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大工・綾部孝司さん(綾部工務店):原点回帰


木造をやるのであれば、
木を使うのにふさわしい構法を

「木造をやると決めたのであれば、木を使うのにふさわしい構法でつくらなければいけない」というのが、僕の持論です。全国各地にいろいろなつくり方があるとしても、それが本物の木の家づくりをする大工としての最大の共通項だと思います。

今でこそ、同じ木造といえども、ツーバーフォーがあり、パネル住宅があり、同じ木造軸組工法であってさえも、金物や新建材を使ったりという無数の選択肢があります。材料も、無垢材ではなく、木を素材にして加工した工業製品である合板や集成材もあります。そんな情勢の中、本来の「木にふさわしいやりかた」の方がむしろ少数派になっていますが、もともとは「木にふさわしいやりかた」以外、なかったんです。それが伝統構法といわれるものです。

「木を使うのにふさわしい構法」の原点は、人が、生きものである木を使う、ということにあります。木は一本一本、性質が違います。アオカビが発生したり、乾燥して後からねじれたり、割れたりといったことが起きること含め、木の本来の性質であり、あたりまえの自然現象です。

そうしたことを受け入れ、一本一本の木の声を聴き、性質を見抜きながら、その個性を引き出して適材適所に用いることができるのが、本来の大工の技術です。「生きた木とどうつきあっていけばいいかを知っている」ということです。ところが、家づくりが住宅産業になっていく過程で、それは面倒なこと、扱いにくいことと考えられるようになり、本来の木の性質を否定して木を原料とした工業製品が作られる方向に進んで来てしまいました。それが、集成材であり、合板であり、プレカットです。プレカット工法では、木の一本一本の性質を見抜く力は重要ではありません。

けれど私は、木造の木造たるゆえんは「木は狂う」ということを受け入れ、木を「木のままに(=無垢で)」使うことにあると思っています。木という素材の持ち味を最大限に活かし、クセがあったり、もろかったりする木を最良の形に「組んでいく」ということが大工の力量です。

さて、そうしてつきあっていく木がどんな木なのか。ちゃんとした木であることが必須条件ですから、家づくりに使う材を仕入れる材木屋さん、製材所とのつきあいはとても大事ですね。埼玉県でも荒川の上流は江戸時代から「西川材」と言われる木材産地として知られていますが、最近では西川材供給の中心である飯能の材木屋さんから多くの材を仕入れています。伝統構法の家づくりに使う材を揃えてくださることに深い理解があり、木材を機械乾燥にかけず、時間をかけて天然乾燥させるための場所を整えてまで、対応してくださっています。そうした材の準備があってこそ、伝統構法の建物があるのです。質がいいので、それなりの値段はしますが、それだけの価値のある材を用意していただけています。

墨付け

メンテナンスフリーはつまらない
手を入れながら、美しく古びていく家がいい

木が生きものであるのと同じように、家も生きものです。そして人間も。いずれにも共通しているのは「はかなさ」です。

人が年老いていくように、木の家も変化していきます。木が腐れば、瓦が割れれば、補修することが必要です。移ろいゆく家に手をかけ、直してあげながら、長く住み続ける。それが木の家とのつきあい方だと思います。人間と同じです。

はかない。だからこそ、手間をかけて。メンテナンスフリーではないのです。けれど、面倒がかかるだけではありません。木は、年を重ねるごとに味わいを増して行くのです。そこには「古びていく美しさ」があります。年を重ねた一つ一つの家の味わいが、自然や周囲にとけこんだ風景として調和していく、それが街並ではないでしょうか。

新建材でつくられた家は、できあがった時が頂点で、時間が経つほどに、できた当初の美しさは色あせ、薄汚れていく一方です。「我が社のサイディングは防カビ処理をしてあるからメンテナンスフリーです」とうたっているカタログを見かけますが、それは何十年を想定しているのでしょうか?手入れがいらないものはないし、どんなに手入れをしても時を経た美しさの出ない素材は、手入れのしがいがなく、つまらないのではないでしょうか? メンテナンスフリーをうたっている家の50年後は、いったいどうなっているのでしょうか? 

