高知総会は、地元沖野建築の沖野誠一・和賀子さん夫妻(中央・右)と、岡山の設計士 和田洋子さん,奮闘で実現しました。ありがとうございました!
1 2 3

第15期 木の家ネット総会 高知大会 〜会員発表篇〜


第二部 各地での活動紹介(続き)

ハツリが熱い!
不動舎宮村 樹さん(奈良)
のじま家大工店野島 英史さん(山口)

鉋で材を削った薄さをミクロン単位で競う、競技会「削ろう会」が大工たちのお祭りとして人気で、今年の5月の神戸大会は、一般の来場者も多く、最大規模を迎えました。日本の伝統的な大工技術を支える道具とそれを使いこなす技術が注目されるのは、嬉しいことです。

社寺建築の親方として勢力的に関西圏を飛び回る宮村さんは、「ハツリ」と呼ばれる、古くからある製材技術の復活に関わっています。チョウナという、手前に曲がった木の柄の首に刃がついた斧やヨキなどを使って大工自身が製材するこの技術は、平安時代の大工仕事を描いた絵巻にも登場します。大鋸や製材機ができる前は、これが丸太を製材する唯一の方法でした。

ハツリ作業中。鱗のような刃跡が見える

ハツリによる製材では、材の表面に、無数の刃跡が残ります。それが鱗のようにも波のようにも見え、鉋で真っ直ぐに仕上げたのとはまた別の味わいがあります。「削ろう会」から派生した「はつろう会」が年に一回の集いとして始まり、2015年に二年目を迎えましたが、宮村さんは、日常的に腕を磨いていく大工同士の技術研鑽として、月一回の「大和宝匠会」を始めました。今後、実際に社寺や住宅の見えるところに使っていけるようなルートを開拓したい、チョウナ以外にも、ヤリガンナや大鋸などの使い方や目立てなどの技術もつないでいきたいとのことでした。

ハツった板のサンプルが総会会場をまわる。表面の手触りが、なんとも言えず、いい。

広島の福山で工務店を営む野島さんは、地元の過疎の島のビーチで、はつり会をしました。大工技術の研鑽という目的のほかに、大工がひとりも居なくなってしまった島に大勢の大工が集まることで、地元の活性化をはかろうというねらいもあったそうです。観客も集まり、地元のカフェが仕出しをするなど、賑やかな二日間となりました。

海辺での、ハツリ会の様子

84大工の会
沖野建築沖野 誠一さん(高知)

今回、幹事という大役を果たした沖野さんから、地元高知での「84プロジェクト」ついてご紹介いただきました。これは、森林率が84%という高知県の木を生活のあらゆる分野で使っていこうというもので、沖野さんは「84大工」として、高知の山から伐りだした木、草からつくった和紙、山の土を活かした家造りをしています。大工として単独ででなく、暮らしを総合的にとらえ、まるごと発信しようと、つねに広がりのある活動をしているのが、沖野さんの素晴らしいところです。

84プロジェクトの参加メンバー。中央上の写真で、沖野さんと共に歩いているのがロギールさん。中央下の写真で右側に写っているのがジョンムーアさん。右の写真は地元の若者に伝統構法を教えている沖野さん。

高知県に自生するコウゾやミツマタの繊維から手漉き和紙をつくるロギールさん、檮原という山奥の集落で在来種の継承につとめる「シードバンク」活動をするジョンムーアさんなどの恊働により、高知県の自然の恵みで成り立つ「和の暮らし」文化を普及するためのイベントも勢力的に行っています。今回「伝統構法を無形文化遺産に」のフォーラムと木の家ネットの総会を二泊三日で実現できたのも、このようなイベントを頻繁に開催してきた沖野さんご夫妻の人脈やバイタリティーがあってこそのこと、と窺い知ることができました。

