木っ端を飛ばして斧で伐る。 所要時間は1時間超!
木曽林業の伝統と誇り
三方から斧を入れる「三ツ紐伐り」(「三ツ尾伐り」「三つ緒伐り」とも言う)。7人が交替で斧を振るう。内宮用の御神木は、地元の「三ツ紐伐り保存会」が伐採した。
御神木の伐採は伝統を重んじ、チェーンソーが普及した今も斧を使った手作業で行われる。伐り方は貴重な木を伐り倒すときの伝統的な技、「三ツ紐伐り」。幹の三方から斧を打ち込み、あらかじめ木の中心部分をくりぬいてしまう方法で、狙った場所に正確に倒すことができ、木が芯から裂けるのも防げる。
左/三方から幹の中心をくりぬく。幹の外周部に3本の「ツル」が残る。倒す反対側のツルを切り放つと、木が倒れる 右/倒したい方向に受け口をつくり、逆側から追い口を入れて伐り倒す。
ところが斧による伐採が行われなくなった今、20年に1度しか本番がないのでは放っておくとこの技も廃れてしまう。そこで今回、木曽では三ツ紐伐り保存会が結成され、この日に向けて練習が重ねられてきた。メンバーには20?30代の若手も混じる。今後は彼らが御杣山を抱く木曽林業の誇りを担っていく。
300年の香りが漂うなかで
内宮用の御神木が倒された。
いよいよ伐採作業。約300人の参列者が見守るなか、杣夫が斧を振り下ろすたびに「カーン」という音が響き、木っ端がはぜる。が、作業はなかなかはかどらない。300年間に育まれた年輪の層は強固で、杣夫の斧を力強く跳ね返そうとしているようにさえ見える。それでも次第にあたりにはヒノキ独特の芳香が立ち込めてきた。樹木であるときには木目に仕舞いこまれていた木の香り。長い時間をかけて形成された木部が放つ、その強く香ばしい匂いはしっとりと目にさえ沁みるようで、御神木が樹木から木材へと姿を変えつつあることをまざまざと感じさせた。
続いて外宮用の御神木も倒された。こちらの伐採は、伊勢神宮の式年造営庁による。
最後の伐倒準備が整ったのは作業開始から1時間が経過したころ。まず内宮の御神木が倒される。杣頭が「いよいよ寝るぞ?」と声をかけて斧を振り下ろす。何度目かに斧が振り下ろされたとき、それまで身じろぎもしなかった御神木が「ギイィ」と音を立てて傾き、さらに斧が振るわれると傾きを増し、「ズシン」と地響きを立てて倒れた。静まり返っていた参列者がどよめく。続いて外宮の御神木も同じように倒された。狙い通り、2本の木は先端を交叉させ、長々と横たわっていた。