「池の見える家」2階居間。窓を戸袋に引き込んでしまうと、窓敷居がこどもたちが寝っ転がったり、足を投げ出して座ったりできるスペースになる。夏の特等席だ。
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環境工学者・宇野勇治さん(宇野総合計画事務所):夏涼しく、冬温かい木と土の家をつくる


涼しい住まいづくりのポイント

夏を涼しく暮らすパッシブデザイン

■日射遮蔽高太陽高度→庇・軒
低太陽高度→すだれ・よしず、緑のカーテン、雨戸
西の開口部は少なめに
■通風南北通風(卓越風向を配慮)
上下通風(温度差換気)
夜間通風
■蓄冷土壁、土間等による蓄冷(夜間に冷却)
■湿気調整土壁、木による吸放湿
■断熱・遮熱受熱量の多い屋根で熱をまともに受けないように

(1)日射遮蔽

「木と土の家」で涼しく暮らす何よりのポイントは、日射遮蔽です。暑い日射しを直接室内に入れないのももちろんですが、熱容量の大きい土壁を日射熱にさらさないことも大事です。一度温まった土壁の熱はなかなか逃げないため、夕方から夜にかけてその熱が家にこもってしまうことになりかねません。

我が国で伝統的に行われて来たすぐれた日射コントロール方法として、「適切な庇や軒の出をとる」という手法があります。

日中と朝夕、夏と冬の太陽高度を考え、最適な庇や軒の出を考えます。6尺高の開口部に対して南側に3尺程度の庇をつけると、夏の10時から14時くらいの、高い太陽高度から日射しが入るのを概ねカットすることができます。しかし、朝、夕の低い太陽高度には不十分なので、緑のカーテンや簾、雨戸などで、朝夕の日射もしっかりと遮蔽するべきです。西や東に設けた窓も、日射遮蔽を工夫しましょう。

(左)池の見える家:朝顔でつくる緑のカーテン。毎朝花が開くのも楽しい (右)緯度の高いヨーロッパでは、太陽高度が日本よりも低いため、鎧戸を用いて,日射しを遮る手法などが発達した

(2)通風

夏を涼しく過ごすのに通風を活用しない手はありません。風が体表から熱を奪ってくれるだけでなく、建物各部を冷やしてくれます。通風計画には「水平方向の風の道」「垂直方向の風の道」「夜間通風」と3つを考えます。また、通風可能な窓や室内の建具は開口部が大きいほど効果的ですし、流線がきれいに描けるような経路を考える必要があります。

1)水平方向の風の道

その土地で夏によく吹く風(卓越風)が室内に入り、反対側などに通り抜ける経路をつくります。卓越風には、季節の気圧配置で生じるもののほか「局地風」「海陸風」「山谷風」など、いろいろな種類があり、季節や時間帯によって気流方向が変化するものもあります。土地の人の話やアメダスのデータなどからおおよその傾向を把握するとよいでしょう。

(左)「池の見える家」の開口比(各方位からの壁面長に対する開口部の比) (右)池の見える家:2階平面図 民家にならい、
 地域の風向データも確認して、南北の風が通り抜ける間取りとした
(左)風の抜ける1階の続き間 (右)池の見える家:1階平面図 

伝統的な民家では、地域の風向に応じた開口部の配置が行われていました。たとえば愛知県のこの民家は、夏には南北の風が通り抜け、冬の北西からの風を防ぐような平面となっています。

愛知県の民家平面の例 出典:愛知県教育委員会:愛知の民家, 愛知県教育委員会,1975

2)上下方向の風(温度差換気、重力換気)

暖かい空気が上昇する性質を利用した風です。開口部の面積や、開口部同士の高さの差が大きいほど、換気量は大きくなります。申し訳程度の小さな窓では、涼感が得られるほどの気流はなかなか生じません。なるべく天井に近い高い位置に、それなりの面積が開放できる窓を設置すると効果的です。

池の見える家:風の通り道

「池の見える家」では、展望台にのぼる塔屋が風の塔となっています。3尺角ほどの窓が2つあり、直下にいると体感で気流の流れが感じられます。窓の位置が卓越風の風下側であれば、負圧となって室内空気を引っ張り出してくれる効果も得られます。

(左)風下の屋根が負圧になっている (右)池の見える家:風の塔

3)夜間通風

夜の涼しい通風を確保して、前日の日中にたまった熱を持ち越すことなく、寝苦しくない夜を過ごしましょう。(4)の項目で触れる土壁の蓄冷のためにも、夜間通風は必須です。昔の安心な時代であれば、気軽に開け放って寝られたのでしょうが、現在では通風雨戸や面格子にするなど防犯上の工夫が必要です。

3)屋根はしっかり断熱

夏は太陽高度が高く、屋根面(図では水平面)が受ける熱量は南面の4倍以上です。夏に涼しい住まいをつくるのであれば、屋根からの日射熱の侵入をしっかりと止めることが必須です。

真夏の晴天日における各面の日射受熱量(東京):
西面や東面の受熱量も大きいことがわかる。西日を遮蔽する対策も大事

伝統的な民家の屋根には厚さ60cmにも及ぶ茅がのっており、高い断熱性を有していました。茅葺民家に入ったときの涼感は、スーパー断熱屋根と深い軒による日射遮蔽と、土壁や三和土(たたき)土間の冷放射とによるものです。

蔵に見られる「置き屋根」は屋根を二重にする工夫です。軒まわりの凍害を防ぐ効果もあるようですが、下の屋根が日射を直接受けることがなく、遮熱効果も発揮します。

(左)断熱性の高い茅葺き屋根(手入れの様子) (中)三和土の土間。花崗岩が風化した土に、石灰、苦汁(ニガリ)を混ぜ、叩き上げてつくる。三種類を混ぜて叩くので、「三和土」と書いて「タタキ」と読ませる(右)置屋根

