紅壁:左官 湯田勝弘写真提供=日高保(きらくなたてものや)
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土壁の魅力


今回は、土壁特集です。土壁と一口に言っても、その種類や配合によって、また、まったく同じ土であっても左官屋さんの仕上げ方によって、さまざまな表情を見せてくれます。明るい色から落ち着いた色まで、ざらっとした感じからつるつるピカピカになるまで磨いたものなど「これが同じ土壁!?」とおどろくほど、バリエーションが豊富で地域性もあります。

土の成分の違い、砂の混ぜ具合などによって、色も材質感もさまざま。後からつけた色やタッチではなく、自然界にこれだけの幅があるのかと、目を見張らされます。その素材のすばらしさを引き出すのも、左官職人のプロの腕ひとつ。まったく同じ土を使っても、仕上がりのクオリティーは、まったく変わって来ます。

部屋の大きな面積を占める壁のテクスチャーは、部屋の性格や雰囲気を決める大きな要因となります。「木と土壁の家」では「木だけでつくる家」と比べて、その表現の幅が広くなります。柱や梁など、木の軸組による線と、土でつくる面とのバランスは、日本の木造建築がもっている美しさです。

とても質の高い職人仕事の世界であると同時に、かつては隣近所との「結(ユイ)」の作業で素人が土壁を塗る習慣もありました。今でも、荒壁までは建て主参加のワークショップ形式で行う現場もあります。そうした幅の広さも、土壁の世界にはあります。

言葉を尽くすよりも、まずは、見ていただいた方が早いでしょう。つくり手のみなさんから寄せられた、実際の土壁の表情をたくさんご覧ください。

土壁の仕上げいろいろ
A:赤磨き壁(左官 松木憲司) B:三和土(タタキ)土間と土壁 C:黄土掻き落とし窓(左官 松木憲司) D:中塗り土仕上げ(左官 湯田勝弘) E:間接照明で浮かびあがるテクスチャー

写真提供=A,C 松木憲司 (蒼築舎)  B,E 田上晴彦(有機的建築 晴吉)  D 日高保(きらくなたてものや)

土壁が熱い!

昔はどこでもあたりまえに見られた「土壁の家」ですが、今ではほとんどが乾式工法にとってかわられ、少なくとも関東以北では新築で土壁が採用される機会は少なくなっています。

しかし、木の家ネットのつくり手の間では土壁再評価の気運が高く、中には「ほとんど土壁」というつくり手も各地域に点在しています。若いつくり手の間で建て主とつくり手とが一体となって土壁を施工するケースもありますし、土壁の温熱環境を科学的な指標で考えようというグループも生まれ、各地で土壁の強度実験を企画する人たちもあり、「土壁が熱い!」と言えるほどのもりあがりを見せています。

そうしたもりあがりの中で、「うちの現場ではこうしている」「えっ、そうなの!?」「地域性かな・・」と、会員間での情報交換もさかんになってきました。そこで、岡山の和田洋子さん(一級建築士事務所バジャン)が3月に「土壁アンケート」を実施しました。目的は、土壁の施工方法や土壁に対する考えにどのくらいの幅があるのかを知ること。木の家ネットのメンバーとサイトのニュース欄でよびかけ、集まった回答数はこれまで30数通とそう多くはないのですが、その中からもいろいろなことが見えて来ました。アンケートの結果をめぐって全国の会員間でSkype会議やメーリングリストでの意見交換がさかんに続き、今回のコンテンツの企画につながりました。

近くの山の木と、竹と土。もともと土壁の家は、身近な材料を使ってできるごくあたりまえの家づくりでしたが、それができにくくなった今でも、あえて土壁を実践しているつくり手は、その良さに確信をもってやっています。その確信は、あたりまえに土壁の家づくりが行われていた頃にはあえて意識されなかったことなのかもしれません。なぜ土壁の家づくりなのか、アンケートや意見交換の中で出て来たつくり手の言葉から拾ってみましょう。

土壁のつくり手のみなさんに、アンケートを実施中です。
〆切は2010年7月末日。
これからの土壁のために、どうぞご協力ください。

土壁つけの実際

本題に入る前に、土壁づくりの工程をざっとご紹介しましょう。これまでのアンケート回答の中でも、土壁の工程には細かな地域差、施工方法の違いがあるので、説明文や図はあくまでも「ひとつの事例」ととらえていただければと思います。アンケートから見える細かな違いも少しずつご紹介しながら、流れを追ってみましょう。

土壁の家は、建前から後の工事内容が違う

土壁の構造土壁をつける家とつけない家とでは、建前の後の工程が分かれます。「木の家」の場合は柱と柱の間に下地材や断熱材を入れて板で覆ったり、柱と柱の間に板を落とし込んだりなどと大工さんが「木の壁」をつくりますが、「土壁の家」では左官屋さんが土をつけていきます。

ただの空いているスペースに土はのらないので、柱と柱、貫と貫の間に竹を細かく格子状に編み付け(小舞=コマイ)、そこに土をつけることで壁をつくっていきます。水と藁を含んだドロドロの土を塗り、乾くのを待って次の工程に進んでいくので、左官工事は一般に「湿式工法」とも言われます。

木の家の仕上げには、土壁を使わなくても漆喰を塗ったり、表面に藁がちょっと見えているような土壁風の左官仕上げの内装もありますが、これは石膏ボードなどによる乾式工法で下地を造った表面仕上げのものです。

今回テーマとしている土壁は、壁の厚み全体が「無垢の土」そのものでできています。しっかりした厚みをもった土壁(小舞粗壁)は、表面の仕上げ材であるだけでなく、防火要素でもあり、耐震要素ともなる構造体です。また、最近では温熱環境などへの有効な素材としての評価などもなされ始め、多機能な性質を持ったオールマイティーな素材、工法として注目されてもいます。

それではいよいよ「土壁」の工程を見てみましょう。


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荒壁仕上げ。藁の見える土のざっくりした感じと素朴な木の表情とがマッチしている。 写真提供=日高保(きらくなたてものや)