高性能林業機械「プロセッサ」による玉切り作業
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国産材時代到来か? 最新動向を検証


「間伐=低質」は間違った認識

よ それにしてもよ、自給率が上がったはいいが、外材がこけたなんて他力本願な話ばかりじゃ情けなくねえか。もっとほれ、自助努力ってやつはねえのかよ。

楠 う〜ん、これは努力とは違うかもしれないけど、現実問題として山の木がかなり育ってきて、使えるのが増えてきたっていうのはあるね。

よ ふ〜ん。ひところは間伐材ばっかりなんて話だったが、使えるのがかなりあるのかい?

楠 いやいや、当節はみんな間伐材ばかりだよ。

よ 何でえ、細っこいのばかしじゃ話にならねえぜ。

楠 細いのって、そんなんじゃなくて立派に使えるやつだよ。

よ だって間伐材だろ。

楠 待ってよ。間伐ってのは、作業の仕方を言うんであってさ、細くても太くても抜き伐りして出てくるやつはみんな間伐材なわけ。どうもそのあたり、間伐材のイメージが小径木とか低質材ってことばかりで捉えられてるみたいで困るんだよね。

よ だって林野庁とかのお上も「間伐材を使ってください」なんて言ってるじゃんか。頼み込まなきゃ使ってもらえないなんて、たいした木じゃねえなって思うよ。

楠 確かに以前は山自体が若い木ばかりだったから、そういう言い方でもしなきゃならなかったのかもしれないけど、いまは事情が変わってるからね。PRの仕方も考えな直さなきゃダメなんだよね。

よ 事情が変わったってのは、太い木を間伐してるってことかい?

楠 そういうこと。前は50年くらいになると一度全部伐っちゃって、新しく苗木を植えるっていうサイクルが想定されてたんだけど、今は抜き伐り、つまり間伐をずっと繰り返して80年とか100年とか長い期間をかけて育てようって方式が奨励されてるんだよね。そうなると、50年とか60年とか経った太い木が「間伐材」として出てくるわけだよ。直系が40cmくらいもあるのが「間伐材」となると、だいぶイメージが違うでしょ。

よ まあな。でもまあ吉野とかさ、昔からの林業地はそうやってきたんだろ。真新しいことじゃねえや。

楠 ともあれ、山が育ってきたっていうのは確かなことでさ。間伐材でも使える木がいっぱい出せるようになってきてはいるわけだよ。

よ だがよ、間伐かどうかは置いといて、俺たち木組みをやってる立場から言わせるとな、ただ太けりゃいいってわけでもねえんだぜ。どうも最近は目粗の丸太が増えてるような気がするんだ。特に芯のあたりは年輪の幅が広くってよ。こっちは組んで効かそうとしてるわけだから、ああいうのばかりになるとしたら、いろいろ考えなきゃいけねえな、てなことを思うわけよ。

楠 なるほどね。本筋の人たちは、間伐云々じゃなくて木そのものを見てるわけだ。

道づくりと機械化が進行

よ それにしてもよ、木が大きくなったから間伐材も使えるようになりましたてえのは、言ってみりゃあ、お天道様のおかげだろ。自助努力ってのとは違うんでないの。

楠 まあね。ただ、間伐というのは、いっぺんに全部伐るのと違って手間はかかるから、それだけ効率を上げないと利益が出ないんだよね。だから、産地の方じゃかなり一生懸命やってるっていうのはあるよ。

よ ふ〜ん。

楠 やってるのは道づくりと機械化だね。道について言えば、効率よく抜き伐りしようと思えば、作業がしやすいように道を入れる必要があるってことで、これはかなり力を入れてるな。作業がしやすくて、しかも将来も間伐を続けるわけだから、長持ちする道をつくろうってね。

よ 林道をあんまりつくると、自然保護の人たちから、また突き上げられるんじゃねえの。

楠 いろいろ言われてるのは大規模林道とかスーパー林道ってやつでしょ。きっちり舗装してあって道幅もあるから、あのクラスになると、議論はあると思うよ。でもいま話してんのは、林業の人たちが作業のために使うもっと小さい道のこと。舗装なんかはめったにしないし、道幅も3mとか、せいぜい4mもあればいい方。名前も作業道って言い方になるんだよ。

よ 名前なんかはどうでもいいけどよ。まあそういう道なら、あった方が林業の人にはいいよな。

楠 うん。ただ、これもやりすぎると問題でね。山を削ってつくるんだから、よほど注意してやらないと、崩れたりする危険がある。だから高い技術が必要なんだよ。

よ なるほどね。で、機械化ってのはどうなのよ。いまさらチェーンソーのことじゃねえだろうけどさ。

楠 チェーンソーが機械化と言われたのはもう50年くらいも前のことだよ。そうじゃなくてショベルカーみたいな図体のでかいやつで、作業する人はコックピットみたいなところに座ってさ、手元の操作で木を伐ったり、倒した木を切り分けて丸太にしたりできるようなやつがあるんだよ。林業界じゃ「高性能林業機械」って呼んでる。

