会員発表後にひらかれた宴会では、藁焼のタタキなどのごちそうが並びました。
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第15期 木の家ネット総会 高知大会 〜会員発表篇〜


第二部 後半
問題提起タイム

弟子を育てよう
宮内建築宮内 寿和さん(滋賀)

弟子を育てるには、給料、道具、保険、住む場所など、さまざまな経費がかかり、親方としてそれをかかえていくことは大変なことです。そのために、仕事をとり、段取りをし、資金繰りとし、と苦労は尽きません。また、命と人生を預かることもあり、大きな責任を負うことにもなります。しかし、親方本人は「いつまでも若くない」。だから「弟子を育てよう!」というメッセージが、自らも3人の弟子を総会に連れてきている宮内さんからありました。

次の世代を育てていかなければ、ずっと伝わって来た木の家づくりは、先につながっていきません。弟子を育てることは、技術の伝達にとどまらず、人に信頼され、技術を教えてもらえたり仕事を任せられたりする人柄を育て、ものごとをやり抜くことのできる精神力や忍耐力を培い、やってはいけないことを教えることでもあります。また、弟子を育てることは、何が大切なのかを再確認することにもなり、自らが学ぶことにもつながります。

宮内親方の熱い話

総会会場には、親方と一緒に来ている弟子たちもいました。「自分を超える弟子を育てられなければ、半人前」と語る宮内さんの発表をどのような想いで聴いていたでしょうか。「大変だけれども、みんなで頑張って次の世代を育てていきましょう」というエールで、宮内さんの発表は締めくくられました。

最近、困っていること
おおしま家大工店大嶋 健吾さん(三重)

工務店を経営していく中で、大変なのが資金繰り。請けた仕事の代金を、いかにして各職方や弟子達に支払っていくか。ひとつが滞ったり、遅れたりすると、首がまわらなくなる危険がいつもあり、仕事をまわしていきながら頭を痛めるところでもあります。

また、会社形態にしているかどうかによっても、厚生年金、健康保険、雇用保険といった弟子の福利厚生の扱いも変わります。赤字を翌年以降へ繰り入れができるか、立ち行かなくなった時に公の助成金や再建制度を使えるかどうかといった違いもでてきます。

手をかけた丁寧な仕事をしていればこその悩みを共有できるのも、木の家ネットの良さ

それぞれに抱えていながら、なかなか語り合うことのなかった、このようなナイーブな問題について、大嶋さんは自らの置かれている立場を語りつつ、参加している仲間に問いかけました。経営はつねに順風満帆というわけにはいきません。むしろ、苦しい面が大きいのが大半です。経営経験の長い先輩方からのアドバイスがあったりもしながら、夜の分科会で続きが深く語られたようです。こうしたことを打ち明け合える仲間が居ることが実感できる総会になったのではないでしょうか。

第三部
改正省エネ法義務化にむけて
「まずは計算してみよう」

次に、綾部孝二さん、古川保さん、和田洋子さん、川端眞さんのナビゲートにより、2020年に義務化が予定されている改正省エネ法を「自分ごと」としてとらえるためのプログラムが行われました。

木の家ネットの多くの会員が手がける「木組み土壁の家」が、改正省エネ法の義務化でどのように扱われていくのかについて、まず、綾部さんが発表しました。「内外真壁の土壁は特例として認められる動きがあるようですが、実際の施工では外に板を張って大壁にする例も少なくないですよね? このままいけば、板を張るなら、土壁との間に断熱材を入れろと言われるようになるんです」と、綾部さん。

伝統木造の現場からの声を届け続けている綾部さん

「内外真壁だけに限らず、伝統木造には断熱に変わる環境的な価値があります。また実際には、木組み土壁の家に住む人のエネルギー使用量の調査をしてみると、低エネルギーでの暮らしができているという実態があります。長寿命、低エネルギーなど、その価値をしっかりと認識し、表明し、訴えていくことで、道を拓いていくしかありません。みなさん、地元に帰って、このことを口にしてください」と綾部さんは皆に訴えました。

次に、古川さんが「まず、義務化になった時にやらされる外皮性能の計算を、自分が普段やっている仕様に合わせて計算してみる」というワークショップをしました。計算を簡単にするために、伝統木造でよくある建物ということで、伝統的構法の性能検証実験の時にE-ディフェンスで揺らした家をモデルにしました。省エネの計算に必要な外周や面積、開口面積などはすでに求めてあります。あとは、それぞれが「普段、床、壁、天井にどんな断熱材をどれだけの厚みで入れているか」ということを、いくつかの選択肢から選んでいきます。

iPhoneで計算をする会員

古川さんのガイドで計算をし終わった人が、口々に数字を言っていき、それを集めていきます。「1.84、1.22、2.04、1.73、1.99…」

さて、温暖地での満たすべき外皮性能は、新潟であろうと、奄美大島であろうと「0.87」これよりも高い数値になれば「断熱が足りない」ことになってしまいます。会員の計算結果を順に読み上げていきましたが、改正省エネ法の外皮性能の基準を満たす数字は、なんと、ひとつもありませんでした。

「どんなにがんばって断熱材を入れてもムリです。というのは、みなさん、南向きに縁側のある掃き出し窓をするでしょう? 窓が多いでしょう? 開口部が多すぎでダメ。全部をペアガラスにしても追いつかないですよ」

「国家再生戦略としての省エネの目的は、じつはエコロジーでなく、エコノミー。だからエコロジーのためには必要ないようなことでも、経済を循環させるために強制される。たとえば、暖房料金が年間2万7千円しかかかっていない九州でも、費用を120万かけての断熱化を求められる」という話に、参加者は頭をかかえていました。

