御杣始祭の翌日に伐採をした山近くの上松町内で行われた「御木曳き」の行事。
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伊勢神宮遷宮・御杣始祭り:300年の大木を伐る!


千三百年変わらぬ大工の技、 そして始まりは木を伐ること

世代を超えたつながり

伐採の日の夜。山から里に下りての「化粧がけ」作業が続く。木口に菊の紋をあしらって面取りする。

伊勢神宮の式年遷宮は日本の国が常に若々しく発展し続けるようにという神道の祈りに根ざしている。内宮や外宮は1300年間、変わらぬ姿を保ち続けてきた。私たちは1000年以上も前の人と同じ姿を見ることができる。そのような建築物はほかに例がない。

樹皮を剥ぎ、ノミで目印の文字を彫る。

姿形が変わらないというのは、それを建てる技が何世代もの大工たちによって変わらずに受け継がれてきたからにほかならない。20年は人の一世代より短く、ひとりの大工がその人生において2回、あるいは3回の式年遷宮に携わることができる。技を体得した大工から次の世代の大工へ。先達と後進とがともに働きながら技の系譜をつむいできた。

「太一」は伊勢神宮の御料であることを、「南」は木が立っていた方角をあらわしている。

そうやって人の手を経て受け継がれてきたものは私たちのまわりもたくさんある。米のつくり方、味噌の仕込み方、箸の使い方、「おばあちゃんの知恵」と呼ばれる日常生活のちょっとした工夫・・・。先人たちの知恵を次の世代が受け継いできたからこそ、私たちはそれを使うことができる。生活文化とは「世代を超えたつながり」でもたらされたものなのだ。

長く大切に木を使う

化粧がけがすっかり整い、特別あつらえの台車に吊り込まれる御神木。

木を使うためには木を伐らなければならない。式年遷宮もそれは同じ。杣夫が斧を振るって大木を伐り倒す御杣始祭は、自然の恵みをいただくための一部始終が展開されたものと思えばいい。木の命を無駄にしないため、大工は一本一本の個性を見抜き、それを最大限に生かして使う。そうやって建てられる木の住まい。私たちは少なくともその木が山で育ったのと同じくらいの年月は住み続けたい。

一夜明けて。「香りも高き木曽ヒノキ、大樹の幹を伊勢様へ、送り届けりゃ木曽びとは、山の誇りもいや高く~」という木遣り歌に合わせて。御神木を曳きまわして練り歩く。

伊勢神宮では式年遷宮で正殿や別宮に使った木を、概ね40年周期で建て替えられる他の宮社で再利用している。さらにそれらの木は各地のゆかりある神社で再び利用されていく。

長く使い、繰り返して使う。その間に、山では次の世代の木が育まれていく。そのようなめぐりの輪をきちんと結んでいけば、人と木との関係が途絶えることはない。


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伐った木からとった梢を切株に挿す。次世代の木が健やかに育つようにという杣人たちの願いが込められる。