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縁のある家


そもそも日本の家は、木造軸組み構造の「柱の家」で、内と外、部屋と部屋を隔てる間仕切り壁ががなくても構造的に成り立つことを今までお話してきました。壁にしてふさぐのも、建具を入れて、必要に応じて開けたり閉めたりするのも自由。そのことによって、場合に応じた使い分けや、生活の変化に合わせた空間の仕切直しも簡単にでき、長いこと住み続けられるのだ、というのが、これまでの要旨でした。今回はそもそもの日本の家によく見られる「縁側」の効用についてお話します。

■「縁」ー 内と外の間にある緩衝地帯 ー

「昔のいなかの家」を思い浮かべてください。家の南側はすぐには部屋になっていなくて、外から入ってきた人が靴を脱がないままで腰掛けてお茶を飲んでいったり、おばあちゃんやネコが日向ぼっこしたり、小さいこどもがおもちゃで遊んだりできる「縁取り」のようなスペースがあります。それが縁側です。縁側の内側は部屋になっています。部屋との間に明かり障子が入り、外の光をやわらかく取りこみながら、外部からの視線を遮っています。縁側の外側は外で、間にはガラス戸やアルミサッシ、雨戸が入り、雨風や寒さをふせぎます。縁側は「部屋」と「外」との間に入った緩衝地帯です。 辞書によれば「座敷の外側にある板敷きの部分」とあります。座敷に居ながらにして、縁側の向こうの庭を楽しむ。縁側がつくのは接客空間である座敷の外にだけではなく、ふだんもっともよく使う生活空間と庭先空間のつなぎとしてつくことも多いものです。洗濯物を干しに外に出たり、雨の時の室内干しに使ったり、そこでちょっとした作業をしたり、外から直接部屋にあがったりおりたり・・・。内と外との中間領域のあることで、生活動線がとてもよくなります。

■「濡れ縁」が室内に取りこまれて「縁側」になった

今でこそ、縁側は外まわりの建具の内側に守られて、室内空間となっている「縁側」が多いのですが、もともとは吹きさらしの「濡れ縁」が多かったものです。その名残が、神社や小さなお堂のまわりに見られます。雨戸や障子の外の軒下に、建物の外周を縁取るようにして縁がまわっています。一般の住宅においては、濡れ縁はしだいに室内空間としてとりこまれていきます。庶民の家に縁側がふつうにあらわれるようになるのは、江戸末期頃のようです。 縁の板敷き部分ですが、敷居に対して直角に木口を見せるようにして張る「切目縁」と、敷居に対して平行に、つまり長手方向に「槫縁(くれえん)」(この場合の板を縁甲板という)とがあります。長く平行な縁甲板を加工することができるようになるのは、ある程度、製材技術が発展してきてからです。古い時代からある濡れ縁には、水切れのよい切目縁、今の縁側では槫縁であることが多いようです。縁側の雑巾がけをしたことのある人は思いだしてみてください。その時の縁側はどちらでしたか?

■緩衝地帯があることで気候とうまくつきあえる

家が部屋ぎりぎりいっぱいで終わることなく、屋根が外壁よりも張りだした「軒」が差し出て、、その真下に「縁側」といった緩衝地帯が設けられるのが、そもそもの日本の家の大きな特徴です。こうした緩衝地帯はどんな役割をしてくれているのでしょうか? まず、日本の家は、外に対しては開口部を大きくとりながら、室内空間は木や紙、畳といった繊細な材料でつくるため、緩衝地帯があることで、直射日光や寒さ、風雨を和らげ、室内を守ることができます。この緩衝地帯の効果は、縁側と部屋との境にある障子を、開けたり閉じたりすることで、さらに高まります。 また、太陽の日周経路をみると、夏は高く、冬は低くまわっていますが、軒の出があることで、夏の暑いきつい日射しを遮り、冬の低い太陽の光はとりこむことができます。冷暖房器具によらずに家の建て方を工夫することで、天然の日射しをうまく利用し、光や暖あるいは涼をとるのです。これを「ダイレクトゲイン」といいます。わざわざ設備をもうけ、エネルギーを消費するのでなく、今まさに地球に降り注いでいる太陽エネルギーそのものを直接利用して気持ちよく暮らす。すばらしい発想だとは思いませんか?

環境と共生する建築を説き、現在のエコロジーの流れにまでつながってきているディートリッヒの「バウビオロギー」という本には、環境と共生するすぐれた例として、日本の民家のスケッチがでてきます。日本の軒と縁側を、庭先空間や通気性のよい床下とともに、すぐれた「ダイレクトゲイン」の仕組みとして高く評価しています。 現代の住宅にも、意識して縁側的な緩衝空間をとることをぜひ、お勧めします。すべての部屋を用途で埋め尽くすのでなく、部屋から部屋へ、内と外との「つながりスペース」としての余地を残しておくことが、家全体の融通性を増し、季節の悪条件をやわらげ、好条件を取りこんでくれるのですから。


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