代表的な森林認証システム「FSC」が付されたカラマツ製パレット
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国産材時代到来か? 最新動向を検証


違法な木材と合法な木材

楠 親方は違法伐採って言葉を聞いたことあるかい?

よ なんだか知らねえが、言葉からすると法律違反して木を伐るってことだな。

楠 そういうこと。ただ、ちょっと話を大きくするけど、いま世界的に森林を守るために違法伐採をなくそうという取り組みが進められてるんだよね。

よ そりゃあ大切なことだろうな。森がなくちゃ人間は生きていけないんだから。

楠 うん。特に東南アジアとかロシアのシベリアとかでね、法律を無視した伐採が問題になっていて、それを何とかやめさせようということで、違法に伐採された木材は使わないようにしようと、いろいろやってるんだよね。

よ だが、その木が違法なのかどうなのかはどう見分けるんだよ。

楠 一般的なのは、違法じゃない、合法的に生産されましたよっていう木に識別マークを付けるっていうやり方だね。

よ そりゃあそうだろう、わざわざ違法ですってマークを付けるわきゃないんだし。で、具体的にはどうやるんだい。

楠 まずは法的に問題のない、ちゃんとした経営がされてる森林を認証するわけ。そこから出てきた木なら大丈夫だということになるからね。

よ だけど木なんてものは、製材したり、いろんな人が扱ったりするうちに、あっちこっちの産地のものがごちゃまぜになっちまうんじゃねえか。

楠 だから、認証森林から出た木だけを区別して扱うシステムを確立している業者を認証してね、マークを付けさせるわけ。

よ そうやってトレーサビリティってやつを確保するわけだな。

楠 おっと、ハイカラな横文字を知ってるじゃない。

よ いやあ売り込みがあったんだよ、そういう木の。どこの山で伐って、誰が製材してっていう履歴が全部わかっているから、安心して使っていただけますってさ。まあ俺も「顔の見える木で」っていうのは良いことだと思うから、ちょいと取引きしてみようかなと。

楠 それはいいことだと思うな。

よ ま、ともかく続けなよ。

楠 うん、そうやって合法的な木だってことを識別できるようにしておいて、それだけを使うようにすれば、違法伐採された木を排除できる理屈になるでしょ。

よ まあな。しかし、そんなマークが付いた木は見たことがねえな。

楠 認証自体がまだ少ないし、マークが付いているからって高く売れるわけじゃないからね。あと、こうした認証システムではなくて、少なくとも法律には違反してませんということを証明できるようにするやり方もあるんだよ。扱い業者が書類を受け渡していくようにして、それをさかのぼれば、伐採届けがちゃんと出された木だったんだということがわかるようにしておこうというわけ。

FSC認証丸太。緑のマーキングが管理された状態であることを示している

よ なんかいろいろ面倒くさそうではあるな。

楠 そこが問題でね。だけど、この違法伐採対策は政府がかなり熱心で、国関係の発注物件では、合法性が確保された木じゃないと使わないって法律で決めてるんだよ。

よ へええ。じゃあいずれは県とかもそうなるのかな。民間も右へならえってなるかもな。

楠 たぶんね。



京都議定書の目標達成は森林整備がカギ?

よ 環境問題ってことになると、やっぱり木のことはいろいろ出てくるな。京都議定書の温暖化防止もそうだろう。

楠 それを言おうと思ってたとこ。よく知ってるね。

よ 知ってるよ、それくらい。俺んところは手刻みだからね、ばんばんエネルギーを使って刻むプレカットみたいのとは違うわけ。しかも使う木は自然任せの天然乾燥材ときてるんだから、温暖化防止を地でいってるわけよ。

楠 じゃあ6%とか、3.8%とかのこともご存知で。

よ 説明してやろうか。京都議定書で日本が約束したのがCO2を1990年に比べて6%減らすっていうこと、だけど減らすだけじゃ大変だから、そのうちの3.8%分は森林が吸収する分でまかないましょうってことだろ。

楠 驚いた。その通りです。

よ 実はこないだそんな研修があったのよ。俺も自分の仕事に関係がありそうだなと思ったから、めずらしく居眠りしないでメモを取ったんだ。だがよ、3.8%をどうやって達成するかみたいな話はあんまりよく覚えてねえんだ。ちょっと説明してくれるかい。

楠 いいですとも。森林がCO2を吸収するといっても、ただ放っておいてそうなるってわけじゃないってことが、この場合のポイントでね。つまり、健全に育っている木なら、その分、CO2をよく吸収するわけだから、森が元気になるように人が手を貸してやらなきゃいけないってこと。もっと言えば、あっちこっちの人工林では林業が不振で間伐してないから、木が混み合って元気をなくしてる、それじゃあダメだから、じゃんじゃん間伐をしなさいと。そのために林野庁では、予算をたくさん付けて各地で間伐をさせてるんだよね。

よ 早い話が間伐できてなきゃ、CO2吸収を認めないってことだな。

楠 そう。この場合の間伐は、さっきの話で出てきた木材生産のための間伐というよりも、残った木を育てるための抜き伐りっていう意味合いが強いと言えるね。それでもこの政策を進めると、間伐で出てくる木が増えるだろうということで、それをきっちり使いましょうということにもなってるんだよね。つまり、間伐するってことと、間伐で出てくる国産材を使いましょうということがセットで、この2つがうまく行って初めてCO2吸収の目標が達成されるという枠組みになってる。

