世の中の8割の家は「既存不適格」
あなたは、築何年の家に住んでいるだろうか? もし新耐震基準ができる1980年以前に建てられた家に住んでいるとしたら、あなたの家はおそらく「既存不適格」。「既存不適格」とは、その建物が建てられた当時には合法であっても、今の法律に照らしあわせれば基準を満たしていない、という状態をさす。世の中の8割の家は「既存不適格」だといわれる。「既存不適格」は、今ある法律を守らずに建てる「違法建築」ではない。
1945年の制定当時は「早く安く建てるためにバラックのような家が広まっては困るから」という最低基準としてできたのが、建築基準法だった。地震の被害に対応してその基準がより堅牢に、変形しないような建物寄りへとシフトしてきているため、「昔の基準はクリアしているけれど、今の基準だとダメ」という「既存不適格」建物がたくさん生まれる結果となっているのだ。
地震が起きるたびに、その反省から、基準法はさまざまな点において、規制を強めている。たとえば、基礎。基準法制定当時は、底板無し、鉄筋無しのコンクリートでよかった。それが、昭和35年には底板付きにしなければならなくなり、昭和55年には鉄筋入りでなければならなくなった。さらに平成12年には基礎の大きさや鉄筋の太さなど寸法までが法制化されるようになった。
筋交いを入れた耐力壁の必要量も、年々増え、しかも、壁のバランスのよい配置まで考えるように求められるようになる。また、筋交いを止める方法も、基準法制定当時はかすがいで止めるだけでよかったのが、釘打ちの本数や土台に止める場合の金物の用い方なども決められ、筋交いが「よりしっかり、堅固に」入るようにすることが求められる。制定当時の「最低基準」では、地震には耐えられない。より地震に耐えるようになるために、もっとかたく、しっかりとつくるように具体的に規制を強めていく中で「今の基準には及ばない」既存不適格建物がたくさんでてくるのだ。
伝統構法は今の基準法でははかれないから、既存不適格
それとは別のいきさつで「既存不適格」になっている建物もある。それは建築基準法ができる以前から建っている、いわゆる伝統構法の家だ。これも「既存不適格」だが、これは建築基準法のものさしが厳しくなっなったから、というよりは、もともと建築基準法のものさしで「はかれないから」不適格となっている。基準法には制定当初から「基礎の上に土台を載せ、その上に家を建てなさい」「筋交いを入れた耐力壁をつくりなさい」という基準がある。コンクリート基礎がなく、玉石の上に柱を載せただけの「石場立て」の家や、開口部が多くて耐力壁として数えることのできる要素が少ないような古民家は、基準法制定時からすでに「既存不適格」だったわけだ。
世界最古の木造建築である法隆寺も、昔から残っている武家屋敷も、京都の町家も、あなたの町にもきっとある築50年以上を経てなおしっかりと建っている「昔からある家」も、みんな「既存不適格」。『何百年と続いてきた伝統的な木造の技術は、戦後の木造軽視の風潮を乗り越えてかろうじて残ってきた。今まだ知っている人がいるうちに次代に継承しなければ、将来にわたり引き継がれない。国がつくった法律に取り残されてきたために風前の灯となった日本の文化。それが「既存不適格」とはあんまり…』と古民家再生に励むつくり手は嘆く。
しかも、必ずしも伝統構法の家のすべてが危険ということではない。現代の筋交いと合板、コンクリート基礎等の耐力要素の基準に合わないために「既存不適格」と烙印をおされる伝統構法にも、しっかりした家もあれば、なにか補強しなければならないような家もある。「分からないから、ひとからげ」にされているだけだ。その伝統構法の家のメカニズムが、今になってようやく解明されようとしている。「解明中」建物は、即危険というのは性急すぎないだろうか。解明されてみれば、現代のマニュアルにあるような大規模な耐震改修は必要なかったり、改修するとしてもその構造特性に合った別のやり方があるに違いないのだから。
既存不適格だと、増築時に耐震改修をしなければならなくなった
今「既存不適格」な仕様の建築をしたら、違法だ。では、「既存不適格」の建物に住み続けるのは違法なのか?そんなことはない。ただ住んでいる分にはいい。ただし、おととし2006年の7月以降「既存不適格」に増築をしようとすると、次のような制限がかかるようになった。
・既存面積の1/2以上の増築になる場合は、全体を現行基準法に適合するようにやり直すこと。
・なお、既存面積の1/20未満または10平米未満の増築の場合は、既存部分は既存不適格のままでもよい。
※ 2.の方が 1.より要求度が高い。
この制限がかかる前までは、増築部分を現行基準法に合わせなければならないのは当然としても「既存不適格部分」についてまで建物をいじることは要求されなかった。それが、今では、既存部分を含めた全体を耐震改修をする計画書をもっていかないと、増築はできないようになった。