1 2

柱の家


■縁側のむこうに絵巻物が広がる

「壁の家」と「柱の家」。家は外とどのように関わっているでしょう? 西洋の「壁の家」では、外と内とを「もともと遮断している」壁に穴をあけるようにして、ドアや窓を配置します。日本の「柱の家」では、柱と柱の間に開口部として、障子、縁側、雨戸で何重にも建具の層をつくります。建具を引いて閉じることで「もともとはつながっている」外と内とを隔てるのです。 家の中から見える景色はどんなでしょう? 西洋の窓から外を見た景色は、額縁で切り取られた風景です。それとくらべて、畳の部屋に座って縁側ごしに見る外の景色は、上下方向にこそ軒で断ち切られますが、パノラマ状に横長に開け放たれた絵巻物のような風景です。そして、はっきりと内と外に断絶される「壁の家」とくらべると、「柱の家」では、内と外がゆるやかにつながっています。

■道具の出入れが部屋の性格を決める

部屋ひとつひとつの性格はどんなでしょう?   西洋の「壁の家」では、ひとつの部屋にひとつの用途が割り当てられます。寝室にはベッドが、食堂にはテーブルがつねに置かれ、ここは寝るところ、ここは食べるところ、とはっきりと分かれています。 日本の「柱の家」でも食べたり寝たりしますが、寝るための布団や食べるためのお膳は、西洋の家のようにつねに出しっぱなしなのではなく、そのたびごとに「出したり仕舞ったり」します。部屋ごとの用途を決めず、道具の出し入れによって、部屋の使い方を変化させるという流動的な仕組みです。そのためには、ある季節、ハレの日にだけ出してくる道具をしまっておく収納が必要で、押し入れ、納戸、蔵などが威力を発揮します。 小さい家であれば、ひとつの部屋が時間差で複数の用途を兼ねてしまうこともあるでしょう。朝起きて布団を片づけ、ちゃぶ台を出してはじめて朝ご飯。片づければ、すっきりひろびろ。こどもが走り回って遊ぶことだってできます。大きな家では、慶弔の集まりなどの時に、すっかり片づけて、襖を開け放したり取り払ったりして、広間としてワンルーム的に使ったり、ふだんは座敷として使っている部屋に布団をのべてお客様をお泊めすることもあるでしょう。

■壊さなくても住み続けられる日本の家

仕切ったり開け放したり。道具を出したりしまったり。空間の広さや機能は自在に変えられるのは、開放的な「柱の家」だからこそできるのです。広さや機能が固定された部屋がそれぞれ独立してある西洋の「壁の家」とくらべると自由度がとても高いことがお分かりいただけるでしょう。 今、日本の住宅の平均29年で建て替えられるのだそうです。しかもそのほとんどは、ハード的な「家の寿命」で建て替えるわけではなく、家族の生活に間取りが合わなくなるからだといいます。間取りが合わなくなってきたら、自由にレイアウトを変えるという日本の住まい方の知恵はどこにいってしまったのでしょうか・・・。逆に、西洋には、間取りの変更の利かない石造りの家に、何百年も住み続けるといいます。人の方が家に合わせて、家具やインテリアで工夫しながら住むのです。 最近日本で新築される家は、ツー・バイ・フォー、パネル住宅など、壁式の家がほとんど。限られた敷地に建てる家に長く住み続けていこうと思うなら、「壊さなくても、住まい方を変えられる」日本の「柱の家」の融通性を見直してもよいのではないでしょうか?

大仙院方丈(出典:日本建築史図集/日本建築学会編 彰国社刊)
「我孫子の家」 設計長谷川敬アトリエ

次回予告:

【そもそもの参】
タタミや障子はいつからあるの?
どうしてできたの?

分かればもっとおもしろい!建具の歴史をひもといてみましょう。


1 2