今回の総会での会員発表は、5時間にもおよびました。
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第15期 木の家ネット総会 高知大会 〜会員発表篇〜


土佐の魅力満載
充実の高知総会!

第15期の総会は、11/23-24に高知で行われました。前日の11/22には、奈半利町での「伝統構法を無形文化遺産に」の関連イベントとしてのフォーラム、当日の朝に高知城や日曜朝市への散策、24日には牧野富太郎記念館、安岡家住宅、沢田マンションなどの見学ツアー、そして、藁で焼いた鰹のタタキや皿鉢料理など、高知の魅力を満喫した、すばらしい3日間でした。現地幹事としてすべてを用意してくださった沖野建築の沖野誠一さん和賀子さんご夫妻、運営委員としてサポートした和田洋子さんのがんばりと心配りのおかげと、心から感謝しています。この高知での充実の総会の報告を「会員発表篇」「見学篇」と二回に分けてお届けします。

「総会中の総会」での
濃密な情報交換

今回お送りするのは「会員発表篇」。木の家ネットでは、見学や宴会以外に、年に一度集まる会員同士がじっくりと情報や意見を交換する時間を、総会の核心として位置づけています。この時間は例年、時宜にかなったテーマについて、その話題に明るい会員が発表をしたり、グループに分かれての作業や意見交換を通して学びを深め合ったりする、充実した濃密なもので、これを時間を体験した会員は「また来年も総会に行こう!」という思いをあらたにするのです。

27名の会員が発表に!
人材の厚みを実感

今期の会員発表は、20015年11月23日の14時から19時まで、海辺の果樹園ホテルの一室で行われました。「なるべくたくさんの会員に発表してもらおう」ということで、木の家ネットに参加したばかりの会員さんや各地で活躍する会員さんにあらかじめ声をかけ、普段の仕事ぶりや地域での活動の写真などを用意してもらいました。発表者は、のべ27名。80名以上の参加者が畳の広間に座布団を並べて「おしくらまんじゅう状態」でぎっしりと膝を突き合わせて座る中から、発表者が入れ替わり立ち替わり前に出て語る、内容豊かな、熱い時間となりました。

第一部
新入会員さんほかの自己紹介

まずは、入会したての新会員さんが、それぞれの仕事ぶりや木の家ネットに入会した経緯を発表しました。

杣耕社山本 耕平さん(岡山)
杣耕社ジョナサン・ストレンマイヤーさん(岡山)

トップバッターは、岡山で二人で石場建てにこだわる杣耕社を営む山本 耕平さんとジョナサン・ストレンマイヤーさん(通称ジョン)。鹿児島のある旅館の改修のためのプレゼンテーションのためにつくったイメージ写真で、時を経て美しさを増す本物の美しさを見せてくれました。

右側がジョンさん、奥が山本さん

ジョンさんは、アメリカから日本建築に魅せられて来日、数寄屋建築の修業をしたのち、山本さんと出会い、杣耕社に参加。石場建てに出会って、日本の木造建築の真髄に触れたという想いを、熱く語りました。

「ハツリ」作業をする山本さん

下地工務店下地史浩さん(山口)
田中大工店田中龍一さん(神奈川)

続いて、山口県岩国市で工務店を営む下地史浩さんが建て主やほかの職種の仲間たちとの信頼関係を大事にした仕事をしている様子を、紹介してくださいました。米軍基地があり、木造が弱い土地柄ですが、近くの会員とつながりながら、木の家のよさを広めていくような活動をしていきたいという希望をもっていると語られました。長崎出身で数寄屋や社寺の修業を経て神奈川で独立した田中龍一さんは、今後、木の家ネットの会員に刺激を受けながら、住宅で無垢の木の仕事を展開していきたいという意気込みを示されました。

下地さんの仕事例

有限会社プローブ小澤啓一さん
森田水工森田敦彦さん(神奈川)

次に発表した神奈川のお二人は、木の家ネットに参加する初めての職種の方たち。タイル職人の小澤 啓一さんは、「だんご張り」という工法にこだわった施工例を見せてくださいました。タイルやレンガできれいに仕上げたカーポート、擁壁、お風呂など、さまざまな場面で、タイル仕事が光っています。

