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林業・和田善行さん(TSウッド協同組合):山側から提案する家づくり


民家型構法との出会い

さて、家づくりの話に戻ると・・県の木材組合連合会のモデルハウスにいい梁材を納入したものの、オモテからはなにも見えなくなってしまうのにがっかりしたのが1982年。その後、民家調査のグループで知り合った徳島の設計士さんとご縁ができて、和風の住宅に材を使ってもらったりしたんです。当時、和風といえば、数寄屋風で、木の節なんてゼッタイあっちゃいけないんです。そして杉の赤身を珍重する。だから、よく目につく鴨居なんかだと、その一丁のために何本でも丸太をつぶす、白無地の部分をほうる・・ものすごくぜいたくで、無駄なことをするんです。製材業界では、節の数の少なさで等級が決まる。それは、こういう和室建築の美のあらわれだし、よい等級のための木をつくるために、山も力を注いできたんです。でも、実際に、使われなかった多くの製材品を目の当たりにしてみると、これは、林業が救われる使われ方じゃないな、と実感しました。

じゃあ、どんな家づくりに使われるのがいいんだろうか、と悶々としている頃、雑誌で現代計画の藤本さんと真木建設の田中文男棟梁とが取りむ民家型構法というのを知ったんです。さっそく、木の家ネットの会員でもある増山さんの自邸を見に行きました。梁も柱もぜんぶ見えて、木の良さがおもてにあらわれている真壁の軸組構造でした。なんてことはない、昔っからあるの民家と同じことなんです。しかも、それまでの住宅の常識では考えられないことに、柱や梁の全部に節がある! これにはびっくりしました。

TSウッドハウス協同組合とモデルハウスの誕生

モデルハウス「ゆたか野の家」

そうか、こういう真壁の軸組造りの家ならば山の木の仕事が見える。木にとっても呼吸作用を活かすことになるし、高温多湿の日本の気候風土の中でも長持ちすることにもつながる。節が見えることは今までの常識をくつがえすことではあるけれど、山で育った杉材を十分に活かすことにちゃんとつながっている。これなら、木が育った以上の年月もってくれるにちがいない。こんな家を建ててもらえばいいんだ! 70年前に植えた木が、そのような家の材として使ってもらうことで、木自体も浮かばれるし、ぞの材木費が山で伐採した分の苗木を植えたり山の手入れをしたりする費用をまかなえれば、山は健全に持続するはずだ。・・ようやく解決の糸口が見えてきました。

じゃあ、まずは、自分の家をそれで建てよう、と1985年、民家型構法を徳島の風土に合うようにアレンジした真壁軸組構法、土壁、外は焼杉板張りの家を自宅として建てました。今にして思えば、木の表面のいいところを見せようという意識がはたらいてしまって構造的に無理した木取りをしていたな、と反省点もあるけれど、とにかくこの家がそれまでのもやもやの突破口となりました。

そして、1995年、山側から家づくりを提案するTSウッドハウス協同組合ができ、1997年には私たちが考える杉の家を形にしたモデルハウス「ゆたか野の家」が誕生したのです。

こういう木をこういう家に使って欲しい

真壁で梁や柱を見せる家、杉のよさを肌で実感してもらえる家をつくってもらおう。そのために使ってもらう材をつくるんだ。そう方針が決まり、葉枯らし乾燥や杉の強度、杉をどう活かしていったらいいかなどについて模索してきた仲間がいる。共に自分たちのものとして獲得してきた確実な技術と、父祖達から受け継いだ長伐期の杉山がある。このように大事な要素に照準が合ってきた。そして、原木市場や製材所といういくつもの段階がある既存の木材流通のルートにではなく、木の家に住みたい、木の家をつくりたいと望む住まい手や設計士に、自分たちの木材を出していこうという相手が見えてきた。こうした中から必然的に生まれてきたのがTSウッドハウス協同組合なんです。

TSウッドハウス協同組合のメンバー

理事長
(有)三浦林業代表取締役 三浦茂則
理事
(有)三枝林業代表取締役 三枝直芳
理事
親和木材(株)代表取締役 和田善行
理事
亀井林業(株)代表取締役 亀井廣吉
理事
(株)佐々木材木店代表取締役 佐々木隆雄

そのために、あらわしで使ってもらうのに最高の材をつくりました。原木での葉枯らし乾燥と製材しての桟積みの天然乾燥により、大壁で覆ってしまうなんてとてもできないような、輝く風合と深みのある色合いの材です。床材や壁材、天井材としても使いやすく本実加工をし、表面に熱圧処理をした板材「こもれび」も開発しました。

木頭産杉を、熱圧処理することで組織を破壊することなく表面処理した板材です。熱圧ローラをかけると、表面層の密度が高くなり、耐久性・耐磨耗性・光沢が向上、米糠で拭き上げた状態が実現われます。また、早材部と晩材部の凹凸のできるうずくり状仕上げにより滑りにくく磨耗も少なくなります。現場報告でもご紹介した「あい愛診療所」の床にも使われています

