大津磨きの黒壁。熟練の左官屋さん達が、ぴかぴかになるまで磨く。仕上げにはビロードの絹布を使うそうだ。詳しくは松木さんのブログで!
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土壁の魅力


1)水合わせ

土壁にする粘土質の土は、そのままではなく、水と藁とを混ぜ合わせて塗ります。しかも、合わせてからある程度の期間、寝かせ置いてから塗ることが多いようです。

土壁が比較的多く行われている地域には「泥コン屋さん」という専門職もあり、そこからダンプで運んでもらうのですが、中には「土から自家製」にこだわるつくり手もいます。

「ウチでは、大工か施主さんが、基本的に土の管理(しこみ)をしていて、荒壁施工に関しては、左官屋さんには、間に合わない場合のみ常用で応援に来てもらう程度でこなしています。現場に詰めることの多い私や、施主さん、仕事のきりの都合で手の空いた大工などが藁を足したり、水を切らさないよう、面倒を見ます。いままでほとんどの施主さんは、喜んで参加してくれます」

アルチザンプロジェクトでも見学に行った泥コン屋の前田興業さん。壁土の搬入風景。前田興業見学記&土練りワークショップレポートはこちら写真集はこちら

そうした現場では、家の基礎ができないうちから、水合わせがはじまります。30坪ぐらいの土壁の家であれば、現場の片隅に駐車場一台分ぐらいのスペースをとり、枠を立て、ブルーシートを張って、粘土を搬入します。そこに水と切り藁を足し、足でべちゃべちゃと踏んだり小型の耕耘機を使ったりして、混ぜ合わせます。その様子は以前に「アルチザンの家」でもご紹介しました。田植えで裸足で田んぼに入るのとも似た、原初的な感覚を味わえる工程でもあります。水と藁を混ぜ合わせた土を寝かすことで、混ぜ込んだ藁が醗酵し、藁の繊維質が粘土の粒子に絡まって粘りを増すことで割れにくくなり、色も臭いも変わっていきます。タイミングを見て藁を追加したり、攪拌したりということを、さらに繰り返します。

「寝かすのはなぜか? 答は、藁がどんどん入っていくから。腐ってとけるとまた入れて、寝かすの繰り返し、そしてなめらかな塗りやすくて、強い土壁になる」とあるつくり手は書いてくれました。「藁が発酵し、解れて繊維が土に混ざります。これがバインダーとして働くいてくれる為に崩れにくい土壁となり、溶け出たリグニンが接着剤となって土を堅く固まらせる」と説明してくれた左官屋さんもいます。

また一方では「寝かせる期間は土壁の強度にあまり関係ない」という実験結果も出ているようですが、経験的には「土は寝かせた方がいい」ととらえているつくり手が多いようです。水の合わせ具合やどれくらい寝かせるかは仕上げや強度を左右する大事な工程であるはずです。耐雨性や耐久性など、強度だけでは測れないものがいろいろとあるのではないでしょうか。

 

土壁の出来るまで

2)小舞掻き

建前の後、屋根がかかると、土をつける下地となる、竹を編んだ格子をつくりつけます。これを「竹小舞(たけこまい」)」と言い、これを編むことを「小舞を掻(か)く」と言います。専門職の「えつりやさん」が入る場合もあるようですが、最近では分業するだけの土壁仕事がなく、左官屋さんが兼ねることが多いようです。地域によっては、竹でなく「木小舞」「葦小舞」などもあるようです。

土壁の作り方1建前の時にすでに、柱と柱の間には通し貫という横材が入っています。柱と貫でできてる大まかな空間に、土を塗れるように竹で細かいグリッドをつけていくわけです。この竹小舞まで自社で施工する大工さんもいます。

「下地やさんが高齢でいなくなってしまうという心配があり、せめて、自社の弟子には編めるという事を教えたいからやっています」

また、熱心な建て主さんが左官屋さんや大工さんの指導のもとで小舞掻きをしたり、竹を伐ったりするところから関わることもあるようです。

土壁の作り方2縦横に竹を編んでいくのですが、まずは、「間渡し竹」で大きなグリッドをつくります。具体的には、柱、土台、梁などの木の部分に間渡し竹を差し込む穴を開けておいて、少し尖らせておいた竹の両端を、竹全体をしならせるようにして穴にはめこみます。「間渡し竹」を入れる位置も、地域やつくり手によって「貫の上下、少し離れたところに」という場合と、「貫と貫の真ん中あたりに」という場合があるようです。