だんご張りによる擁壁の補修

水道屋の森田さんは「出来上がってしまえば隠れて見えなくなる仕事ですが、工夫して、丁寧に施工しています」という語りました。木を組む家づくりの現場が好きで、棟上げを手伝っていたりすることもあるとか。木の家づくりは、さまざまな職種に支えられるチームがあってこそ、成り立つことを実感しました。

「これ、俺です!」水道屋さんが建前にしっかり参加しています。

東原建築工房東原 達也さん(三重)

三重の東原 達也さんは、地域の小さな薬師堂を、身近にある材料で、子ども達にも墨付け、上棟、小舞編み、土壁塗りと、さまざまな場面で関わってもらって造った事例を紹介してくださいました。ちょうどその日の朝、そのお社の竣工祝いを終えて、かけつけたところでした。真珠の貝殻を砕いたものを塗り壁の材料として使うという志摩ならではのエピソードも興味深かったです。

AA STUDIO橋詰 飛香さん(愛媛)

続けて、これまでの総会で発表することのなかったお二人に普段の仕事ぶりを発表していただきました。愛媛の橋詰飛香さんからは、化学物質過敏症の方のための「CSはうす」を、住まい手もセルフビルドで参加しながら木組み・土壁・石場建てで完成させた事例の紹介がありました。大学の研究者と共同して「空気質調査」をしているそうです。家づくりが目には見えないけれど「空気」をつくっていることに、住まい手の方に気がついてもらうこと、木や土が「きれいな空気」を発しているということを積極的にアピールしていく必要を感じました。

化学物質過敏症の人のための家と、その見学会の様子。

木組み土壁の家づくりを知ってもらうために職人さんに講師を依頼して開いている「家づくり塾」や、家づくり以前に、暮らし方そのものを伝えていくために味噌造りイベントなどもしているという報告もありました。

淡路工舎藤田 大さん(兵庫)

淡路島で工務店を営む藤田大さんは、淡路島を含め、広い範囲にわたって社寺の仕事をすることが多いのですが、現場の合間に少しずつ進めているので「なかなか完成しない」とご本人が言う自宅の建築や、近くでの増改修の施工の様子も紹介してくださいました。伝統構法は、社寺であっても住宅であっても、直す仕事でも、木を活かすように組み、丁寧に仕事をするという点においては、同じ、という想いを語ってくださいました。

藤田さんの仕事

第二部
各地での活動紹介

その後、各地でのさまざまな活動の紹介が続きました。きびしくタイムキープをしながら進行したのですが、発表者一人一人は、それぞれの持ち時間が足りなくなるほど、めいっぱいの発表で、木の家ネットの人材の厚みをあらためて実感する時間となりました。

くむんだー
川村工務店川村克己さん(滋賀)

「くむんだー」は、木組みのジャングルジムです。滋賀県で「湖国の木の住まいづくり」をアピールするイベントに出展するのに「家の写真をパネル展示をしても効果が少ないだろう」と考えた川村克己さんが、子どもが遊びながら楽しんで木組みを体験できるものとして考案しました。柱を立て、貫でつなぎ、楔で止め、軸組を造っていきます。川村さんは、4トントラックに「くむんだー」のセット一式を積んで、奥様をともなって各地でのイベントに参加しています。

「くむんだー」の仕組みはとてもシンプル。子ども達がどんどん自主的に作っていけるのが、ミソ。

「京都の清水寺の舞台も、これと同じ昔ながらの大工技術で造られているんですよ」などと、親子連れにも声をかけながら、自然と入ってきてもらい、親子連れにも楽しんでもらえるのが「くむんだー」のよさ。開催地でお手伝いスタッフとして関わる、普段は木組みに触れることのない人にも、知ってもらうきっかけになります。参加者に安全にためにかぶってもらうヘルメットにも「伝統構法を無形文化遺産に」のシールを貼って、さりげなくアピールしています。

若いお母さんに声をかけて参加してもらうためのトークを、寸劇で再現!

