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工務店・直井徹男さん(エコロジーライフ花):発信しつづける工務店、人が育つ工務店


エコショップと工務店の両輪で

エコロジーライフ花 直井建築工房
工務店経営:直井徹男さん

インタビュー実施日時:2011年5月16日/7月27日
於:東京都大田区・台東区
聞き手:持留ヨハナエリザベート(職人がつくる木の家ネット)

直井建築工房が運営するエコショップ
「エコロジーライフ花」

東京都台東区。地下鉄日比谷線の三ノ輪駅から遠くにすっと空に伸びるスカイツリーをめざしておよそ10分ほど歩くと、日本堤一丁目交差点の角に、鉄筋コンクリートのビルの1階でありながら、縦張りの板の外装を施したステキなお店がある。直井建築工房が運営するエコショップ「エコロジーライフ花」だ。

店内に入ると「いらっしゃいませ 四季の恵みたっぷりの 装・食・住をどうぞ」という手書きのメッセージが目に優しい。草木染めの上着やスカーフ、太陽油脂の石けん洗剤やシャンプー、ひじきや干し大根といった乾物類、化学肥料や農薬不使用の野菜、作家さんの作品である食器などが無垢の木の棚や台にセンスよくディスプレイされている。

エコロジーライフ花の入り口脇にある看板。取材に訪れた夏は、緑のカーテンが窓を覆っていた。

直井建築工房の発信基地として

だが、よく見ると、通常のエコショップやオーガニックカフェでは見かけないようなものも並んでいる。自然系の塗料、自然栽培綿のカーテン、無垢の板材、家具作家の手による一点ものの椅子や引き出し、そして、伝統的な土と木の家の模型まである。また、店内に掲示されているイベントの案内も「山梨の木を使って作る椅子づくり教室」「拭き漆入門講座」「コッパ(木の端切れ)バザール」など、住むことにまつわる手づくり体験をテーマとしたものが多い。

木の家の模型(左)と、自然素材を使った生活雑貨(右)。ともにエコロジーライフ花の店内にて

エコ花のショップの入り口の向かって左隣の敷地には、直井建築工房の作業場がある。木材のストックが並び、トラックが停まり、職人さんたちが作業したり出入りしたりする。ショップの奥の一室では、若い社員が図面を描いたり、職方さんと電話で打ち合せをしたり、設計施工の工務店らしく、忙しく働いている。

ゆるやかにひとつながりになった工務店とエコショップ、その両方の代表が直井徹男さんである。大学卒業後12年間勤めた大森の工務店を独立して直井建築工房を設立した1年後には、もうエコショップ・エコロジーライフ花を立ち上げていた。直井さんの中では、無垢の木の家づくりを実践することと、ナチュラルで健康な暮らし全般について発信することとは、「一つのこと」だ。

スタンスをはっきりさせることで
かえって楽になる!

「耐火建築が基本の都会の真ん中の防火地域に、無垢の木の家づくりしかしない工務店があるんだから、おもしろいでしょ?」と直井さんはいたずらっぽく笑う。それでも都内や東京近郊から、自然素材の家づくりを望む施主が後を断たない。

直井さんと「大森の家」のお施主さんを訪ねました。
クリックすると訪問記が開きます。
 

「自然素材、無垢の木の家づくりしかしない、そうハッキリと決めてしまっていますから、かえって楽なんです」直井さん自身が「エコ花」を通じてそうした工務店のスタンスを発信し続けているからこそ、仕事が継続しているのだろう。「エコ花」と「直井建築工房」は不即離の関係にある。建築関係の仕事仲間からさえも「直井建築工房の直井さん」でなく「エコ花の直井さん」と呼ばれることが多い。

日本堤一丁目交差点から望むスカイツリー。取材時はあいにく工事で、エコロジーライフ花は重機の真後ろになっている。重機の左側に見えるマンション一階の板塀が、エコ花ショップの外壁。