込栓角鑿機の復活にむけて
だいかね建築金田 克彦さん

手刻みの仕事に欠かせない電動工具でありながら、廃盤になって久しい込栓角鑿機。その復活を願って木の家ネットで集めた署名で、伊勢の松井鉄工所が試作機の作成へと動きはじめてくれました。

そもそも、この話が出始めたのは、ちょうど前回の総会の直後。愛知の小田貴之さんから木の家ネットのメーリングリストへの「込栓角鑿機が手に入らなくて、困っていませんか?」という問いかけがきっかけで、それが、このような広がりへと結びつきました。試作の一号機の動作状況をおさめた動画を、みんなで見ました。

試作機のビデオを前に、話をする金田さん。

みなが口々に意見を出して金田さんがそれをまとめていましたが、使い勝手については、ユーザである大工たちが松井鉄工所に出向いて、設計チームと実地での意見交換が必要、という話になりました。金田さんが会場に「松井鉄工所に行きたい人!」と声をかけると、大勢の手が挙がりました。まずは、総会で出た意見を整理して先方に届け、松井鉄工所への訪問につなげていきたいところです。

ほかにも「チェーンのみ」「大入れルータ」「大型ホゾ取り」など、廃盤になっていたり、廃盤のおそれがある工作機械や、機械の替え刃など、危機的な状況にあるものがいくつかあります。使い手と作り手とが顔の見える関係でつながっていくことで、伝統的な仕事をするための伝統工具を存続させていくことができますように。

この時に出た主な意見:

  • 穴をあけるところを狙いやすいこと、合わせやすいことが肝腎。
  • 角ノミが入る瞬間に機械が若干傾いているように見える。支える軸がもう少し太くてもいいかも。
  • 自動昇降でなく、手でおろすようにできた方が、細かい調整が利きやすく、使いやすい。

林材関係情報
林材ライター赤堀 楠雄さん(長野)

赤堀さんからは、林材関係の最近の動向をうかがいました。木材の自給率は、このところ上がってきているものの、その中身を見てみると、ニーズが高まっているのは、合板や集成材の原料にする低質材ばかり。合板や集成材は、無垢材と違って、工業的に加工することで価値を創出するので、原材料の質よりもコストの抑制が最優先されるからです。低質材の需要ばかりが伸びると、山で長い時間をかけて木を育てたり、よい木を選ぶ技術が廃れ、結果的に山は荒れていってしまいます。

木質製品はまだしも、最近では、樹皮や原木を粉砕したチップを燃やして発電するバイオマスエネルギー利用のニーズが伸びています。その木がどれほど手をかけて育てられてたのかや、木材そのものの質が問われことなく、移動式の粉砕機で一瞬のうちに処理されていく映像を見て、なんともせつない気持ちになりました。

木の使われ方を解説している赤堀さんのスライド。材の品質が重要視されない使われ方が増えている。

このような厳しい状況の中で、無垢材に付加価値をもたせるために山側がどう取り組んでいるかについてまでは、時間切れで話を聴くことができず、残念でした。機会があれば、レポートをお願いしたいところです。長い目で見て山を育て、質のいい製材品をつくる努力をしている山と、無垢材のよさを生かした家や家具をつくる人が結びつき、その価値を理解してもらえ人を増やしていくことの大切さをあらためて実感させられる報告でした。

秘密基地サルシカ
木神楽高橋 一浩さん(三重)

サルシカとは、平成20年に創立された、地域を元気にする活動を展開する三重の特定非営利法人で、三重県津市美里町平木区という山奥の集落で「サルシカ秘密基地」という地域振興プロジェクトを実践しています。大工としてこのプロジェクトの「場づくり」に当初から関わっている高橋一浩さんから報告がありました。

最初に行ったのが「秘密基地」を造るというイベント。高橋さんが段取りをし、大勢の参加者が丸太を立て、梁でつなぎ、屋根をかけて、掘立て小屋を造りました。できあがった基地に作った竈や窯をを活用して、毎週日曜日の朝、地元のお母さんたちが「平木やまびこカフェ」を運営しています。石窯パンが好評で、人口わずか94人の山奥の集落に、毎回60人ほどの来客があるというのですから、驚きです。

