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つくり手の声:木の家の良さって?


身近な素材、直して住みやすい

古びて味わいを増す木の家でも、長く住み続けるには人の知恵やはたらきが必要です。百年、二百年もってきた家も、改修の繰り返しで生き続けているのです。いったんできた家に住む人の側の生活の変化や不具合に「対応しやすい」という融通性も、木の家の良さの大事なポイントのようです。

築80年、すきま風の多い古民家で工夫しながら住む持留さんはこう書いています。「建具のような常に動く部分では、立て付けが悪くなって開け閉めがしにくくなることもあれば、木や土壁がやせて、すき間ができることもあります。築八十年のわが家では、あちこちに生まれたすき間が冬の間の悩みのたねです。けれどもそれは、自分で手をかければ簡単に改善できることでもあるのです。今回の年末年始は、障子紙を張り替えたり、大工道具と線香を持って家をまわって煙の流れですき間の位置を確かめながら細い角材を打ち付けてすき間を埋めていきました。」ちょっとのことなら、住んでいる人にも直せます。

思いのほかお父様が早く亡くなられ、二世帯住宅として建てた木の家を大きくなったお子さんたちのために改築した丹羽アトリエの丹羽明人さんは、それがたやすくできた理由について、こう書いています。「こうしたことが簡単にできるのは、木造軸組構法の家だからです。構造的にいじれない柱さえ残しておけば、これまで部屋に分かれていたところをつなげたり、間に壁をつくって部屋をつくったりといった「足したり引いたり」がとてもしやすいのです。壁で構造をもたせている2×4のパネル住宅だったら、こう自由はききませんね。しかも、木造軸組構法であれば、すぐ近くの大工さんに頼めば、さほど大げさなことにならず、身近な技術で直せるのです。住宅メーカーの営業を通して・・という面倒もありません。」

家は木が山に立っていた時間よりも長くもたせたいものです。その家がどのくらい在るのか、タイムスケールを長くとらえるのであれば、その長い時間の間に家族構成や社会的な状況、地震などの「変化があって当然」とする必要があります。「人の変化をも包み込む」度量の大きさも、木の家の良さのひとつといえそうです。

つながりの中でつくる

山で育てる人、木を材にする人、家を建てる大工がいて、住む人がいる。その顔の見えるつながりの中から生まれる家は「一品生産」であり、日本全国どこでも同じ顔をしている量産住宅とはちがう、とすまい塾古川設計室の古川保さんは言います。「「いい家が欲しい」という本がベストセラーだ。本の内容によると外断熱にすれば、いい家になるそうだ。一つの要素を良くしたって、いい家になるはずが無い。どうすればいい家になるのだろうか。自分に合った家にする。地域に合った家にする。気候に合った家にする。項目が多ければ多いほど種類が増える。種類が増えて高くなったら困る。一品生産だからといって高くならないものが良い。「職人がつくる木の家」がそうだ。」

量産でない一品生産の家、顔の見える関係の中でできる家づくりには、「これはこの家族が住む家なんだ」と対象がはっきりしていますから、そこに思いがこめられます。木の家の気持ちよさについて、日高さんは幅広く、こうもとらえています。「作る過程、そして木の家づくりの前提となり、作る過程で育まれる、住まい手と作り手の関係も気持ちよいものです」と。

そして、その素材となる木への思いもこめられます。大工の綾部さんは、ひとつひとつの材が木だったことを十分に感じながら、日々、木を触っています。「新建材で造った家はここまでの気持ちを持たなくてもある程度の仕上がりになってしまいますが、木を組んで造る木造住宅は、常に五感を働かせ、持てる技量を全て出し切りつくらないと、なかなか思いどおりにできません。木の存在感はつくり手の意識を高揚させその気にさせる不思議な魅力を持っています。つくる側は短期間しかその木材に触れることはできませんが、短い刻み期間でさえ山積みされた一棟分の木それぞれに思いを馳せてしまうのは、素材の持つ魅力なのでしょうか。」

住む人のために、つながりの中から気持ちよく生まれる家は、住む人だけでなく、関わるすべての人を幸せにします。秋田の並材を都市での「山の見える家づくり」に使ってもらおうという運動を継続して来ているモクネット事業協同組合の加藤さんは、最近になって関わっている人たちがこう言うようになった、ということを書いています。

「この頃「木の家の良いところ」と尋ねたら。林業の人は「建てる人が山さ来てけるしなぁ、こんた木もちゃんと使うし」製材屋さんは「少しうるひぇども、ちゃんと木を見でけるしなぁ」地元の大工さんは「昔はえぐ建でだもんだ。職人の仕事はこえだでぁ」設計士さんは「儲からねぇ。大変だども、おもしれぇ」住んでいる人は「夏冬とも気持ちぇー、掃除も楽だ」

モクネットのはじまりの頃、都市の生活者や設計士たちが「木の家」は「山が見える」こと。と言っていたことを思い出します。都市で「木の家」に様々な立場で関わっている人たちの個性豊かな想いの発信で産地の人たちにも「木の家」と「山」とのつながりが見えはじめて来ました。このことは林業地や木材産地にとって大切な財産、元々つながっていた林業や木材と家づくりの関係を取り戻すことができれば幸いなことです。」

木の家の良さは、山の木でできている、というだけではないのですね。山の木を育て、家にする人がいるというプロセス全体が「木の家の良さ」を生んでいるようです。


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