「くむんだー」は滋賀から埼玉へ、埼玉から三重へと飛び火しながら、広がっていっています。そんな様子も、三重の東原さんや埼玉の綾部さんから報告されました。木の家づくりや日本の大工が伝えて来た建築技術を世の中に浸透させていくポテンシャルを持つ「くむんだー」の今後の広がりが期待されてます。

京都の現場より
大下建築大下尚平さん(京都)
中川幸嗣建築設計事務所中川 幸嗣さん(京都)

京都の大工の大下尚平さんからは、京町家の再生事例の発表がありました。歪みや傾きがでてきている町家でも、柱をあげてレベルを揃える「あげまい」や、軸組の傾きを直す「いがみつき」で家の姿勢をしゃんと整えることができます。

町家では、壁を隣家と共有しているような状態もあり、長屋状に並ぶ三軒、五軒を、いっぺんに改修できるように話をまとめていくことが苦労するところですが、それがうまくいけば、街並としての再生につながります。古い町家、櫛の歯が抜けていくようにがいとも簡単につぶされていますが、このような技術をもった大工の手で、町家のもっている美しさはそのままに、今の生活に合わせて住みやすく直せるのを知ってもらうことが、京町家の街並存続のために必要だと感じました。

このように何軒も連なって建っている例も多い。(写真左)。大下さんが再生した京町家

同じく京都で設計をしている中川幸嗣さんからは、長野の妻籠の宿の例にならった木と土壁による町家の新築事例の紹介がありました。施工は木の家ネットの仲間の高橋憲人さん(大高建築)です。京都市内でも新築での土壁は珍しいそうですが、小舞を編んだ状態で行った見学会も好評でたくさんの来場者から反響があったそうです。施工中も通りがかる人も目を止めていくことが多く、中川さん自身にとっても、大きなやりがいのある仕事だったそうです。

中川さんによる町家新築工事のスケッチと、竹小舞が編み上がった現場での高橋さんのスナップ

明治座改修の報告
川端建築計画川端眞さん(滋賀)

滋賀の川端さんからは、昨年の岐阜の総会で訪れた加子母の明治座の「平成の大修理」の完成報告がありました。修理の内容としては、耐震補強と、クレ葺き石置屋根の復活があります。瓦屋根から往時の姿に蘇ったことで、この地域らしい外観の芝居小屋となっただけでなく、地域の技術の伝承の機会ともなりました。

耐震改修では、まず、柱が沈んでいたり、軸組が傾いていたりする箇所がたくさんあったので、さきほどの京都の例と同じく、持ちあげて根継ぎしたり、よろびを直したりしました。また、地震時の揺れを一定値(1/15rad)以下に抑えることを目標に、極力金物に頼らない、木組みのめりこみを活かした耐震補強をするために、限界耐力計算を用いた設計をし、最小限の板壁補強で実現することができました。明治座で演じた役者の直筆サインが残る古い板壁はそのままに残し、ベニヤが打ち付けてあったようなところを交換することで、うまくいきました。川端さんとしては、完成後の見学会で「前と変わってないようだけれど、どこを直したの?」と言われたのが「何よりの褒め言葉に感じた」そうです。

今回の改修の特徴であるクレ葺き石置屋根(左下)と、基礎の根継ぎ補修(右下)

現行の構造設計基準を一律に適用しての鉄骨による耐震補強は、歴史的伝統構法建造物の構造特性を無視した力技であり、伝統構法を次の世代に引き継ぐことになりません。その建物がなぜ百年以上も残ってきたのか、その理由を考え、先人が伝えてきた技術を生かす補強をする。そのような方向でなされた、すぐれた改修例といえるでしょう。

カリフォルニアでの僧堂建築
丹建築丹羽怜之さん(三重)

三重の一峯建築から去年独立後、アメリカのカリフォルニア州レイク郡に渡り、禅宗の天平山僧堂の建設に関わった丹羽さんからの報告がありました。ここには、ご本尊のある仏殿はまだありません。僧堂が最初の建築物となります。アメリカには正式に禅の修業ができる施設がないので「まずは、座禅・食事・就寝の場である僧堂から」となったそうです。

建築前の天平山と、建設途中の僧堂

アメリカでは州ごとに、日本の建築基準法以上に細かく、厳しい建築の規制があり、それに則っての設計が現地でなされ、その施工に丹羽さんが携わることになりました。ベースはトラス構造ですが、僧堂らしい屋根ができあがりました。材料は日本から船便で輸送し、そのコストが相当かかったようです。丹羽さんが帰る間際に大規模な山火事がありましたが、天平山はなんとか難を逃れたそうで、よかったです。


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途中、2度の休憩をはさみ、熱気あふれる発表が続きました。