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アルチザン・プロジェクトat名古屋、始動!


ここは (有)工作舎 中村建築の作業場です。2008年末の実大実験の後、瓦をおろし、土壁を落とした軸組の状態に戻った実験住宅は、2009年1月、損傷観察をしながら人の手でほどかれ、兵庫県の(有)播磨社寺工務店さんに保管されました。その解体材を住宅として再生するために、7月18日、アルチザン・プロジェクト代表の中村さんが取りに行きました。工場に搬入された大型トラックいっぱいの材を前に、中村さんに話を聞きました。

よは

二日間アルチザン・プロジェクトのイベントに参加させていただき、とっても楽しかったです。建築の知識を得たというよりは、匂い、手触り、足の裏の感覚などを総動員して、生きた自然素材を体験したという感じでしたね。

赤身だけの柱は使わない?材料を選ぶことの大切さ

中村

スギの柱の、一部が、折れています。折れているといってもポキッと折れたということではなく、木の繊維が押されたり引っ張られたりを繰り返されて破壊された状態です。ほとんどの柱は粘り強くがんばったようですが、差鴨居があたるところだけは、太い差鴨居に押されきって壊れてしまっています。

よは

柱が差鴨居に負けてるんですね。

中村

曲げ強度の強い白太部分が柱の外周に来るような材の用い方をしていたら、ここまでではなかったのではないかなと、残念ですね。

よは

5寸角の柱材で全部が赤身ということは、芯材ということですね。

中村

木の芯にあたる赤身は油分が多く腐りにくく艶もあってよいのですが、構造材としてみると周りにしなやかな白太の部分が必要なんです。しかも、年輪を見ると、5寸角でありながら、10数年生でしかない、目粗材(めあらざい)ですね。これは九州材でしたが、あたたかい地方で育つとどうしても目粗になりがちです。それを白太部分を使わずに芯持ちで用いると、やっぱり弱くなりますね。自分で材料を選んで建てる場合には、柱材にはこのような選択はしないです。もっと白太部分を有効に使うことを考えるようにしています。

よは

なぜ目粗材を使うことになってしまったんでしょうね。

中村

大工が材料選びに関わらなかったからではないでしょうか。とはいえ、これからの木の家づくりを考えると、目粗材は使わない、とばかりも言っていられません。全国各地の産地からは昭和40年代以降に植林された若齢木のスギ材がどんどん出てきますからね。そういった材料をこれからは使ってやらないと山は荒廃していく一方です。ただし、用い方には注意したいところです。大工なら、目粗材を赤身だけで柱や梁に用いるという「木使い」はしません。

よは

大工の目から見ると、適材適所な選択でなかったということですね。

中村

材料の研究でも、目粗材と目の詰まった材とでどのような違いがあるかということまでは、まだきちんとした比較がなされていないようです。本当は、単純に「太さと強度」というだけでは測れないものがあるんですけれどね。日々木を触っている大工としては気になるところです。そのほかにも「乾燥とヤング率」「節ありと節なし」「硬さと強さ」・・・と簡単に数値だけで良し悪しを決められない要素って木材には本当に多いんですよ。

よは

で、この材は使えない、使わないということでしょうか。

中村

繊維が破断された柱は差し替えようと思ってます。柱を面材で覆ってしまうつくりならまだしも、土壁をつけて柱・梁を見せる真壁構造なのでね。梁など横ものは構造的な壊れ方をしていないので、そのまま使えると思います。貫も9分(27㎜)の厚貫を使っていたことで、全体が鳥かご状の構造になり、かなりの粘りや復元力を発揮したと思います。

よは

では、何本かの柱を新材に取り替えれば、問題はない、と。

中村

そうですね。ぼくとしては、今回は桧に替えて再生するつもりでいます。

よは

軸組そのものの曲げ強度やめりこみ抵抗で勝負する木組みの世界では、材料の選定って大事なことなんですね。

中村

伝統構法の性能検証事業にもいろいろな委員会がありますが、材料問題を扱うタスクチームがあります。「材料の話だったら、意見はいくらでもある」という大工は、多いですよ。