僕自身も、年をとるごとに深く、豊かな人間になっていきたい。それと同じように、木の家も時を重ねて風格を増していく。そういう、木と家と人との関係がもともと日本にはあり、それが美しい街並となり、風景となって、文化をかたちづくってきたんです。これがもっとも大事にしたいことです。耐震性も大事ですが、はじめに耐震性ありきでなく、残したい、未来につなげていきたいもののその耐震性をどう高めていけばいいか、という方向で考えていきたいです。伝統構法を工学的に分析し、法律に位置づけようという動きが国でも始まっていますが、そういった姿勢で臨んでもらいたいと願っています。

持続可能な社会は、家庭から。
それができる家づくりを。

ドネラという人が書いた「成長の限界からカブ・ヒル村へ」という本では、持続可能のコミュニティーをどうつくっていくかということが、彼女が理想の村をめざしてつくったカブ・ヒル村での実践を通して説かれています。僕も、持続可能なコミュニティーは「自然にそうなっていくもの」ではなく、地球の環境をよくしていかなければ、という意識のもとに「つくっていく」ものだと思います。

コミュニティーとまではいかなくても、ある家族の暮らしの場となる家づくりを考えるということにも、持続可能な世の中をつくっていくことに参画するというベクトルが含まれているし、家づくりというのは、それができるチャンスだと思うんです。

カブヒル村

「家庭」という言葉は、家と庭からできています。庭は花を咲かせるだけでなく、家庭菜園であることもできます。家族が食べる野菜のほんの一部でも自給できる、小さくてもいいから菜園をつくりましょうよ、ということを提案しています。仕事や子育てをしながらできる範囲でいい、パセリやしそといった簡単なものをちょこっとつくるキッチンガーデンでもいいんです。「食べ物は、買ってくればいいや」というのでない世界がそこから広がり、生活が違ってくるはずです。

ほんの小さいことですが、それが持続可能なコミュニティーに向かう意識へと転換していくきっかけとなります。その家庭でこどもが育って行くとなれば、なおさらです。大工の父のもとで、家族で米を7反つくり、自家用の野菜は自給するという環境。それが、今の自分の感覚の素地を築いてくれたと思っています。建て主さんとはいつも、そんな話でもりあがりますね。

建て主さんから教えていただくことも、たくさんあります。以前、バングラデシュで水を浄化する活動をされている方の家をつくりました。そういう意識をもっている方なので、住まい方、暮らし方をよりよく変えていきたい、そのためにはどうしたらいいのか、ということをいっしょにずいぶん考えました。

「家は売るもの/買うもの」とか、「つくって10年は保証しますよ」ということではないんです。その家族がどう生きていきたいのか、そのライフスタイルを実現する場をつくるのです。家づくりに関わるとは、そういうことなんですね。

綾部智実コラム


綾部智実建て主さんとのお打合せは、お子さん連れで週末が多いです。我が家の子供達と一緒に遊んで、建て主さんご夫婦には打合せに集中して納得のゆく家づくりをして頂きたいですね。私たちが生活している家は、打合せの場やショールームにもなっています。たとえば、実際に使っている造りつけのベンチ棚、「こんな感じに使えますよ。」とか床材は「こちらがサワラでこちらが杉、感触が違いますよね。」「暖房でこの位は床に隙間が開くこともありますね。」「ここの梁にロープをつけるとブランコが出来て、お子さんは喜びますよ。」「ここはもともと納屋なので金物も使っています、建てて35年ですがもう金物があんなに錆びています。」建て主さんには偽りのない現実を見て頂きたい。

お茶菓子は可能な限り手作りお菓子などを、お昼になれば家で作ったお米や畑で採れた旬の野菜料理のごはんをお出しする事も多いですね。建て主さんとごはんを頂くのは、腹が減っては戦が出来ぬという事もありますが、信頼関係を築くのに大切な時間「これ美味しいですね。作り方は?」なんて聞かれたり、建て主さんの嗜好も分かり次回お出しするごはんのメニューを考えるのも楽しくなります。正直レパートリーは少ないですけど…(笑)。これからの季節に人気メニューは「香味野菜たっぷりスープ付ジャージャーめん」「青しそごま冷や汁」建て主さんOBもご自宅で作っているとか。

お互い本音で話し合え、心が通じ合った分、建て終わった後もおとなりさん以上親戚未満な関係が生まれている気がします。つい先日も建て主さんOBのお母様より新茶をお送り頂き、お礼のご連絡をすると「新茶は体にいいですからみなさんで飲んで下さい。」など…(。建て主さん皆さんにはいつもお心遣いを頂き、感謝の気持ちで一杯です。

子供家づくりは、家族のことだから、話をしているうちにどうしても暮らし方、生き方の事につながってきます。同じ子育て世代の建て主さんも多いので、いつの間にか子育ての話にもなっていたりします。我が家にいらっしゃる建て主さんは「落ち着きますね。」「木の家ってこんな感じなんですね。」と実感される様です。「ここは納屋をリフォームしてまだ未完成な家なので、もっと心地いい家ができますよ!」なんて話をしています。うれしいのがお子さんがこの家になれてくれて「帰りたくない!」なんて言ってくれたり、やっぱり子供は正直ですよね。

