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大工・村上幸成さん(村上建築工房):チームで大きな木の仕事がしたい!


施主さんの幸せ、はたらく人の幸せ
どちらも満たすにはどうしたらよいか

施主さんの予算も限られている。はらたく人の環境もきちんとしたい。ぼくも経営する側ですから、そこでどんな工夫ができるか、常に考えています。どうしたらよいのかというと、あたりまえのようですが、無駄を省くこと、無理をしないことの2点が大事かなと思っています。

省けることを省くために、一棟ごとに自分以外の施工責任者を必ず置くようにしています。その人が施主さんや設計者とも話し合い、現場を取り仕切ってくれているので、現場監督なしでもきちんと現場が進み、随分と無駄を省けています。打ち合せの記録はひとつひとつきちんと一冊のノートにまとめておいてあって、問題が起きた時にそこに立ち返れるようにしています。これは、後からの変更があった時に、それが予算に反映することであれば工事費を健全に調整するためにも、必要なことです。口頭でのやりとりによる勘違いというのは大きな無駄です。一つ一つ記録を取っておく事は、そのいちいちが面倒なようでも、最終的には大事なことです。

それから、無理をしないというのは、いくらでも広がっていく施主さんの希望に対して、こちらが持ち出すような形で応えるといったことをしないことです。質を追求したいのであれば、面積を小さくすればよいのです。工事予算がどんどんふくらんでいくよりは、その方が健全だと思います。お金をかけていいものができるのはあたりまえ。限られた予算の中ではあっても、質のよいものをつくる、というのがめざすべきところではないでしょうか。あるいは、塗るとか板を張るとか、素人でもできるところは施主さんにまかせて、完成させない形で渡すというのもひとつのやり方だと思います。

セルフビルドの要素も入っての現場。お施主さん家族が再生民家の土壁を塗っている。

また、現場ではなく経営側の話になりますが、ものづくりより事務部分が増えているのをどうにかできないかなと思います。瑕疵保証のための事務手続きとか、打合せの回数を無駄に増やさないために、効率をよくできることがあればいいなと思います。今はまだまだうまくいっていない部分もありますが、改善していきたいです。

自分のこだわりや思い入れを
強くもちすぎないこと

独断で突っ走らないように、いつも心がけています。独断というのは、つくり手の思いだけで、一方的に物事を進めることを指しています。たとえば、予算がない現場で、土壁にするわけでもないのに、筋交いでなく構造貫を入れることにこだわったとしましょう。その手間がかかる分、設備のグレードをカットしたりせざるを得ません。けれど、それはお施主さんが望んでいることなのでしょうか? むしろ大工の「筋交いは入れたくない」という思い入れが先行している場合もあるかもしれません。 施主が望んでもいないのに、予算もない中で「貫を入れてあげよう」というのは、やはりよいこととは言えないでしょう。

もちろん、施主の中には、大工が思っているのと同じように、多少手間がかかっても、貫にした方がいいのだなと理解し、そう望む人もいます。大事なのは、大工の思い入れを押し付けるのでなく、施主が納得するようなお金の使い方をすることだと思います。最近は、若い頃よりは、思い入れで突っ走るのではなく、お施主さんの経済も考えることもできるようになったかなと思います。

無垢の木の公共施設を
木を活かせる職人側から提案したい

規模の小さな公共工事は木造でという法律ができたようですね。大歓迎です。今後、保育園と幼稚園を合体させた「子ども園」ができていく流れになりそうですが、地元に木組の子ども園を、ぜひつくりたいですね。

うちに6年いて、今は独立してやっている大工が1人います。これからもうちで育った人や、うちに一時期いた人が外に出て独立していくでしょう。公共工事は個人の住宅よりは規模が大きいので、うちの工房だけで手がけるのは無理があります。うちから独立していった職人たちとの横のつながりで、そのような規模の仕事をもできたらと思っています。

規模だけのことでそう言っているのではないんです。これまでの公共工事って、ゼネコンの現場監督が職人を作業員として使ってきたんだと思うんです。規模が大きくなれば、とりまとめる設計士も、構造計算をする専門家も関わってくるのは当然です。けれど、その中で、職人が設計士や監督の「下にいる」のでなく、どういう風にしたら木を活かせるかを、ともに考えていけるような関係性を築けたら、木に関しては特に、もっといい仕事ができるはずです。

また、これまで木の公共工事といえば、集成材や合板を使う例が多いですよね。けれど、木を触ってきている職人から見れば、それは木ではないんです。木のよさをもっとよく引き出せる、無垢のままで用いる使い方ができます。無垢の木は、手触り、足の裏の感触、見た目、音の響きなど、さまざまな面で子どもたちの五感にはたらきかけたり、癒しをもたらしてくれたりします。無垢の木が情緒や身体の発達を助けてくれるにちがいありません。

まんなかに柱がある、ひとつひとつが木のようになっている小さな教室が、いくつも連なっていて、無垢の床を裸足で渡り歩いていけるような子ども園ができたら、いいですよね。幼い時期に木の空間や肌触り、感触をたくさん体験してもらえるような提案を、職人側からしていく。そして、それを職人ネットワークで実現する。自分たちの職能を通して、世話になってきたこの南房総の地域社会に還元できることができたら、嬉しいです。

素材感にあふれ、会話が広がる村上家の子ども部屋

築65年の家の8畳二間続きだったところの壁を取り壊してひと空間にして、そこを3人兄弟で使う勉強部屋兼寝室として使えるように、木摺りにモルタルを塗った大きなパーティションを置きました。

パーティションにはまるようにして、それぞれの机やベッドが置かれています。これは左官と大工とでつくる、家具と建築が一体になったものとしてとらえています。大きなひとつながりの空間の中に、3人の楽しい居場所ができたらと思ってつくりました。子どもたちも気に入ってくれているようです。

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子どもたちの砦といった趣き。子どものいる間は、家にこういった仮設的な遊びの要素があるのもいい。