よ 最近よく聞く「木づかい運動」というのがそれだな。

楠 そう。温暖化防止のために木を使いましょうというわけでね。かなり強力にやってるよ。

よ ま、そりゃあいいことだろう。少なくとも石油とかでつくったものを使うより、木を使うほうがよっぽどいいんだから。川なんかで流木があるだろ。あれをゴミだと思うやつはまずいないんじゃねえか。でも、そのそばにプラスチックでできたシャンプーの空き瓶でも落ちててみろよ。10人が10人、ゴミだと思うに違いねえや。

楠 木は最後には土に戻るからね。ゴミにはならないわけだ。それに木はいったん伐っても、植えて育てれば、また使えるからね。

よ 「再生資源」だって言いたいんだろうけど、それなのに植林放棄とかが増えてるってんじゃ話にならねえじゃねえか。ちゃんと植えようっていう人がいなけりゃ「再生」にはならねえぜ。

楠 そこだよね。国産材が売れてるっていっても、その取引きの利益が山にまでちゃんと還元されてるのか、山の作業に従事してる人たちがきちんとした収入を得て仕事をし続けられるようになっているのか、そんな視点を持つことが必要だと思うな。それができてなきゃ結局、木を使い続けることだって難しくなっちゃうんだから。


長持ちする木を選ぶことが大切

よ それにしてもよ、やれ違法伐採対策だ、温暖化対策だってことで、要するに環境問題とのからみで国産材がもてはやされてるってことらしいが、なんか大切なことを忘れてねえか。

楠 え?

よ そりゃあ木は他の材料よりも環境に良いわけだし、国産の木を使えば山も良くなるってことで、それについちゃあ俺だって同じ気持ちさ。何も文句はねえ。だがよ、そもそも家っていう大切なものをつくる場合には、どんな材料を使うべきなのかっていう視点が抜け落ちてやしねえか。

楠 う〜ん、なるほどね。

よ いまはこれまで外材ばっかり使ってた連中も、みんな国産材に向き始めてるだろう?

楠 うん、だから国産材への引き合いが強まってるってことなんだけど。

よ その連中に俺が言いたいのはさ、じゃあなんで最初から国産材を使わなかったのかってことよ。俺に言わせりゃあ、高温多湿のこの国でよ、昔っから家の材料に使われてきて、ちゃあんと長持ちする実績があるのが日本の木よ。そのスギやヒノキをじゃけんにして、安くて儲かるからといってだな、外材を使ってきたってのはどうなんだい?

楠 ホワイトウッドのことだな、言いたいのは。

よ あれだけじゃねえが、あれは絶対にスギやヒノキよりも湿気には弱いぜ。まあ、ずぶ濡れになるような使い方をする馬鹿はいないから、ちゃんと長持ちするように使ってますと言うだろう。別にそれを信用しないわけじゃねえ。でも、特に何かしなくったって持つんだから、スギやヒノキを使えばいいじゃねえか。ホワイトウッドだってさ、木には違いないんだから、俺は悪し様に言おうとは思わねえよ。だが、あれは例えば、どうしてもここは白い木が使いたいから、デザインでそうしたいからっていうときに使うとか、もっと必然性のある使い方をすればいいんだ。それを、安いからとか何とかでってのは、本末転倒だよ。それをやってきた連中が今度は国産材で環境に貢献しますってのは、どうなのかね。風向きが変わって、その方が儲かるからって言うんだろ。どうも気にいらねえ。

楠 う〜ん。

よ 俺もあんまり細けえことは言いたくはないんだよ。国産材が売れるんならそれでいい。でもさ、まずは、ちゃあんと長持ちする家をつくるにはどんな材料がいいのかっていうのが本質論のはずだろ。だから俺らは国産の無垢材、それも太い材にこだわってるんだ。長持ちすりゃあ結局は環境にもいいんだしよ。そこを忘れちゃいけねえと、この際、はっきり言わせてもらうぜ。

楠 いや恐れ入ったよ。まったくその通りだと思う。

よ いや、そう簡単に恐れ入られても照れるけどよ。最近は俺んところも困ってるのよ。あっちこっちで国産材、国産材って、ハウスメーカーまで言い出すもんだから、がんばってきたこっちの立場がねえや。

楠 そりゃそうだね。

よ こないだもよ、若いご夫婦が訪ねてきて、家を建てたいって言うから、いろいろ話してたら、奥さんの方が「大工さん国産材をお使いですか?」なんて言いやがるからさ。「も」とは何でえ、「も」とは、こっちはもともと国産材オンリーよ、にわか仕込みの連中と一緒にするねい! と、こうちょいと強く言ってやったわけ。奥さん、「すみません、すみません」って平謝りだったけど、これがちょいとした美人でさ。気の毒をしたかな。

楠 へええ。美人って、どう美人だったの?

よ そりゃあお前え…って、馬鹿なこと言わせるねい!


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適切に間伐された森林。貴重なCO2吸収源