トレーラーハウスの横に掘立柱を立て、屋根をかけた「秘密基地」は、カフェになりました。右の写真はオープン時のもの。

さらに、耕作放棄地を借り受け、平木区の方を講師としての農業研修もはじまり、2名の研修生が農作業をしています。収穫した米や野菜は、カフェで使われています。今後は、都市部住人への農地の貸し出しも検討しているそうです。何もなかったところに、みんなで「場づくり」をする。そこに集う輪が、さらに広がっていく。そのようにして、楽しく、自然と、賑わいが生まれています。

学生たちとの活動、ジブリとの連携
工作舎中村 武司さん(愛知)

次に、本業の大工以外に、教育や広報といった面で、木の家づくりを伝えていく活動をしている中村武司さんから報告がありました。

中村さんは、母校の名城大学で建築を教えています。そのゼミの実習で、取り壊す寸前の状態にあった昭和の家をほぐし、再生させることに取り組みんでいます。大学教育では、木造の実習が組み込まれていることは滅多にありません。自分たちで解体し、コンクリートを打設し、土壁を塗るという体験に、学生たちものめりこんでいたようです。できあがった「あじまの家」はコミュニティスペースとして活用されていくそうです。

左から、あじまの家(写真:笹倉洋平(笹の倉舎))、9歳の家づくり、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーとの取材

また、シュタイナー学校で「9歳の家づくり」の指導してもいます。子ども達が自分たちの手で伐採した木の皮を剝き、組み上げ、屋根をかける。伐り出した竹を割り、小舞を編み、土壁をつける。仲間達と家づくりの基本を体験したことは、子ども達の心に強く印象を残したことでしょう。

体験ということで、もうひとつ。中村さんたちがスタジオジブリの依頼で「愛・地球博」の会場に「となりのトトロ」の舞台となった「サツキとメイの家」の建築を手がけて10年が経ちます。それを記念して、スタジオジブリで発行する月刊誌「熱風」に「サツキとメイの家の10年」特集が組まれたのですが、その取材に際し、中村さんはスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーに、木の家の現場や木の伐採、土壁塗りなどを二日間にわたって体験してもらいました。木と土の家づくりの大切さを実感した鈴木プロデューサーは、機関誌「熱風」に継続的に木造建築の連載を組んでくれることとなりました。

木の家ネット埼玉
綾部工務店綾部 孝司さん(埼玉)

埼玉の綾部さんからは、2008年に川越で総会を行った実行委員会が母胎となり、2012年に「木の家ネット・埼玉」をたちあげて継続的に活動をしていることの報告がありました。

「木の家づくりが広まっていかないのは、その良さが知られていないから。ならば、自分たちの地元でその良さを積極的にアピールしていこう」というのが、この会の主旨です。具体的には、埼玉県内の各地に居る会員が、それぞれの地元でのイベントに出展したり、自らイベントを企画したりする「彩の国 木の家づくり巡回展」を行っています。

木の家ネット埼玉のマークと、メンバー主催の完成見学会の際に、共通パネル展示をしている様子

まずは、メンバーで話し合った共通認識にもとづいた「共通パネル」を作成。それぞれのイベントでは、それに「個人パネル」を加えて展示。ほか、木組み模型展示、小物製作、かんな削りによるフラワーアートなど、来場者に積極的に楽しんでもらえるようなメニューを加えています。最近では、滋賀の「くむんだー」を取り入れ、木のふれあいまつり、エコプロダクツ川越など、さまざまなイベントで人気を博しています。「それぞれの地元での木の家ネットの会員同士のつながりを活かすことで、木の家づくりを広めていってほしいです」と綾部さんは語っていました。


1 2 3
総会会場となった海辺の果樹園ホテルは、高知きってのリゾートホテル。大変お世話になりました。公式サイトはこちら