TSの材は、普通に流通している材よりは高めですが、通常のルートのような流通経費(通常3割はかかっています)がかかりませんから、お施主さんの手元に届く時の値段は、1.2倍までにはなりません。さらに建築工事費の中で木材の占める割合(木構造重視の場合でも工事費の20%ぐらい)を考えれば、びっくりするほどの値段にはなりませんし、木を見せることが家のポイントになるので、それだけの価値はあると思います。また、伐り旬を守りながらきちんと時間をかけて良質の材をストックしておくことに経営の力点をおくために、あえて材の寸法は単純な規格に整理し、なるべく特注は受けず、規格寸法の中に設計を整理してもらうように設計する人にお願いするようにしています。

TSウッドハウス協同組合では、木の性質を活かした日本の民家のねばり強さを実証するために、2004年に実大民家倒壊実験をし、家が引っ張られてかなり傾いても、柱や梁などの構造には損傷がないことを確認できました。実験の様子を詳しく解説したCD-ROMと参考図書「杉の復権をめざして〜長伐期林業と長寿命化住宅への取り組み」を1セット2,625円(消費税込み)+送料でお分けしています。お申し込みは、セット数、送付先を明記の上こちらまで。

実験の一部をこちらからご覧ください。

こんな風に、木はこう使ってもらいたいんだという山側からの提案と、そのためにこんな木を山側では用意するよ、という品質を裏付ける技術とがセットになっているのがTSウッドハウス協同組合なんです。父祖の代から続いてきた山をどうやってこれからも持続していけるのかということを林業家の仲間たちといっしょに考え抜き、実証できるものは自分たちで確かめ、未来に向けてこうしよう、と見据えてきた結果としてです。山から提案する、山の見える家を実際に一般の住まい手や設計士、大工たちに体験してもらえるようにTSウッドハウス協同組合としてのモデルハウス「ゆたか野の家」も建てました。伝統技術で創られた杉の空間力強さや大らかさ、葉枯らし材独特の木肌の美しさ、素足で触れる杉の床板の気持ちよさ。言葉を尽くして語るよりも実際にそこに来てもらうのがなによりなんです。毎週日曜には案内人がいるようにして、見に来られる方の対応ができるようにしています。

TSウッドハウス協同組合の環境意識

●蓄積量の多い杉をいかにうまく使っていくことが大きなテーマ ●「葉枯らし乾燥」で太陽エネルギーを利用、環境負荷を少なくする ●自然乾燥をすることで、耐久性に優れた木材の性質を損なわず、長もちする家づくりをする ●木をムダにしないようにすべきである ●伐採跡地を再造林・育林させるサイクルを持続させることで、森林を残していく ●杉のよさを実感できる柱や梁などの構造材を見せる家づくりを ●日本のすぐれた大工技術を次世代につないでいく

TSウッドハウスの家づくりは、TSのメンバー同士の協力はもちろんですが、山側、施主、設計士、大工それぞれの立場でのお互いの理解、リスク分担などがあってはじめてうまく成り立ちます。最後に、今までの経験から、あらかじめみなさんにお伝えしておいたことをまとめてみました、

【お施主さんへ】

伐り旬を守った葉枯らし乾燥の材ができるまでに時間がかかることがお分かりいただけたと思います。なにかと先を急ぎがちなのが現代の世の中ですが、十分に時間をかけて待ってください。こんな家を建てたいんだ、ということが決まったら、一度山にまであなたの家となる木が立っている様子を見にきてください。こちらで責任をもって選木し、どうしてそう選んだのかをご説明します。それから、家が建った後、構造材の表面に割れが出ることもありますが、強度的には心配はありません。そうした無垢の木の性質などを勉強して理解してください。家が建ったら、山に苗木を植えに来て下さるお施主さんもいらっしゃいます。おいでをお待ちしています。

【設計士さんへ】

材の寸法は、こちらで用意している規格がありますので、なるべくその規格材を使った設計でお願いいたします。特別寸法・長さが必要な場合は、木が必要となる6ヶ月前までには基本設計を上げて下さい。最適な構造材を、相談していっしょに決めましょう。葉枯らし・自然乾燥の良さ、色つや、香り、強度など、本物の杉の良さや、表面割れや経年変化などの性質を十分にお施主さんに説明してあげてください。

【大工さんへ】

「杉は・・」と食わず嫌いをせず、杉のもつ短所を理解した上で、長所を十分に活かした刻みや組み方をしてください。可能であれば、材を発送する前にこちらに来て、番付をしてもらえるとよいと思います。作業場がせまい環境もあるかと思いますので、そちらではすぐにさしがねをあててもらえるよう、かんな削り分だけを残して直角を2面に出したプレーナー仕上げをした状態でおさめることもしています。


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