よは

泥コン屋さんの話を聞いたり、実際に土練りを体験したりすると、私のような素人にでさえ、材料そのものを五感を使って感じるという意識が芽生えます。もの=材料とつきあって、ものづくりするのが職人。ものの性質を最大限に引き出すには、まず、ものの選び方や、ものをベストな状態で用いる使い方に気を使うことが大事なんですね。

中村

そうですね。木材でいえば、JAS認定のシールが貼られているから大丈夫というような単純なものではなく、もっといろいろな要素が複合していますし、場合によってはJAS認定の材の方が使えない材料であることすらあります。材料研究の分野でも、大工にそのあたりの事情をヒアリング調査するなどして、伝統木造における「木使い」の研究がなされるべきだと思います。

木組みの伝統木造の「再生可能性」を知ってもらえるチャンス

よは

材料の一部だとはいえ、そのままでは使えないような部分もあるものを再生することに、困難を感じますか?

中村

地震に遭って損傷部分のある建物だからまるごとダメ、といういう風には思わないです。木組みの家はフレームで成り立つものなので、地震で傾いたとしても、土をとってフレームに戻せば歪みを直せます。フレームに傷んだ部分があれば、そのラインだけ取り替えれば大丈夫です。たとえそれが角にある大事な柱であったとしてもそれは可能ですね。

よは

それは伝統木造の特徴といっていいことなのでしょうか?

中村

同じ木造でも、面でもたせるつくり方だとしたら、角柱を取ってしまったら成立しないですよね。同じ木造軸組であったとしても、金物接合であれば、地震力を受けた時に、金物が木材を傷めてしまうこともあるでしょう。

それと比べると、木組み土壁の伝統木造は、まずは土壁の強さでもちこたえながらも、想定外の地震に遭った時には土壁が地震エネルギーを吸収しながら塑性変形して崩れ落ちてくれることで耐えて、次に貫も含めた木組み自体のめりこみ抵抗に期待できるという段階的に対応できるシステムをもっています。貫構造で木と木が鳥かご状に編まれ、接点が多いことも、力をうまく分散させます。伝統木造は、木がもっている本来の性質を十分に発揮する、すぐれたシステムだと思いますよ。

よは

なるほど。ということは、今回のプロジェクトはそのシステムとしてあたりまえなことを実行するのだと。「あの、阪神大震災と同じ地震波で2度も揺らされた建物がよみがえる!」というほど気負った話でもないんですね。

中村

そうですね。この実験棟再生プロジェクトを通して、木組み土壁の伝統木造が、再生可能性をもったシステムであることを多くの人に知ってもらえたら、と期待しています。建物は古くはないけれど、やる側の意識としては「民家再生」の感覚に近いかな。

よは

なるほどね。民家再生でも、フレームにまでほぐして、構造的にもたないような部材は新材に置き換えてから再生しますものね。もともとのつくり手とは違う人が再生に腕をふるうという点も似ています。

中村

来月と再来月には、昨年の実大実験で使ったのと同じ軸組の静的加力実験が行われます。その実験体のゆくえも気になります。刻み加工は、1棟分で2ヶ月以上もかかる作業です。それを一度の実験でゴミにしてしまうなんて、あまりにもったいない!今回と同じように活用できるといいんだけどな。

よは

それを利用して福祉施設とか幼児教育施設なんかつくっちゃうとかね。「民家再生」の精神で、山の木がせっかく材になり、手間をかけられて刻まれた、そのいのちを活かすことを考えてほしいですね。

ものづくりするよろこびを取り戻そう

よは

材の搬入、泥コン屋さん見学、土練り体験と、二日間アルチザン・プロジェクトのイベントに参加させていただき、とっても楽しかったです。建築の知識を得たというよりは、匂い、手触り、足の裏の感覚などを総動員して、生きた自然素材を体験したという感じでしたね。

