2つの試験体は、どう違うの?
家は間取りが決まっていても、敷地にどれくらい余裕があるのかなどの条件、地域性、棟梁の個性などにより、まったく違う風につくることができます。間取りからだけでは、どのようにその家をつくるのかは、ひとつにはなかなか決まりません。
今回の実験に使う試験体について、まず現代の生活を送るのに必要と思われる条件から間取りを起こし、それを二つの違ったタイプの木組みの家として計画しました。ひとつは部材断面の大きな「地方型」(A棟)、もうひとつはA棟より部材断面がやや小さい「都市近郊型」(B棟)です。部材断面以外にも、さまざまな点で違いがあるので、下記にまとめましたが、まずそれ以前に、2棟の共通点をあげておきます。
共通事項
- 伝統的木造軸組構法住宅で総二階建て
- モデュールと各階床面積、階高は異なるが、両棟ともほぼ同じ間取り(一階:南側に大きな開口部のリビング&ダイニング、北側に台所と和室、西側に洗面・風呂・手洗い、やや西よりに玄関と階段室 二階:和室と将来的に最大3室の個室にできるスペース)
- 主要な耐力要素は土壁と軸組。筋交いはなし
- 仕口・継手は、木組みによる伝統的な納まり
- 建築基準法で必要な一階の耐力壁量は満たしている(土壁の壁倍率=1.5として)
- 壁の配置としては、偏心率0.3以下
- 一階の柱脚については、水平移動は拘束するが、上下方向は拘束しない(すなわち、柱に引き抜き力が加わると浮き上がる納まり)
- 部材の材種は、スギを基本とし、土台はヒノキ、横架材の一部にマツ
- 屋根形状は4寸5分勾配の切り妻屋根、瓦葺き(平瓦を一枚づつ釘で留める工法)
両棟のちがい
A棟(地方型) | B棟(都市近郊型) | |
部材断面 | 部材断面の大きい、地方に多いつくり | 部材断面がやや小さい、都市近郊に多いつくり |
主要な柱 | 外周は15cm角、中央の2本は21cm角の通し柱(四方差し) | 外周は15cm角の通し柱、中央の2本は15cm角の管柱(二方差し) |
特記事項 | 二階に末口38cm長さ12mのマツ丸太の地棟あり | |
差鴨居 | 外周・内部とも主要な開口部すべてにある | 南面と中央桁行方向の開口部にのみある |
柱脚 | 柱に土台が差さる「柱勝ち」 | 土台に柱を長ホゾ差しする「土台勝ち」 |
足固め | なし。ただし開口部の一部に台敷あり | 主要柱間にすべてあり |
柱脚の水平移動拘束方法 | 鋼製のダボ(直径3cm突出長さ15cm)で柱を基礎に拘束 | 土台をアンカーボルトで基礎に固定し、柱を土台に長ホゾ(長さ12cm)差しして拘束 |
柱の接合部 | 柱脚柱頭ともに込み栓打ち | 柱頭のみ込み栓打ち |
土壁の土 | 京都の土(深草土) | 埼玉の土(荒木田土) |
貫の厚み | 15×105mm(やや薄め) | 27×120mm(厚貫) |
貫の段数 | 一階は4段、二階は3段 | 一・二階とも4段 |
※より詳しくは、住木センター発表の両棟の建物仕様表をご覧ください。
2棟の違いがよりよく分かったところで、2棟横並びの公開実験映像をもう一度ご覧になってください!
足元は固定の実験だったけれど、それでよかったの?
伝統木造の中でも、建築基準法の厳格化以来もっとも建てにくくなっているのが、柱や土台を基礎の上に置くだけで、基礎と建物とを固定しない「石場立て」です。今の基準法では、基礎に緊結しない建物はつくれないことになっています。(このあたりのいきさつについては、2008/7/12に行った「このままでは伝統構法の家がつくれなくなる?」シンポジウムの古川さん、綾部さんのスライド発表をご覧ください)
ところが、今回の実験は2棟とも「柱脚は上下方向にはフリー、水平方向には固定」という試験体でした。そのことについては「足元フリーの場合の扱いこそ、どうするか考えてほしいのに!」という声もありました。
なぜ今回「上下方向のみフリー」ということになったのかについては、プレス発表の時に実験の主査である大橋好光先生と朝日新聞の論説委員との間でもやりとりがありました。せまい敷地条件、設備配管の問題などもあり、建物の水平移動はすぐには許容できるとはいいがたいこと、将来的には解析していくつもりであることなど、発言がありました。詳しくはこちらをご覧ください。
土壁の施工がよくなかったのでは?
試験体の土壁の落ち方を見て「なぜあんな落ち方をするのか!?」と疑問に思い、損傷を実際に観察して「これでは土壁本来の粘りが発揮されない」と残念がるつくり手もいました。
これからの展望は?
今回の実験では、土壁の施工のこと以外にも、A棟、B棟それぞれに「ここをもっとこうしたらよかったのでは?」ということがたくさんでてきました。今回の実験を踏まえ、2010年にもう一度、実大実験が行われる予定です。また、それまでの間、2009年には、さまざまな要素実験が行われます。今回の反省点や学んだ点が集約され、要素実験の結果も踏まえた上で、次の実大実験では、今回以上に少ないエネルギーで高い耐震性を発揮できる設計の伝統木造住宅が実験台に載ることに期待しましょう。
細部の検討ももちろん大事ですが、建物の全体計画をどうするのかという大きな視点でのとらえなおしが必要となるでしょう。今回の実験を通して、つくり手ひとりひとりの中でもさまざまな想いがめぐりはじめてます。今後の設計法構築へと向けて、さらに意見交換、情報共有ができたらと思います。