建て主さん訪問コラム


ご主人ご主人:見た目が和風でも、木の家でも、中身が違うことがあるということを、木の家ネットで初めて知りました。知ってしまうと、もう本物しかいらなくなる。自分もクルマの仕事をしてるので、見た目はジャガーでも、エンジン違うっていうのは、ゆるせないですよ。

綾部さんが本物の家づくりをする人だ、ということは、どんなこと考えてるかに触れて、分かりましたよ。「輸入材が安いですよ」と勧める人と、「地域材を使うことが、山を守ることにつながるんです」という人といたら、どちらの人柄を信頼しますか? 環境を壊さないで住める、もう一歩進んで、再生資源である山の木を使うことで環境をよくすることにつながる家づくりができる、ということを知って、うれしかったですね。

奥さん奥さん:綾部さんが建てられた別の家を見て、なんて明るくて開放的で、木肌がきれいなんだろうと、その印象が頭から離れなかったですね。竣工して何年か経った家で、外壁の板張りが新築という感じより落ち着いた感じになっていました。建て売りの家を買った友達の家は、新築した時がいちばんきれいで、時が経つごとにくすんでいくのに、木の家は年月が経つことで美しくなるんですね。それがいいな、と思いました。綾部さんに「30年後を楽しみにしましょうよ」と言われたのが心に残っています。家との長〜いつきあいが、始まったばかりです。




住み心地はどうですか?:

【床】
まず、床の感触が違います。前に住んでいたマンションはフローリングで冷たいので、床暖房を入れていたんですが、この無垢の厚板の床は、冷たくない。そして、ぺたぺたした感じがなくさらっとしていて、足になじみます。素足で歩いて気持ちいいし、ごろんと寝っころがってもいいですね。

【暑さ、寒さは?】
エコ住宅といっても、全館機械空調や床暖房を前提としたものが多いでしょう?ところが、この木の家はそういうのがいらない、ほんとのエコ住宅ですね。梅雨明けからお盆にかけての真夏の盛りにエアコンを使うことがあるかどうか、というぐらいです。寒い時期は、ストーブをつけている時期は、朝はまず部屋を仕切る引込戸は締めておいて部屋をあたためます。日がのぼってくるとあたたかくなるので、引込戸をあけます。「ボタンひとつで」快適というのとは違って、そこには人間の工夫があります。

綾部さんより
この家は、僕が「基本の形」と思っている3間×5間で15坪というシンプルなプランです。このプランだったら木をどう組めばいいか、というパターンは、自分の中ではある程度できています。

自由で、おおらか。木がお化粧してない、ふだんの姿のままであらわれていて、落ち着く家です。なるべく太い材料からとった柱と梁で規則正しい木組みをつくることで、構造的に無理なく可能な範囲内で大きな空間をとるようにします。間取りが定まってしまう壁だらけの家と違って、用途を限定しない大きな空間をまずつくっておき、いくつかの部屋に間仕切ることもできる自由度をもたせています。

建て主さんとの関係の中で一棟ずつ、
長く住んでもらえる家をつくっていく。

伝統構法の家づくりは、建て主との関わりの中ではじめてできるものだと思っています。「建売り」というがありえない世界なんですね。住む方も「飽きたら変えればいいや」というよりは、一生住むもの、あるいは次の世代にも渡したいと思っている方が多いですね。

お互いが「長持ちする家にしよう」という気持ちで家づくりに臨んでいれば、職人の方でも、かけるべきところは手間をきちんとかけるということを惜しまない仕事をしよう、となります。住む方も「メンテナンスしながら、大事に住み続けよう」という気持ちになりますよね。

伝統構法って石場立て、差鴨居といった「技術的な体系」ということだけでなく、「この家族が長く住める家をつくろう/任せてつくってもらおう」という建て主と大工の信頼関係、「一本一本の木を活かしきろう」という大工と木の関係、「愛着をもって、大事にしよう」という建て主と木の家の関係の総体なんですね。

木の家に気持ちよく住みたい。そのことが環境を守ることにつながるのであれば、なお、うれしい。そういう感覚の建て主さんが多いです。特別なことで伝統構法を選んでいるわけではない。ここにそれにこたえることができる家づくりがある、それは昔から日本の職人がやってきたことなんだ、ということを、みなさんにも広く知っていただきたいです。

「木を使った家に、気を使いながら長く住む」というすばらしい日本の木の家づくりを未来にもつなげていけるように、がんばりたいと思います。


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