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設計士・米谷良章さん(米谷良章設計工房):設計を通して人とつながりたい


広い視点で木の家を考えたい。

僕は伝統構法が大好きですが、もうちょっと引いたところから、一生活者の視点、一材料供給者の視点で物事を見たいと思うのです。生活者としては、心地よく住めればいい。木材産地としては、木がたくさん使われるのがいい。そう視点を移して見ると、伝統構法の一戸建ての家をつくる以外の選択肢も開けてくるんです。いろんな手法をもっていていい。出口は広い方がいい、と思っています。

たとえば、都市型の住宅の内装に、国産材を使うことだって、山を守るためにも住まい手にとってよい室内環境をつくるためにもなるでしょう? 内装を木にすれば、一戸あたり10何立米ものボリュームの木は使いますからね。だから僕は「コーポラティブでも既存のマンションでも『木の住まい』にできますよ」と言いたいですね。

25年ほど前に建ったRC造のタウンハウス(連棟型長屋)のリフォーム例。内装の間仕切りは、殆ど撤去してワンルームにした。床は唐松の無垢板で、天井や壁は漆喰塗りにしている。サッシはペアガラスに入れ替え、障子をつけた。

芦屋浜のマンションリフォームの例をご紹介しましょう。まず、部屋数をかせぐために細かくしきられていた間取りを、すっきりとワンルームに整理しました。その上で、仕切りが必要なところは軽く建具で仕切ります。建具の上部も垂れ壁はつけず、鴨居レールだけしておきます。これだけでまず、せまいマンションでも、開放感が出るし、風が通り抜けるようになるものです。

その上で、カーペットや塩ビシートの床をやめて無垢材に、クロスの壁を漆喰塗りにしました。木を使う順番としては、まず、人間がつねに触れてる床に無垢材をすることからします。壁には防火上、何平米以下までしか使えないという内装制限がありますが、床はその制限がかからないので、助かります。次に、建具の枠まわりをきちんとした木にします。これも大分雰囲気をかえてくれます。家具も内装制限には含まれないので、ベッドを木にしたり、木の家具を置いたりもします。

壁をすべて木にするには、防炎や難燃加工をした不燃材を使わなければならなくなるし、そもそも、壁全面に木を張ると、あまりにも「木だらけ」になってうるさくなってしまうんですね。むしろ、ほとんどの面は白い漆喰で仕上げたところに、ポイントに木が使ってあるぐらいの方が、木がよく引き立って、いい感じになります。

床に張る無垢材には節があってもいいんですが、人によっては節がうるさく思える人もいます。その辺りは、その人の好みを大事にし、無節の木を使うこともあります。木の木目をもうるさく感じる人には、いちど無垢材を白く塗って、拭き取る、という方法もとります。木の分量、木目や節の見せ方は、住む人の感覚に応じたさじ加減を調節することが大事ですね。

全体的には、木をおさえて使うぐらいの方が、エンドユーザーが、特に30代ぐらいの若いお施主さんの層は広がると思います。木以外の自然素材、たとえば、漆喰、和紙など・・木と違うボキャブラリーの中にアクセントで木が入るという方法も効果的です。

木が好きだからこそ、多くの人が使えるように。

木が好きです。集成材ではなく、本物の木、無垢の製材を使いたいと願っています。けれど、伝統構法の家づくりにこだわりすぎてしまうと、かえって、本物の木の出番が少なくなってしまうと思うのです。

木だらけなのが好き、というのは一部の人でしょう。木がポイントで使ってある、という軽やかさまでもっていければ、もっと万人向けになります。木が好きだから、かえって、使い方や配分を意識して。こうあるべき、と決めつけず、もっと柔軟に、可能性を広げて。こだわりすぎて狭いところで自分を窮屈にするよりは、(地震後に構法の選択についても同じことを言いましたが)ここでも「こだわって、拘らず」と思っています。

開放的な間取りで風通しよく。建具は開口部いっぱい開け放てるのがいいと言う方がいます。でも、間口が全部開放されていないと、本当に風通しは悪いでしょうか? たとえば、間口の1/3は壁として残し、その分、建具を引き込みにして収納できるようにしてしまえば、引違いの建具で半分ずつしか開け放てないより、住んでいる人の実感としてはよっぽど開放的なのではないでしょうか。家の中が暗くなるのが気になるようだったら、天窓をとったっていいんです。

工夫次第で、不都合と思っていたことは克服できます。だから、壁のバランス、開口部の大きさ・・人の安全性に関わる部分については、思い込みにとらわれない方がいいと思うんです。これは危ない、っていう「感覚」って、あるでしょう?それを大事にしたいです。計算方法やテクニックのことをあれこれ言うより、構造計画的なバランスのある間取りに持っていくようにしたいと思います。それに、開口部が大きいというのは熱効率が悪いので、冬の放熱の原因ともなり、暖房費アップにつながります。地球温暖化の観点からいっても、昔の家と同じように開放的な間取りが必ずしもいいとは言えないのです。ひとつひとつを「本当にそうでなくてはいけないのか」「総合的に考えて、何がよりよい解決策なのか」と丁寧に考える姿勢はもち続けたいと思います。

原点は「人が好き」ということ

木や伝統構法も好き。でも、僕の興味の中心はあくまでも「人」、そして「そこで営まれる暮し」なんだと思います。学生時代に当時の流行の建築家の「作品」になぜか魅力を感じられなかったのも、まちづくりや山と都市をつなぐシステムづくりをしていた藤本さんに惹かれて現代計画に就職したのも、それゆえなのでしょう。団地の再生計画やコーポラティブにぐーっとのめり込んで来たのも。震災の体験を忘れられないのも。

家づくりには、住まい手、施工をしてくれるさまざまな職種の人たち、材料を供給してくれる人と、多くの立場の人が関わります。「人が好き」な僕としては、家づくりに関わるすべての人が幸せであるような家づくりをめざしたいのですね。そんな中で、設計屋というのは、構造方法や材料など、住まいを造る特定の手法に縛られることがあまりないので、住まい手、施工をしてくれる人、材料を供給してくれる人、それぞれの事情や言い分を平均的に聞くことが出来るいいポジションにいるな、と思っています。もっとも、建て主である住まい手に依頼されているわけですから、住まい手の立場に立った上でほかの人たちとの間の技術的な調整をすることが優先となるのですが、それぞれに関わる人の事情を住まい手に理解してもらった上で、住まい手だけでなく、その家づくりに関わる人全員にとって最良の方法にまとめていくよう、心がけています。

様々な文脈にバランスよく耳を傾けながら、関わるすべての人にとって良かったといえるようなものにまとめていくのですが、最終的には建物という形として表現していくのですから、「バランスよく調整ができた」という以上に、「ただそこに、あってよい」「何十年後かにこの風土、このまちなみの中にあり続けていい」と言えるだけ‘凛’とした空気のある建築としてつくりたいですね。

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米谷さんの自宅玄関横にある仕事部屋。人なつっこいワイヤー犬もいます。