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大工・綾部孝司さん(綾部工務店):原点回帰


2008年7月12日、東京の工学院大学でひらかれた公開フォーラム
「このままでは伝統構法の家がつくれない!」で、
綾部さんが発表したスライドの後半を掲載します。

綾部さんのスライドの一枚目です。キーワードは「土に還る家づくり」です。
綾部さんは、流域の山で育った無垢材を使った伝統構法の家づくりをしています。(施行例は、ギャラリーページをご覧ください)。そういう家しか、つくりません。それは、なぜか。3つ理由があります。
まず大前提として、私たちが、ほかならぬ日本に住んでいるからです。家づくりだって日本の気候風土や文化、暮らしを抜きには、考えられません。
2つめには、伝統構法の家づくりが建て主さんの長く住み継ぎたい、安心して暮らしたいという希望に応える家づくりだからです。
3つめには、環境、まちなみ、技術の継承といった職人に与えられた社会的な使命をまっとうするためです。これは職人としての当然のモラルだと思っています。
今、あたりまえになっている新建材の家づくりと、私たちがしている家づくりの素材を比べてみてください。どちらがゴミになる家づくりでしょうか?
私たちのしている家づくりでは、解体後の材を使い回すことも、使い回せない材を燃料にすることもでき、そのどちらもしない場合でも最終的には土に還ります。土に還らない工業製品を多用する在来新建材工法とは正反対で、環境負荷が少ないのです。
木の家づくりは、山の木を使います。山の木を正当な価格で買うことで、山側で間伐や植林ができるように支える責任が、私たちはあります。安いから、ということ第一で選んでいては、山は守れません。
安全とは何でしょうか? 地震に強いばかりでなく、健康を害する素材を使っていない、木に守られる安心感、家の状態の分かりやすさ、手入れのしやすさなど、さまざまな要素が満たされてはじめて「末永く安全な家」といえます。
家は個人の財産ですが、家の外観は街並みを形作るという公共的な面もあわせもっています。美しい街並みをつくり、風景に融け込む家をつくりたいですね。伝統構法の家は、時を経てより美しくなり、街並みにとってかけがえのない存在となります。
ところが「厳格化」を旨とした2007年6月の建築基準法の改正以降、伝統構法の中でも基礎と建物を緊結しない「石場立て」の家などを建てることが、ほぼ不可能になってしまいました。費用や時間の負担がずっしりと重くなったからです。
法律の「改正」だと言うのですが、現実には建て主にもつくり手にも負担を強いるばかりか、さまざまな矛盾に満ちています。これで本当に「改正」といえるのでしょうか。もっと現場の実態を反映させた「改正」でなければ、法律と現場はどんどん食い違い、結果的に伝統構法の家がつくれなくなっていってしまいます。
現場では確認申請で提出した図面どおりにはいかないこともしばしば起きます。納品された材に応じて、プランを調整するといった臨機応変な対応が「厳格化」で「申請時とちがったこと」は許されなくなっている(変更の場合には申請が受理されるまで工事ストップ)のです。それが「よりよくする」ための工夫であっても。
このおかしな状態を改善するために、国ではここ3年で伝統構法を法律に位置づけるそうですが、それが現場を縛るものであっては困ります。位置づけができるまでの「3年間」をどうしのぐかも対策してもらわないと、私たちつくり手はやっていけません。
伝統的な木の家づくりはさまざまな知恵や技術に裏打ちされ、日本の風土に合った理想的な家づくりです。それをほかならぬ「日本の」建築基準法が排除することは、あってはならないはずです。
伝統構法の家づくりには、時間がかかります。それはデメリットではなく、自然素材である木の性質を活かして使うためにも、つくり手と建て主が共につくるという関係性を育むためにも、必要で大切ななプロセスです。そうした理解を共有しましょう。
大量生産の家づくりとちがって、伝統構法の家づくりはひとつひとつが「違った」家づくりになるので、大量生産で規格化された家づくりと比べると法律に位置づけにくい存在であることは、理解できます。
私たちが未来へ残せるものは街並や文化です。今取り組まれている伝統構法の法律への位置づけ方いかんでは、未来に渡せる街並や文化の内容が左右されるのです。それが決して負の遺産になってしまってはいけません。よりよい未来への礎になるよう、皆で今をつくっていきませんか。
そのためには、未来に残す価値のある伝統構法の家づくりをしている私たちの「現場に合った」法律づくりをしていただく必要があるのです。法律をつくる立場にある方たちに、ぜひ知ってほしいのです。私たちの現場の仕事のやり方や想いを。そのためにぜひ、現場にお出かけください!

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