中村

少し前の暮らしでは、人は職人でなくても、身近な自然素材をつかった「ものづくり」を絶えずしていたんだと思うんです。米づくり、味噌や梅干しといった加工食品づくり、縄綯い(なわない)、茅葺きや土壁塗り、家の補修など、生活の中でものづくりの占める割合がたくさんあった。

よは

ものをつくること、繕うことが「生きること」であったといってもいいんでしょうね。手間や時間はかかったでしょうが、その中に充実感もあったと思います。

中村

そういったものづくりのひとつひとつを「お金で買えばいい」と置き換えてきたのが、現代社会です。便利になったかもしれないけれど、それと並行して、生きる実感が稀薄になってきているんです。人は本来、職人や大工でなくても、自分でものをつくる力、直す力をもっているはずなんです。アルチザン・プロジェクトが、そういった力やよろこびを取り戻す場になれば、というのが、ぼくの本当の願いです。

よは

家づくりは、家族にとっては大きな事業です。それを単に「高い買物」に終わらせるのか、「生きる力を取り戻すためのきっかけ」にしていくのか。大きな分かれ道ですね。

中村

これから家を建てる人には、それをこれから選ぶ、大きなチャンスがあるわけです。そのチャンスをみすみす逃しては、もったいない。そのためには、限られた時間をどこに使うのかというあたりから変えていくのがポイントになるかなと思います。

よは

そのきっかけとして、アルチザン・プロジェクトに参加してみてはいかがでしょうか!

アルチザン・プロジェクトでは日々が「オープンゲンバ」。9月の建前までは日進市の加工場で刻み作業を上棟後は東郷町の現場で作業しています。上にあげたのが、再生後の図面です。元の実験住宅とを、南面に下屋を出していたり、東面にバルコニーをつけているなど、多少アレンジしています。(実験時の建物の仕様はこちらで見ることができます)今している仕事に疑問を感じている大工さん、家族が生き生きと関われる家づくりをしてみたい方、これから建築をめざす学生さんなど、是非、オープンゲンバにでかけてみてください。来られる方は事前に(有)工作舎 中村建築までご連絡ください。

ほか、木の家づくりに関わる公開ワークショップは今後も月イチぐらいのペースで開催予定。お友達やご家族を誘って来てください! 今後は、柿渋づくり、瓦屋さんの見学、建前、土壁塗りなどを企画しています。スケジュールを随時有智山アルチザンブログで公開していきます。

これまでのイベント 6/17 キックオフ・セミナー
6/19 名古屋工業大学への壁塗り土の搬入
土づくりワークショップ(前編)
7/19 前田興業さん(泥コン屋さん)見学
7/20 実大実験の映像を見る勉強会
スーパー土練りワークショップ
今後の予定 8/23 愛知産業大学での講演会 「大工が語るサツキとメイの家のつくり方」
8/29-30 瓦屋さん見学(愛知県高浜市)
柿渋造り(岐阜県八百津の山中)
9/19?の大型連休 建前
10月 壁塗り1
竹小舞編みと荒壁付け
11月 壁塗り2
中塗り
※スケジュールの詳細については、随時、「木の家・有智山アルチザン」ブログで公開していきますので、
 チェックしてみてください。
中村

オープンゲンバやワークショップを繰り返す中で自然とコミュニティーができてくると思ってます。職種を超えた職人たちのネットワーク、実際の材料に触り、体感することからはじまるものづくりネットワークが形成されていくことでしょう。家づくりがまだ産業でなかった頃の、信頼関係で成り立っていた状況を再構築していけたら最高です!

かつてあった地縁、血縁での相互扶助的なものづくりは、もうほぼ失われています。しかし、これからは、口コミや顔の見える関係で、こう生きたいという共感の上に新たな信頼関係、今の時代の「結い(ゆい)」が育っていくことに期待しています。


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