土壁の作り方3「間渡し竹」がひととおり入ると、あとは、その間に「小舞竹」を藁縄やシュロ縄などで編み付けていくことで、実際に土が引っかかるグリッドをつくります。

青々とした竹と竹の間のすきまに光が射込むと、とてもきれいで、土をつけてしまうのがもったいないほどです。

「工事途中での一工程がこんなに人を喜ばせる力があるものなのかと、声に出したいほど嬉しい経験。以来、建て主の家族には、仕事を休んででも、隠れてしまう竹小舞の状態を体感してもらうことを続けております」

というつくり手もあります。

朝の光が射込んで美しい影を落とす竹小舞 写真提供=高橋昌巳(シティ環境建築設計)

小舞竹に使うのはほとんど割り竹ですが、間渡し竹には丸竹を使う場合もあるようです。割竹の幅寸法は20〜30ミリ程度で、グリッドの空隙は「編みやすさ」「指が2本通るぐらい」など、作業する人の身体的な条件から自ずと決まってきたようです。各地の職人が考える竹小舞のグリッドの間隔と、建築基準法の告示で決まっている間隔とが必ずしも合わないということが問題になっていますが、このことは土壁特集の次回(8月末予定)でまた詳しく掘り下げることとします。

小舞掻き
左/間渡し竹が入った後、竪竹を編つけていく。 右/小舞竹が編上がったところ

3)荒壁つけ

土壁の作り方4いよいよ、土をつけていきます。「鏝板(こていた)」という把手のついた板に土を盛って左手にもち、右手の鏝で竹小舞の片側から土を塗りつけていきます。

土はドロッとしていて、格子状の小舞竹の隙間から反対側にムニュッとあふれ出します。ムニュっと飛び出た部分は突起状の「ヘそ」となり、竹小舞の表裏の土をしっかりとつなげる大事な役割をもつことになります。

土壁の作り方5もう片側から土をつけることを「裏返し」と言います。裏返しをしてはじめて、土が竹小舞をサンドイッチ状にはさむこととなります。裏返しのタイミングについては、「乾いてから」という人と、「すぐに追っかけで」という人とで、意見が分かれました。いずれにせよ、どの職人さんも表と裏の土が分かれることなく一体となることを目指しています。

また、壁の表も裏も、どうしても土が薄くなる貫周辺は、藁やシュロ、麻布などを当てて粘土で伏せ込む「貫伏せ」という作業をします。

左/荒壁つけ 右/裏側にはこのように「ヘソ」が出る。これを塗り込めるようにして裏返し塗りをする

ワークショップ形式や建て主参加型の土壁づくりが可能なのが、この荒壁つけまでの工程です。丁寧な仕事を求めたければ、じっくりと時間を掛け注意深く仕事を続ければ、あるレベルまでは素人でもできます。体力は要りますが、休み休み行えばいつか終わります。忙しい現代ですが、週休二日が一般的であれば、工程の一部に参加することはできるはずです。「土壁塗り」は施主が自分の家づくりに「お金を払う」というだけでなく実際に参加できる、大きな機会でもあるのです。(詳しくは次号で!)

4)大直し

土壁の作り方6土は乾くと収縮するため、その表面には無数のひび割れができます。そのひび割れや柱や梁とのチリ切れに荒壁土に砂を入れた材料を塗り込んで、この後の中塗り、仕上げ塗りの工程に支障が出ないよう、平滑な面をつくります。


5)中塗り

土壁の作り方7荒壁土よりも砂分の多い、目の細かい土と細かい藁を水で合わせた「中塗り土」で、表面を平滑に塗り上げます。

土壁の仕事は、中塗り仕上げでやめることもあります。将来、仕上げ塗りしたりもできますし、中塗りの状態でも十分に、土のもつ素朴な雰囲気を味わうこともできます。

6)仕上げ塗り

中塗りの上に漆喰や色土などを塗って、仕上げます。特に色土は、その産地によって、色合いや仕上がりが個性的なものも多くあります。

仕上げの方法には荒壁仕上げ、中塗り仕上げから手のひらで磨きをかけて光沢を出す磨きまで、さまざまなやり方があります。仕上げのバリエーションが豊富なのも、土壁の魅力です。

仕上げ塗りはプロの左官仕事の世界。平滑さ、表面のタッチの具合など、鏝の選び方や使い方ひとつで変わってくる。 写真提供=大江忍(ナチュラルパートナーズ)

7)外壁

内も外も土壁真壁にするという以外に、外に板を張る、雨がかりが心配な高さにまで腰板を張る、ラスモルタル、漆喰塗り、ガリバリウム鋼板張りなど、土壁でなく仕上げる場合もあります。

土壁のさらに外に壁をつくることで、土壁を保護したり、土壁と外壁との間に断熱材を入れたりするといった工夫もできます。


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以上、クレジットのない現場写真は、岡山県倉敷市玉島の長屋アトリエ改築工事での小舞と荒壁のワークショップより。 
写真提供=和田洋子(バジャン) 詳しくは和田洋子さんのブログで!