よ 知ってるよ。前に写真を見せてくれたじゃねえか。

楠 そうだったね。一番重宝されてるのはプロセッサというやつで、前に見せたのもその写真だったかな。チェーンソーで倒した木を3mとか4mとか決まった長さに切り分ける「玉切り」っていう作業用の機械でね、木をつかんで枝をこそげ落としてから、アームについたチェーンソーが丸太を切り落としていくわけ。あっという間だよ。

プロセッサの写真。丸太の枝落としから玉切りまでの一連の作業を一気に行うことができる。

よ まあ、そういうのがなきゃ山仕事もやってられないんだろうけど、あんまり機械、機械っていうのは俺は好きになれねえな。なんかこう荒っぽい気がしてよ。

楠 確かに今の話は、並クラスの丸太を大量生産する場合のことだとは言えるね。木を大事に扱おうというのとはちょっと違う。例えば吉野スギや木曽ヒノキの良い物を機械で玉切る人はいないだろうし、手塩にかけて木を育ててきた人なら、まあ嫌がるだろうな。

よ それ見ろ。だいたい機械ってえのは…

楠 ただね、並材の生産に限って言えば、こういう機械を使うと安全に作業できるというメリットはあるよ。林業の現場は事故が多いからね。その対策という面での評価はしなくちゃいけないと思うな。

規模拡大で国産材が取り合いに?

よ 山の方はわかったけどよ、俺たちにとっちゃ製材とかの加工のことが気になるんだよな。そっちの方はどうなんだい。

楠 う〜ん、ひとつ挙げると、規模拡大でコストを下げようという話になるんだけど、いいかい?

よ そらきた。どうせハウスメーカーとかに売り込もうって話だろ。俺っちみたいな、一軒一軒手間かけて建ててる大工には係わりのねえことだわな。

楠 そう言わないでよ。やめるよ、だったら。

よ まあ聞いてやるから話してみな。

楠 じゃあ話すけど、一言で言えば大きな製材工場をたくさんつくって、規格化された木材を大量に供給しようという…

よ 待てよ。規格化ってのは何だ? 木ってのは1本1本違うんだぞ。

楠 話の腰を折らないでよ。親方の言いたいことはわかるし、こっちも正しいと思ってるわけじゃないからさ、まずは一般情勢として聞いといてよ。

よ わかったよ。

楠 つまり国産材の製材品を大量に安定供給しようという取り組みが進んでるわけ。林野庁では何カ所かのモデル地域を設定してやってるし、県でも似たようなことをやるところが出てきてる。だいたいの場合、山の方ではさっき話したような作業道づくりや機械化を進めて、丸太を大量に供給できる体制を整えると。そして加工面では大きくて効率化された製材工場で製材品をばんばん生産しようというシナリオなんだよね。

よ そんなことすりゃあ、山から木がなくなっちゃうんじゃねえか?

楠 そこはそら、拡大造林で植えた山がたくさんあって、木も太ってるわけだからっていう理屈なんだけど、確かに一部では伐り過ぎになってるケースがあるみたい。ひどい場合は、ば〜んと伐って丸太をたくさん出したはいいけど、その後の植林は放棄しちゃうなんてことさえあるそうだよ。

よ それみろ。そんなんで山にご恩返しもできねえようなら、国産材利用だなんだと威張っても片手落ちじゃねえか。

楠 ボクもそう思うよ。それにあっちこっちに大型工場ができると、さっき話したように合板業界も国産材をばんばん使おうとしてるわけだから、みんなで取り合いになる可能性があるよね。これは現実問題としてかなり心配されてる。

よ おいおい、そんなことになったら小さな工場はどうすんだよ。あんまり画一化された品物ばかりじゃ本物の家は建たねえぞ。ちょいと気の利いた製品をつくれる小さな工場にも、ちゃんと丸太をまわすようにしといてくれよ。

楠 木の個性を生かすには、念入りに製材しないとダメだしね。規模拡大ばかりが言われる今の方向性は確かにどうかと思うな。それで国産材が量的に増えたとしても、本当に山や業界のためになるのかどうか疑問だよね。

よ 結局はな、家づくりでも製材でも自然の木の個性を生かすってのが本筋よ。俺たち大工やちゃんとした製材工場は、ずっとそうやってきたんだ。それがやりにくくなるとしたら、どっかがおかしいんだよ。


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間伐材生産のための作業道づくり