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民家実測


改修して住むのが民家

柱を抜いた跡。煙けた天井。補強されている根太。後から打ったコンクリート・・・。実測をしていると、今目に見えているのが、ある部分は元の通りであり、ある部分は後から行った改修の結果であり、と地層のように見えてきます。根本の軸組みはいじらずに、生活スタイルの変化にあわせて家を直していく。そうやって人が手をかけてきた結果が、民家の今の姿となって、見えているのだな。そんなことを強く感じました。 そもそも、100年近く建っている民家なのですから、「家の寿命」の方が「人の寿命」よりも長いのです。ここで何人の赤ちゃんがお産婆さんに取り上げられたことでしょう。何人の娘がこの家から嫁入りしたでしょうか。この家から出征して帰らなかった青年もいたかもしれません。そして、この家を後にした家族が下の集落に移っていってしばらくして、都会からの移住者がこんどは「借家人」として住むようになったのです。そして、持留一家はこの家の三代目の借家人にあたります。 先々代、つまり初めてこの家を借りた人は、大分手を入れたようです。薪でご飯を焚く「へっつい」がいつまで土間にあったのか定かではありませんが、台所を板敷きにし、出窓手前に流しとガス台を据えたのは先々代のようです。先々代が台所の脇にコンクリートを打ち、タイルを貼り風呂を置き、先代は風呂釜を自分たちの生活に合うように取り替えています。薪ストーブを置くために板敷きの床下にコンクリートを打ったストーブ置き場をつくったのは先々代でしょうか、あるいはその前でしょうか。ストーブの背面に、ブロックを積み、古い建具の背を縮めてはめころしているのが、いい雰囲気をつくっています。

人のはたらきが家をもたせてきた

いろいろな人の手がかかって、この家の今の姿があります。そうした一部始終を神棚の「家の神さま」は見ていたにちがいありません。いつの代からでしょうか。雨戸しかないために実質的に冬は締切となる西側の縁側に、古畳が打ち付けられています。そのために光や風がまったく入らなくなった奥座敷はどことなくかびくさく、実測合宿中そこで寝たメンバーのうち何人かは虫にかじられる結果となりました。 畳を打ち付けたのは、寒さ対策でしょう。でも昔は、一年中畳を打ち付けたままということはなかったでしょうか。冬が来る前に冬囲い的なことをしていたにせよ、夏の間は雨戸を開け閉めし、年に一度は必ず畳をあげて虫干しをしていたにちがいありません。そうしたマメな「人のはたらき」が家を守り、長くもたせてきたのです。 「いったん畳をあげて干すこと。そして、西側の通気を復活させること」が必要だ、ということが確認されました。そうでないと、この民家のよさが活かされないばかりか、民家のもともと斜面になっている家の北側に、草が生い茂り、土砂が堆積してきていることも、日当たりのない北面の湿気を増す原因にもなっているようです。草刈りをし、土をどかすこともしなければなりません。

民家とともに生きる

「民家は生きている」だから花やこどもを世話するように、適切な時期に適切なことをしてあげなければならないのでしょう。季節の変わり目にそうした目配りをし、そして実際に手をかける「時間」が、民家に住むには必要なのでしょう。虫さされに遭ったメンバーにとっては災難でしたが、住み始める前に「虫」がでてくれたことで、この家とともに生きていくためのヒントをもらったようでもあります。これも「家の神さま」のはからいでしょうか。 人の一生より長く生きてきた家。その寿命を便利さや快適さを追求するあまり、知らず知らずのうちに短くしてしまうことのないように。この家がゆるしてくれる範囲の中で、この土地の気候と折り合いながら気持ちよく住むために、どんな工夫ができるのだろうか。木の家ネットの仲間たちといっしょに、木の家ネットらしい最善の策を考え、頭をはたらかせ、身体を動かしてこの家になじんでいきたいものです。

※夏の終わりから秋にかけて、この民家のメンテナンスおよび補修をするつもりです。特に「寒さ対策」は大きなテーマ。木の家ネットらしいどんな解決策がでたのか、またご報告しますので、お楽しみに!


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