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民家実測


「海の日」に山の駅に集合した木の家ネットメンバー有志

7月20日、海の日の小淵沢駅、午前11時。八ヶ岳の入り口にあたる小淵沢駅の駐車場は、特急電車から下りてくる団体客を乗せて観光地へと運ぶ観光バスでごったがえしていました。車で相乗りしてきた渡邊隆さん、吉田晃さん、和田基示さんがすでに到着。11時半過ぎには松井郁夫さん、長谷川アトリエの山田さん、赤堀楠雄さん夫妻、持留デザイン事務所のスタッフ児嶋いずみ、持留の友人の後藤光弥さんと、メンバー全員が揃い、まずは昼食をとるために、小淵沢から白州方面におりる道沿いにある「蔵やグリーンズ」さんへと向かいました。 茅野の蔵を移築して自然食品屋兼書店兼レストランにした「蔵やグリーンズ」さんで、ひよこ豆のカレーを食べた後、車3台で高根町へ移動。青々とした田んぼ、トマトが色づきはじめた畑の間に、勾配の低い、白い漆喰壁に化粧貫が美しい切妻屋根の民家が沿道にちらほらと見え「いい家が結構あるねえ?」と喚声があがります。天気がよいと、南側には釜無川の深い谷をはさんだ向こうにそびえる南アルプスが、車が走っている裾野をそのまま北側にたどった先に八ヶ岳の峯が望めるのですが、あいにくのくもり空で、視界はあまりありません。八ヶ岳の山裾を巻くようにして車は進みます。 原長澤の集落に入り、つきあたりを左にカーブする角にある家が、今回実測する民家。この夏は何も植えていない家の前の畑には、ひまわりが何本も咲き競っています。「いい家じゃない?」「うわ、馬屋がある!」口々に「ごあいさつ」しながら前の人が引っ越した後のガランと風通しのいい民家に入っていきます。

半間(はんげん)×一間(いっけん)畳の寸法が基準になる

それぞれ実測着に着替え、巻尺、曲尺、鉛筆とボールペンをもって集合。まずは風基建設の渡邊さんが、不動産屋でもらった略図から主な柱の位置をあらかじめ落とし込んでおいた、書き込み用の方眼紙を配ります。松井さんが簡単に実測の説明。「図面の左上に畳の大きさ分の枠を書いておくと分かりやすいよ。日本の家は、畳の大きさを基準にして書いていけば比率がくずれることなく形がとれるから」なるほど・・・、と感心する初心者。さっそく得意の持ち場に分かれるベテラン。それぞれの分担を決め、スケールで測り、目で見た通りのことを、書き取っていきます。

実測の成果物「野帖」の紹介

実測の内容をその場で記した記録を「野帖」といいます。できあがった野帖をご紹介します。

1)平面図・天井伏図

渡邊隆さんが、部屋の間取りをさらさらと平面図に写しとっていきます。畳割りのほか、部屋と部屋を仕切る建具、床や天井の状態、鴨居上の状態などの注記を書き込みます。併せて上を見上げて、天井の板や竿縁の様子も書き取りました。

2)柱間寸法図

吉田晃さん、和田基示さん、持留デザイン事務所スタッフの児嶋いずみの3名が組になって、すべての柱の寸法と、柱間の上端と下端の寸法をとっていきます。できあがった野帖は数字だらけ! 1尺2寸角の立派なケヤキの大黒柱とその一間西側の6尺5寸の柱のほかは、4寸角が主流のようでした。

3)展開図

実測ははじめての赤堀楠雄さんは夫婦でペアになって、部屋の立面を建具込みで詳細にスケッチした展開図を書きました。

4)屋根伏図

いちばん埃だらけになった功労者は、長谷川敬アトリエの山田さん。「汚れ役」専用のアノラックを着込み、中2階の納屋から天井裏にあがって、母屋、桁、梁、束の様子を上屋梁レベルと、越屋根レベルとで書きました。(ときどき天井裏でドスン!と音がしていました)

5)立面図・矩形図

絵の得意な松井郁夫さんは、家の外にまわって、立面をスケッチ。南面の松や、北面の土の様子まで描きこんだ趣のある絵が完成。また、大黒柱面での南北断面図に、西寄りの越屋根断面、東寄りの中2階断面を重ねて描いて、この家の架構を分かりやすく記しました。

実測から見えたこの家のカタチ

規模は、間口9間、奥行き5間の45坪。土間部分と六つ間の床上部分の境となるラインの中央に、ケヤキの大黒柱が据えられています。木組みが見えている部屋はなく、床上部分も土間部分もすべて板天井貼り。床部分は畳面から天井まで9尺あり、その上は縦横高さ方向に材が積層する、建て込んだ「和小屋」となっています。土間部分は天井裏を中2階的な空間として確保するために天井を低くし、小屋裏の木組みを「登り梁」にしています。 とにかく架構が素直でスタンダードな家。土間部分と北面をのぞくと、壁はまったくなく、建具を取り払ってしまえば、床上部分は6部屋あわせてなんと44畳分もの!完全なワンフロア。柱と梁が屋根を支える木造軸組み構造つまり、「柱の家」の典型的な例です。

八ヶ岳おろしが吹き付ける北側はしっくいを塗らないままの土壁。直接部屋になっているところはなく、床の間、押し入れ、廊下など緩衝地帯となっています。南側と西側には風雨を除け、夏の日射しは避けながら、冬の日射しは取り込む半間の縁側がまわっています。外まわりの建具としては、西側は雨戸のみ、南側はガラス戸のみの一本引き。それぞれ両端に戸袋がついています。東側は土間。手前南側は玄関脇に馬屋、奥に板張りにした台所と後からつけたお風呂。便所は外の納屋の一角にあります。

※図をクリックすると、全体図を別ウインドウで拡大して見ることができます。PDFアイコンをクリックすれば、さらに高解像度のデータがダウンロードできます。

左/平面図 (276KB)  右/天井伏図 (844KB)

柱間寸法図 (240KB)

展開図 (448KB)

屋根伏図 (652KB)

右/矩形図 (488KB)

下左/南立面図 (412KB)

下右/東立面図 (460KB)


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