全国を気候別に8つの地域に分けて基準が示される。
線より南西が、温暖地である5地域から7地域。新潟でも奄美大島でも、必要とされる外皮性能の基準は「0.87」以下。

古川さんは、地域別、用途別のエネルギー使用量の統計を見せてくれました。本当に力を入れるべきは、給湯や要らない家電の削減であることが明白です。それでも、暖房効率をあげるための断熱化だけが突出して推進されるのは、いかがなものでしょうか。

不思議なことに、同じ政府から「和の住まいのすすめ」という、日本の気候風土に合った住まい方、暮らし方を推進するパンプレットが出ています。古川さん曰く「このパンレットで紹介されている家の外皮性能を計算してみてみたら、2.9ぐらいでした。まず、改正省エネ法はクリアしないですね」

「伝統的な建築ができなくなることのないように」と、国会でも議論はされています。伝統木造関係者以外でも「この外皮基準は行き過ぎではないか」と意義を唱えている人たちもいます。JIAや建築士会でも「外皮基準の適用を除外できる住宅」として、各都道府県の建築士会で「地域型住宅」を定めていこうという動きもあります。

古川さんが考えている作戦は「トレードオフ」。外皮性能を満たしていなくても、かわりにこういう環境的なメリットがあるのだから、差し引きで帳消しにする、という論法です。「景観は0.2、職人の雇用は0.1、ゴミ問題は0.3、耐久性は0.2…」と積み上げていけるようなしくみができないか、と。

エネルギーを無駄遣いすることを抑制し、省エネを推進しようとすること自体は、よいことです。しかし、省エネ性能を評価する基準が、外皮性能にのみ置かれてしまうと、特に温暖地においては、その地域らしい開放的な住まい方や家の耐久性を損なうことになるのでは? 費用対効果のうすい断熱化を強要することは、居住者の経済的負担をいたずらに増すことにならないか?

「みなさん、私たちはすでにまわり始めている大きな歯車の中にいるんですよ。生き延びていく道を探らなければ、この中に組み込まれてしまいます。逃れられないのです。だからこそ、ことあるごとに意思を表明しつづけなくてはならないのです」という呼びかけが、強く印象に残りました。

改正省エネ法担当の古川さん

その後、川端さんから「木組み土壁の家で、エコポイントをゲット!」という事例発表がありましたが、専門的すぎるので内容は省略させていただきます。

第4部
「木の家ネットの基本」

絶対に譲れないものは何?
木の家ネット事務局持留 ヨハナエリザベート(山梨)

総会の中の総会の最後は「そもそも木の家ネットの基本はどこにあるの?」という原点にたちかえるためのグループワークを行いました。

グループワークの司会をする、事務局のヨハナ

24時間換気の義務化、瑕疵保険、石場建て問題、改正省エネ法…。木の家ネットが発足して以来、伝統木造が法律的にも造りにくくなるような事が次から次へと起きてきました。その度に、そうした問題が起きていること、問題のどこがポイントなのかを明らかにし、木の家ネットのつくり手としてそれをどう捉えるかを考えてきました。

そして、必要な時には意見をとりまとめ、パブリックコメントや国土交通省への申し入れなどといった行動も起こしてきました。検討委員会の動きに実務者として深く関わることもしてきました。そのため「木の家ネットは、石場建て、土壁の伝統構法ばかりを追求している人たちの集まり」などと見なす人もいます。

「どこまでが伝統構法?どこからが在来工法?」といった線引きや定義をしはじめると切りがない面もありますが、木の家ネットの原点は意外ともっとシンプル。そのエッセンスが、入会を希望する人にまず読んでもらう「木の家ネット宣言文」という、たった85字の短い文章が凝縮されています。

2001年10月にオープンした時の木の家ネットのトップページ。宣言文が中央に表示されている。

これは法律でいえば憲法にあたるようなもの。立ち上げ当初の木の家ネットには、この宣言文の各文節をかいつまんで解説しているページもありました。そこで述べられているのは「人から人へと伝えられて来た」「手の技術」「木を見ること」「山とつながる」といった、ごく基本的なこと。そこに線引きや条件づけなどは、特にありません。

全員でこの宣言文をひととおり読み直したあと、3つのグループに分かれて、想いを語り合いました。ひとりひとりが大事にしていること、これは譲れないということは何なのか。車座で時間ぎりぎりまで、語り合いました。

各グループで話されたことの結果が、この後の宴会の時に発表されました。「建て主さんやさまざまな職方との間の、いっしょにつくっていくという信頼関係が大事」とか「基本的に木が好きだから、木をよりよく生かす方向で使いたい」という意見が共通して聞かれ、家をどうつくるか、という技術的な要素よりも「人や木とどう向き合い、どのようにつくっていくのか」に重点が置かれているようでした。

分科会へ

それぞれのテーマは、引き続き宴会後の「分科会」に引き継がれました。ひとりひとりの希望に沿って、「弟子育成」「経営問題」「くむんだー」「改正省エネ法」「木の家ネットの基本」5つの部屋に分かれ、夜11時過ぎまで、深い話し合いがもたれました。第15期のコンテンツは、ここで語られたことの延長線上で企画していきたいと考えています。どうぞお楽しみに。


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恒例の集合写真。裏方仕事中の沖野和賀子さんをうっかり撮りそこねてしまったので、丸枠で失礼します!