(4)土壁や土間の蓄冷

前々項でも述べましたが、土壁の熱容量の大きさを活用するために、夜間通風で土壁を冷やしておきます(蓄冷)。冷やされた土壁はなかなかあたたまることがないので、気温の高い昼間には気温より温度の低い冷放射面となり、涼しさをつくってくれます。日中のいちばん暑い時の暑熱化が緩和され、冷房に依存する度合いは低くなります。

昔の民家が涼しかった要素のひとつに三和土の土間があります。地温は気温よりも変化が少ない土中の冷温が伝わって蓄冷し、低温の冷放射面となっていました。露点温度に達しても土が吸収するので表面結露が起きないというメリットもありました。夏の冷熱源としては理に適っています。

(5)調湿

気温が高くても、湿度が低ければ汗が蒸発して涼しく感じることができます。「土壁の家は梅雨時でもジメジメしない」という意見がアンケートにみられますが、これは、前ページで述べた木や土の「吸放湿性」が効いているからです。

夏の室内環境についてのアンケート
(愛知県内の土壁住宅13件、新建材住宅12件の計25件を対象)

夏の室内環境についての解析

去年の土壁アンケートでも、土壁の家に住んでいる方へのアンケート調査でも「土壁はひんやりして気持ちいいよ」というコメントが多かったのですが、本当にそうなのか? どうしてそうなのか? 環境工学の研究者としてはもう少し突っ込んで検証したいテーマです。

そこでこれまで、「土壁の住宅」と「プラスターボード、ビニールクロスなど新建材を用いた住宅」の室内温熱環境の比較調査や、断熱効果を検証するための実験、コンピュータシミュレーションなどを行ってきました。ここではシミュレーションの結果を中心に、実測の結果を少し交えて紹介したいと思います。

シミュレーションを行うにあたり、壁の素材と断熱材の有無だけを変えて4種のモデル住宅を想定しました。屋根・天井、床の物性値は共通にして、壁のみの影響の違いを分析しました。(間取り:日本建築学会住宅用標準問題、屋外気候条件:愛知県岡崎市・EA気象データ、使用ソフト:TRNSYS-J)

シミュレーションに用いた4つのモデル

「新建材A:高断熱」は次世代省エネルギー基準(Ⅳ地域)にのっとった断熱性能をもちます。「土壁A:外断熱」には、熱容量の大きい土壁の外側にさらに断熱材を付加して「新建材A:高断熱」と同じだけの断熱性能をもたせています。「新建材B:低断熱」と「土壁B:無断熱」は同じ熱抵抗(断熱性能)とし、土壁の有無による違い(=熱容量の違い)だけを比較できるようにしました。なお、「新建材A:高断熱」と「土壁A:外断熱」は、「新建材B:低断熱」と「土壁B:無断熱」に比べ、6.4倍の熱抵抗(断熱性能)を有します。

(1)夏の気温変動の特徴

緑色のラインであらわされている 土壁A(高断熱) が最高気温が低く、気温の変動も少ないことが分かる

夏季3日間(換気回数0.5回・冷房なし)の室内平均気温の変動を示します。外気温の変動がもっとも大きく、続いて「新建材A:高断熱」「新建材B:低断熱」が「土壁A,B」より大きく変動しています。「土壁A,B」は特に日中では、外気温よりも3〜4℃程度、「新建材A,B」よりも2℃程度低くなっています。土壁の気温変動の小ささや、最も暑くて冷房に依存したくなる日中に気温上昇を抑えてくれ、さらに最高気温となる時間を後ろにずらしてくれていることがわかります。

(2)どれくらい、暑さを緩和できるのか

デグリーアワーというのは、室内気温が基準とする気温を超えた場合に、基準気温と室内気温との気温差(℃)を求め、これを各時間ごとに算出して積算したものです。この指標によって、冷房に依存しがちな時間とエネルギーのボリュームの違いを見ることができます。

「新建材A,B」は「土壁A,B」よりも高く推移しています。「土壁」では31℃以上の出現が少なくなっていますが、現代型ではそれなりのボリュームがありますから、土壁の夏季における過ごしやすさを見てとることができるのではないでしょうか。夏季の自然室温を想定する限りでは、外断熱は特別の効果をもたらしていないことも分かります。

せっかくの土壁の家でも

土壁の住宅でも、夏暑い家もあります。そういった例にはいくつかの共通点があります。まず、庇が小さくて日射がもろに入っていること。夏季において土壁は日射の侵入を十分にカットしないと、オーバーヒートして返って逆効果となり得ます。次に、風の抜けが悪いこと。部屋が細切れで引戸や障子でなくドアで仕切られていたり、2階に風が抜ける窓がない場合、風の道がうまく形成できません。もうひとつは、屋根断熱が甘いこと。「土壁だから大丈夫」という過信は禁物、夏の日射し、風の流れをイメージした計画をしたいものです。

「ああすればよかった」というアンケートより

夏の日射対策と風通しが、住み心地に大きな影響を与えていることがわかります。
  • 天窓をつけたので、真夏はガラス面の裏側に遮光の紙を貼らないと日中の室温が上がってしまう
  • 夜間も風を通せるように、ルーバーの窓を設ければよかった。夜、防犯のため窓を閉めると、やはり暑い

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夏の日射しをカットする庇と、開口部にもうけられた夜間通風可能な雨戸。雨戸は昼間、戸袋に引き込めるので、めいっぱいの開口が得られる