「はじめの一歩」づくり

「気持ちのいい暮らしをするために、体を作る根源となる食べ物や、肌に触れる石けんや洗剤、肌着などには安全・安心なものを選びたい。そういう方が確実に増えています。それと比べると、家にまでは、なかなか意識が向きにくいのではないでしょうか? けれど実は、最も身近な環境である家をよくしないと、自然な暮らしって実現しないんです。そうしたことをみなさんに考えていただけたら、という願いを込めて、エコ花をたちあげたんです」と直井さんは言う。

自然な暮らしを志向する人が、自ら自然素材と無垢の木の家づくりを選ぶようになる。そのきっかけづくりのための、エコショップ。遠回りのように見えて、それはゆるぎない道につながる「はじめの一歩づくり」なのかもしれない。「価値観を共有できるお施主さんとの出会い、それがよい家づくりにつながるんです」エコ花の存在が、そうした出会いを生む素地を作っているにちがいない。

マンションをリフォームしたら
子どもがアトピーになった

「自然な暮らしを望んでいるはずなのに、住んでいる空間のことまでなかなか正しく意識できない…私も、そうでしたね」直井さんと武蔵野美術大学の建築学科で知り合って結婚し、3人の子を育てあげた奥様の明美さんは振り返る。

子どもを産むまで住宅メーカーの設計部で働いていた明美さんは、現代の新建材の家づくりがいかに化学物質にまみれたものか、知ってはいたのだが、それが人間の身体に及ぼす影響を現実に体験するまでは、あまり気にしてはいなかったという。「女性は母親になることを通して、子のためにと、食べ物や肌に触れるものには気をつけるようになるものです。けれどだからといって、自分の環境がどうなのかまでは、なかなか思い至らないんですよね」

それから何が起きたかを、直井さんが語り始めた。「上の子が1歳半の時に、家族で住んでいた古い公団住宅を木の空間にしたくて、リフォームしたんです」工事が終了した頃から、子どもがひどいアトピーに。何とかしてやりたいという一心で調べるうちに、エコ住宅やシックハウス症候群について研究していた、「ひと・環境計画」主催の故・高橋元さんと出会い、リフォームに使った合板の化学糊に反応しての症状ではないかと思い至る。「俺って、この子の加害者なの??と、ショックでしたね」それから直井さんの情報集めが始まった。本を読み、勉強会に出席し、化学物質のおそろしさを知った。

大工だった祖父がしていた
化学物質とは無縁の、木の香りのする家づくり

「母方のじいちゃんが甲府で名人といわれた大工棟梁でね、遊びに行くとスギや桧の香りに包まれるようでした。木の削りかすで遊んだり、おが粉でカブトムシを飼ったり、すべすべの木の肌に触ったり…そんな気持ち良さの記憶がぼくの原点。いつかじいちゃんみたいに自分の家を自分で作れるようになるんだ!と、子どもの頃、思ってましたね」

進学に失敗して浪人していた時におじいさんが亡くなり、忘れかけていたその夢を思い出した。「晩年のじいちゃんは『これからは建築士が仕事をしていかなきゃいけない時代なんだ』って、口癖のように言ってたんです。今にして思えばそれは時代の変化に対するじいちゃんなりの愚痴だったのかもしれない。当時はそうと分かる由もなく、じいちゃんの言葉をそのままに受け取って、建築科に進路を変えたんです」

幸い、子どものアトピーは、換気を徹底することで少しずつよくなっていった。「それでも、三段ベットの杉板に防カビ処理してあったことでいちどよくなったのが悪化したり、何か起きるたびに身をもって学ぶ日々でした。つらかったですが、子どものアトピーを通して、大切なメッセージを受け取った気がします」それは、じいちゃんがやっていたような、化学物質を使わない無垢の木の家づくりをめざす揺るぎない決意だった。


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自然素材の家づくりについて語る直井徹男さん(左)と、奥様の明美さん(右)。取材に訪れたお施主さんのリビングにて