■柱の家、壁の家
前回、日本の家はそもそも「木造軸組」が基本だというお話をしました。世界中にいろいろな素材、さまざまなつくりの家がありますが、大きくいうと「柱の家」と「壁の家」に分けられます。日本の木造軸組は、木を組んで柱と梁の骨組みをつくるから「柱の家」。それと対照的なのが、れんがや石を積んだ壁面で構造体をつくる西洋の「壁の家」です。
身近な例で考えてみましょう。積み木遊びでつくるのは「壁の家」です。それに対して「柱の家」はたとえば、鉄骨で組んだ骨組みだけで自立するジャングルジムに似ています。日本の「柱の家」が西洋の「壁の家」と大きくちがうのは、壁をあとからつけるという点です。今回は、「柱の家」「壁の家」について、洋の東西の比較話をしながら進めていきます。
■仕切って住む「柱の家」
「壁の家」と「柱の家」。それぞれ部屋はどのようにできているでしょう? 「壁の家」では、部屋と部屋は、壁によってはっきりと断絶しています。外に出るために、ドアをつけます。部屋に入れば、ドアを閉め、ことによってはカギもかけます。ノックすれば、中にいる人が招き入れてくれますが、ドアは開けっ放しにはしておきません。しまっているのが常態です。ドアは大概、廊下に面しています。廊下は通り、つまりパブリックスペース、部屋はプライベートスペースという区分が、はっきりしています。 日本の「柱の家」は、西洋の家からみたら「ワンルーム」的です。家のかたちがおよそできあがる上棟の頃、現場に行ってみると、柱は林立していますが、すべての部屋を見渡せてしまいます。柱と柱の間に小舞をかいて土を塗る、板を貼るなどして壁をつくるもよし。敷居、鴨居をもうけて、あとからサッシ、障子、襖などの建具を入れるもよし。大きなワンルームをあとから「仕切って」いくのが「柱の家」の住まい方です。
■ギーッと開ける西洋の家、スーッと引く日本の家
イラスト:照井亮
西洋の「壁の家」のドアや窓には蝶番がついていて、内から外へ、あるいは外から内へと「開く」ものです。それに対して日本の「柱の家」の間仕切りは、襖、引き戸、障子いずれにしても、横にスライドする仕組みです。日本の家屋の襖を英訳すると「スライディング」となります。 また「間仕切り」という考え方では、空間を隔てはしますが、完全に分けるものではありません。障子や襖を閉めたところを想像してください。隣の部屋と完全に遮断されるわけではなく、なんとなく気配は感じられるものですよね。また、間仕切りとしての建具にカギをかけることはありません。お手洗いや、厳重な門の扉のように、完全に遮断したい場所、カギをかける場所には、開き戸を使います。 はっきりと分断せず、ひとつながりの空間を「仕切る」ことで「隔てる」。その仕切りは「可動」であり、動かすことによって空間の広さや性格(用途)が変化する。これが日本の住まい方のひとつの特徴です。