になってしまいました。この状況は、今でも変わりありません。

こうした状況をなんとかしなければという実務者の危機感を木造振興室の越海室長が吸い上げ、なんとかしていくための国家プロジェクトが3カ年計画で立ち上がりました。研究者、実務者、国の機関の三者が協力しながら実大実験や要素実験による性能検証、設計法構築をしていこうという流れになったことは、大きな進歩といえるでしょう。

これ木連の第一回のシンポジウムを2008年7月に同じ工学院大学で行った時のタイトルは「このままでは伝統構法の家がつくれなくなる?」でした。それが2009年3月の第二回は「伝統構法を検証する時代が始まった 伝統構法の家が『つくれない!』から『つくるために』へ」と変化したことにも、状況が動いていることがお分かりいただけると思います。二つのシンポジウムの間には、研究者と実務者が協同してつくった実験棟の実大震動実験が行われ、実験そのものにも多くの実務者が関わりました。

研究者や国と実務者との関係性の変化〜対決姿勢から恊働へ

こうした流れの中で、現場から国や研究者への抵抗感も和らいでいきました。以前は「伝統構法をないがしろにしてきたのは国だ」「研究者は伝統構法を正しく評価していない」「そもそも伝統構法をある基準でくくれるわけがない」といった現場から国や研究者に対する対抗姿勢が強く前面に出る場面もありましたが、全体的には対話できる方向へと状況少しずつ変化していきています。

実務者も度重なる震災を目の当たりにして、その被害をなくし「現代の生活者のニーズにこたえていくためにも、科学的な評価はやはり必要」という認識をもつようになってきています。また、国や研究者サイドでも、この3カ年で多くの実験と解析を通して伝統的構法の設計法を構築する委員会に実務者を迎え入れる体制をつくりました。同じ委員会で活動していく中で、つくり手が国や研究者をやり玉にあげることでなく「ではどうしたらよいのか」と、立場や意見は違っても「ともに取り組む」関係性へとシフトしていったのです。

「実務者の協力の必要性」を大橋先生は繰りかえし訴えていました。要素実験への要望、3年度目の実大実験に向けて実験棟のあり方をよりよくするための提案や設計法構築に向けての前向きな意見なしには、つくり手が望むような結果にはつながりません。今、必要なのは、具体的な提案や意見をまとめ、議論のテーブルにあげていくこと。未来にもあってほしいものはつなげていく、それをつないでいくのは、ひとりひとりです。その自覚をもって臨まなければ、3年間はあっという間に過ぎてしまいます。最終的に担い手となる実務者が、このチャンスを活かす以外ありません。

大橋好光先生:実務者のみなさんへのお願い

要素実験の提案を寄せてください

まだ応募要項は公開されていませんが(2009/3/26現在)、近日中に住木センターで応募が始まります。締切は4/30。

応募者の近くの実験施設や大学での実験でも応募ができる要項になるので、地域の実務者グループ+研究機関との連携による実験提案も可能です。 この機会を逃さず、利用してください!

参考:既に寄せられている提案はこちら

(PDF 6.9MB)

このプロジェクトの期限は3カ年。その1年がすでに経過しています。本当に時間がない上に、伝統構法の実態はあまりにも多様で、個別的で、全体が見えてこない。「伝統構法の分類TT(タスクチーム)」という委員会もたちあがっていますが、せっかく委員会があっても、実務者のみなさんからの具体的な事例が集まらなければ先には進めません。

「これまで半世紀の間、建築基準法は伝統構法を切り捨てて来た」という過去の恨みつらみも、分からないではありません。しかしだからといって「国は責任とってよ」と何もかも解決を求めるという受け身の姿勢ではなにも始まらないし、そもそもこの3カ年という限られた時間の中で、間に合わないです。違い、多様性を最低限どうくくれるのか、どの程度のバリエーションに落とし込めるのか、前向きな提案を是非ください。特に21年度に要素実験してほしいことを4月いっぱいの締め切りで募集をかけますので、時間がとても限られていますが、ご協力をお願いします。

これ木連の今後の展開

これ木連事務局の金井透さん(日本民家再生リサイクル協会)は「これ木連の名前どおり、まさに『これからの木造を考える』ために今後も意見交換や勉強の場をつくっていきたい」という言葉でシンポジウムを締めくくりました。まだまだ実務者の考えをまとめあげた上での意見交換が必要なようです。しかも3カ年という中である結果が出ていくだけに、早急に。

東京では毎月第三土曜日に、実務者と研究者との合同勉強会がすでに企画されており、関西でも開催できるような動きも始まりつつあります。職人がつくる木の家ネットは「これ木連」の一員として、ニュース欄などを通しての情報発信を続けていきますので、今後もぜひご注目ください。

2009年4月18日(土)
第二回勉強会「瑕疵担保保証の問題点(講師:保険法人の技術担当者、行政の担当者)」
2009年4月〜
今回破壊した実験棟の再生プロジェクト始動(愛知、滋賀)
2009年9月頃
愛知の再生実験棟、上棟。シンポジウム開催予定

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